イベントレポート

中部電力、社内の草の根活動からブロックチェーン事業を立ち上げ

Mirai Salon #8- ブロックチェーンによる新規事業開発

 6月6日に開催されたイベント「Mirai Salon #8- ブロックチェーンによる新規事業開発」(主催:アドライト、共催・協力:EGG JAPAN(三菱地所))では、スタートアップ企業のALIS、大企業の中部電力と富士通、クラウドサービス提供企業のアマゾンウェブサービスジャパンがブロックチェーンへの取り組みを報告した。新しい事業領域に挑戦する各社の取り組みを個別記事で紹介する。

 中部電力は、ブロックチェーンと電力流通を組み合わせた取り組みを進めている。その社内ムーブメントがどのように醸成されたのかを、イベントに登壇した中部電力・ICT戦略室・技術経営戦略担当・戸本 裕太郎氏が語った。

中部電力の戸本 裕太郎氏

 2016年末、戸本氏らは社内で「スマートグリッドにおける電力流通とブロックチェーンの接続」についてプレゼンテーションを行った。反応は薄かった。1年後、米エネルギー企業のLO3 Energyが、世界初のブロックチェーンマイクログリッドを構築してニュースになった。同社内でも大きな反響があった。それを見た戸本氏は「1年前のプレゼンと同じ話じゃん!」と感じ、悔しく思ったそうだ。

2016年にブロックチェーンへの取り組みを紹介したが反応は薄かった

 「どうにかしたい」と考えた戸本氏は、まず小さなプロダクトを作って社内で見せることを始めた。後輩と2人で2週間をかけ、MVP(顧客に価値を提供できる最小限の製品)を構築した。作ったものは、仮想通貨を送金できるウォレットの一種だ。技術として、AWS(Amazon Web Services)、オープンソースのブロックチェーン技術である「MultiChain」、モバイルアプリ向けフレームワーク「Ionic」、JavaScriptによるフロントエンド向けフレームワーク「AngularJS」などを活用した。

2人×2週間でMVP(顧客に価値を提供できる最小限の製品)を開発、社内で使ってもらった

 ここで作ったプロダクトを社内イベントに出展し、来場者に2分間だけ説明を聞いてもらうことを繰り返した。社内カフェでも使ってもらった。その結果、社内でブロックチェーン技術への関心が高まってきた。「この技術を電力の売買に使うと何ができるのか、みんなが考え始めた。特に社長に強い関心を持ってもらった」と戸本氏は語る。

社内イベントで自作プロダクトを使ってもらった
社内で急速にブロックチェーンへの関心が高まった

 電力業界では、マイクログリッド(分散型の電力供給システム)、EV(電気自動車)の活用、VPP(Virtual Power Plant、分散したリソースを統合制御して1つの仮想的な発電所のように機能させるシステム)のような新しい電力の流通形態への関心が高まっている。そして、ブロックチェーン技術は「信頼できる第三者機関」の役割をより低コストで実現でき、メリットがあると考える人が増えている。戸本氏は、そのようなトレンドを説明するのではなく、プロダクトを作って使ってもらうアプローチを取り、ムーブメントに結びつけた。

 こうした社内の機運の盛り上がりから、具体的な取り組みが登場している。それが2018年3月に公開デモンストレーションを実施した「ブロックチェーンによるマンションEV充電システムの検証」プロジェクトである。デモンストレーションでは、スマートコンセントを活用してビットコインにより充電の権利を購入する様子を見せた(プレスリリース:ブロックチェーンを使った電気自動車等の充電に係る新サービスの実証実験の実施について)。決済にはビットコインのブロックチェーン、およびビットコイン上で動くLightning Networkの両方を動かした。

マンションEV充電システムの検証事例

 そして今、中部電力では、ブロックチェーンを活用したプロジェクトが複数進んでいる。実証実験に留まらず、顧客に価値を提供するサービスに挑む。中部電力では、ブロックチェーン技術に関する知見、ノウハウを早い段階で蓄積できた。電力流通の巨大な変化に対応するうえで、ブロックチェーン技術は強力な武器となる可能性があるだろう。

星 暁雄

フリーランスITジャーナリスト。最近はブロックチェーン技術と暗号通貨/仮想通貨分野に物書きとして関心を持つ。書いてきた分野はUNIX、半導体、オブジェクト指向言語、Javaテクノロジー、エンタープライズシステム、Android、クラウドサービスなど。イノベーティブなテクノロジーの取材が好物。