イベントレポート

自動車産業に訪れる100年に一度の大変革。ブロックチェーンが生き残り戦略の1つ

世界の自動車メーカー70%が加盟する合弁会社MOBI深尾氏が業界の未来を語る

MOBIとQuantstampは7月16日、東京都内のコワーキングスペースNeutrinoにて、ミートアップイベントを開催した。本稿では、イベントからMOBIが取り組むブロックチェーン×モビリティの領域の現状と課題を紹介する。そして、昨今各社が注力する電気自動車の開発と生産について、その背景と目指す将来像を解説していく。

Mobility Open Blockchain Initiative(MOBI)は、ブロックチェーンを活用して自動車を中心としたモビリティの課題解決に取り組む業界団体。今回MOBIの紹介を行った深尾三四郎氏はMOBIのアドバイザーを務める。各国で開かれるMOBIのカンファレンスで登壇するほか、日本のコミュニティリードとして日本企業向けにMOBIの取り組みを紹介し、加入を勧めるという業務を行っている。

MOBI・アドバイザーの深尾三四郎氏

MOBIは2018年5月に自動車メーカーと自動車部品メーカーが中心となって立ち上げた。ブロックチェーンや分散台帳技術によってモビリティサービスをより効率的で安価にし、環境に優しく、かつ安全にすることを目標に掲げる。現在自動車産業全体の70%をカバーする大規模な組織となっている。

MOBIにはフォードやゼネラルモーターズ、BMWといった大手自動車メーカーが加入しており、2019年5月にはホンダが加入した。部品メーカーとしてはデンソーやボッシュなどが名を連ね、IBM、アクセンチュア、ConsenSysをはじめとしたテック企業も複数社が参画している。ブロックチェーン基盤を提供するHyperledger、R3、IOTA、Tezosもそのメンバーだ。

業界の有力企業が集まるMOBIでは、いくつかのワーキンググループが設けられ、研究が進められている。スマートグリッド下での電気自動車の活用や、シェアリングにおける保証とセキュリティなどのテーマが紹介された。また、スマートシティにおけるモビリティの高度化を掲げ、MOBI Grand Challengeという地域実験の取り組みも実施している。現在フェーズ2の実施に向け世界中から広く企画を募っている段階であり、実証実験に向けて選考を兼ねたハッカソンを実施予定だ。

【Announcing MOBI Grand Challenge Phase II - CITOPIA】

なぜ今EVなのか?

今自動車業界は「100年に一度の大変革」のただ中にあるという。時代・世代・社会という3つのメガトレンドがそろって変革を起こしているのだ。ミレニアル世代とポストミレニアル世代を合わせた世界人口に対する割合は過半数を超え、デジタルネイティブな若い世代が中心となっている。人口は都市部へ集中し、社会はデジタル化を進めている。こうした中でどうやって生き残っていくのかが自動車メーカーにおける議論の中心になっているという。

自動車産業は元来から規模の不経済性という性質を持ち、自動車を増産すればするほど経済性が落ちるというジレンマがある。大量生産で自動車が普及すれば、その販売価格そのものが低下する。一方、大量生産で1台あたりの生産コストは下がるが、一定を超えると、品質管理や開発コスト、販売奨励金の兼ね合いで逆にコストが増加し始めるのだ。

規模の不経済を軽減するためには、減産すれば良い。ゼネラルモーターズが実施したレイオフや、ホンダや日産における減産もその一環だ。結果として、一貫して増産を続けてきた自動車産業も、2018年には全体で3%の減産となった。ほかには付加価値をつけて車の単価を上げるだとか、3Dプリンターの導入で金型の費用を抑えるなどの方策があるという。

規模の不経済性の構図から完全に脱却するための方策も検討されている。それこそがMOBIの目指すところであり、その鍵となるのが電気自動車(EV)だ。昨今、世間を見渡してもEVの話題が尽きる日はなく、国内の自動車メーカーもこぞってEVの開発・普及に取り組んでいる段階だ。

EVの普及とその先の未来

EVの普及の先にあるものが、サービスとして提供されるモビリティ(MaaS)によるエコシステムの実現である。EVの普及が進めば、それらをネットワークに接続(Connect)して、運行を自動化(Autonomous)、消費するエネルギーを電力(Electric)へと一元化できる。これらをプラットフォームに乗せ、複数の人々が共有(Shared)できるようにする。これらの頭文字を取ってCASEと呼ばれる次の時代の自動車が定義される。それはつまり、自動運行されるバスやタクシーといった世界観だ。

CASEにおける重要な基盤として注目されるのがブロックチェーンだ。ブロックチェーンを用いて自動車の運行状況やユーザーの利用状況を記録していくことで、自動車の稼働率などを細かに分析することが可能となる。EV用の電気スタンド網の共同運用にも、ブロックチェーンが有効と言われる。CASEにおける、接続・自動化・共有・電化にまたがるすべての領域でブロックチェーンが効力を発揮するだろう。

MOBIの活動に戻って、MOBIは先述のMOBI Grand Challengeの第1弾としてイタリア・ボローニャ市で実証実験を行った。この実験ではブロックチェーンはまだ導入していなかったが、アプリにゲーム理論を取り入れることで人々のモビリティが上がるかということを検証した。仕組みとしては自転車などのエコな交通手段を使った人に地域通貨を与える。その地域通貨を使って軽食などのサービスがを受けられるというものだ。移動することに意義を与えることで、特定の交通手段の稼働率を上げられることを確認したという。

現在、MOBIは次の実証実験に向けてハッカソンを実施する予定だ。Citopia(サイトピア)と呼ばれるハッカソンは、スマートシティの中でどうやってモビリティを高めていくかということを検討する。ハッカソンの結果は11月にMOBIがロサンゼルスで開催を予定しているカンファレンス「Colloquium」(コロキアム)で発表する予定で、深尾氏も審査に加わる。現在世界中からの応募を受け付けており、特に各国の地方自治体が関心を寄せているとのこと。

日下 弘樹