イベントレポート

イタンジ、国交省主導の社会実験に向け不動産の電子契約サービスを提供開始

企業間のデータ共有基盤としてIBMクラウド上のHyperledger Fabricを採用

イタンジ株式会社は7月24日、ブロックチェーンを活用した電子契約サービス「電子契約くん」の提供を開始した。同サービスは、不動産関連の電子契約を扱う。同社はすでに物件確認や内見予約、申込といった部分の電子化サービスを提供している。今回契約部分を電子化することで、スマホアプリ上から賃貸の内見から申込、契約、更新までを一貫して行えるサービスを提供する。仲介業者の店舗に立ち寄ることなく、ハンコも使わずにすべてオンラインで完結する賃貸サービスの実現を目指す。

電子契約くんのイメージ図。ユーザーはアップロードされたPDF形式の契約書を確認し、オンラインで契約を完了できる

今回の発表に際し、記者発表会が開かれた。会の冒頭で、発表のタイミングがかぶってしまったと苦笑するイタンジ株式会社・代表取締役の野口真平氏。ちょうど昨日23日、住友商事とbitFlyer子会社が不動産領域で共同開発を進めていくと発表していたのだ。賃貸契約の電子化は、国土交通省が推進する分野であり、社会実験を実施することが7月に発表された。そうした背景もあって、不動産業に関わる各社が力を入れ、新事業の発表が重なる時期となっているようだ。

イタンジ株式会社・代表取締役の野口真平氏。イタンジ(ITANDI)はIT AND INNOVATIONを意味する

「電子契約くん」は、先述の国土交通省が10月1日より開始する社会実験「賃貸契約における重要事項説明書等の電磁的方法による交付」に対応することを掲げる。現在、宅地建物取引業法の35条、37条により賃貸契約は書面で契約することが定められている。同サービスは社会実験に合わせ、10月1日から賃貸契約の電子化に対応する予定だ。今回の提供開始時点では、駐車場など書面契約の義務がない契約の電子化に対応するとのこと。

電子契約くん自体は書面契約を電子化するというものだが、同社がすでにサービスを展開している賃貸関連の電子化サービスCloud ChintAIと連携する。Cloud ChintAIは、ぶっかくん・内見予約くん・申込受付くん・電子契約くんからなり、それぞれその名前が示す賃貸契約における段階を電子化している。これらをまとめると、一般利用者はアプリを経由して、内見から賃貸契約、更新に至るまでを仲介業者の店舗に一度も来店せず、ハンコなしで行えるようになるというサービスになる。

さらに外部サービスとの連携も行う。電子契約くんの「ハンコなし」という部分では、弁護士ドットコム株式会社が提供するハンコの電子化サービス「クラウドサイン」と連携する。同サービスは5万社以上への導入実績があり、すでに利用している企業はクラウドサイン上に登録した電子契約用のデータを、電子契約くんのサービスでも使うことができるという。

企業間共有データベースとしてブロックチェーンを採用

賃貸契約には仲介会社以外にも保険会社など複数社が関わることとなる。これらの業務上のデータ共有のために、ブロックチェーンを採用していると野口氏は話した。現時点でCloud ChintAIの電子化サービスには数百社が関わっており、この規模がさらに増加した際、従来のデータベースでは1社1社事業契約を行っていく必要がある。関連企業間でコンソーシアム化し、ブロックチェーンでデータを管理することで、それぞれが事業契約を結ぶことなくデータの共有が行えるわけだ。

また、リアルタイムに情報共有を行うため、物件データベースを常に最新に保つことができる。昨今、既に入居済みの物件が掲載されたまま放置される「おとり物件」が問題視されているが、これをゼロにする狙いもあるという。

電子契約くんのサービス概略図

電子契約くんのブロックチェーン実装部分について、開発を統括する中村氏にお話を伺った。同サービスは、IBMのクラウドで提供されるHyperledger Fabricをベースにしている。Hyperledger Fabricでは、関係企業間で閲覧できるデータなどを細かく制限することができる。機密情報を扱い、複数社が関わる不動産のケースでは特に有効だ。

イタンジ株式会社・開発部門の中村友拓氏

不動産の電子契約では、秒間数千件のような大量のトランザクションが発生することはない。スケーラビリティについて、「現状のシステムで、10月実施の社会実験に十分に対応できる」(中村氏)という自信を示した。また、利用者数が大幅に増えた際の対応についても検討しており、データベースを外部参照型に移行するなどの方策があるという。

Cloud ChintAIとしては、すでに不動産管理会社の450の拠点が同サービスを導入している。野口氏は「不動産関連の電子化という領域で将来的に生き残れるのは1社か2社である」と述べ、シェアの獲得を最優先するために、同サービスの初期導入費用を10月1日までの期間0円で提供することを発表した。さらに店舗非経由の内見を早期に実現するために、スマートロックを10万点確保し無償提供も行っていくとのこと。

イタンジ・中村氏(写真左)、同社代表取締役の野口氏(写真中)、弁護士ドットコム・取締役の橘氏(写真右)

日下 弘樹