イベントレポート

不動産×ブロックチェーン。壁は「法律」「認識」「保守」

技術・不動産・法律の各専門家らによるパネルディスカッション

不動産領域のイノベーションに取り組むスタートアップ向けコミュニティPropTech JAPANは7月18日、第10回目となるミートアップイベントを開催した。今回のテーマは不動産×ブロックチェーン。本稿では下記登壇者らによる、不動産領域におけるブロックチェーンの活用を論じたパネルディスカッションの模様をまとめる。

パネルディスカッションの様子(写真左から、宇野氏、成本氏、松坂氏、山田氏、西村氏)

    【パネリスト】
  • 株式会社BUIDL Vice President 宇野 雅晴氏
    BUIDLはブロックチェーンの技術開発や分析を行っているスタートアップ。今回はブロックチェーンの専門家としての知見を提供する。
  • TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 成本 治男氏
    ファイナンス分野・不動産分野を専門に扱う弁護士。パネル前のセッションではセキュリティトークンについて解説を行った。
  • 株式会社LIFULL ブロックチェーン推進グループ長/株式会社LIFULL Social Funding取締役 松坂 維大氏
    「ブロックチェーン×不動産」の情報共有コンソーシアム「ADRE」を立ち上げ不動産のトークン化プロジェクトを推進中。
  • SBI R3 Japan株式会社 ビジネス開発部 山田 宗俊氏
    R3社が開発するエンタープライズ向けブロックチェーンCordaの国内における第一人者。今回は宇野氏同様ブロックチェーンの専門家として討論に参加する。

    【司会進行】
  • 株式会社マネーパートナーズ社長室長/日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)広報部会長 西村 依希子氏

Why Blockchain in 不動産

西村氏:「ブロックチェーンは良い技術に見えますが本当ですか?」という質問は私もよく聞く。不動産領域でブロックチェーンの活用を目指す理由とは、ブロックチェーンでしかできない不動産の活用事例は?

松坂氏:現状、ブロックチェーンでしか実現できないものは、デジタルで完結するビットコインみたいなものになる。不動産だと、どうしてもリアルアセットが絡んでくる。そうなると、ブロックチェーンじゃないと不可能というものはないと思っている。一方、不動産に関わる手続きなどにおける「効率化」という観点では大いに可能性がある。国内では実際の事例がまだないが、目下取り組んでいるところだ。

株式会社LIFULL ブロックチェーン推進グループ長/株式会社LIFULL Social Funding取締役 松坂 維大氏

宇野氏:ブロックチェーンにしかできないことは基本的にない。活用にあたっては、「(他の技術よりも)ブロックチェーンのほうが良い」ということを考える。不動産領域でブロックチェーンの活用と言うと、大体が所有権の移転かセキュリティトークンの話だ。これも新興国か先進国かで取り組み方が全然違う。現状の問題点としては、ペーパーワークをすればするほど偽造などの問題が起こるということだ。いかに電子化してそういった問題を防ぐかということを目指すことになる。

ブロックチェーンでしかできない活用事例としては、やはり所有権の移転やセキュリティトークン。たとえばスイスではスイスフランにペッグされたステーブルコインがある。それを使って不動産取引を行うという取り組みが行われている。ほかにもフランスではブロックチェーン上での不動産取引が成立していたり、アメリカでは分散型不動産マーケットが開いていたりと、さまざまなプロジェクトがある。

株式会社BUIDL Vice President 宇野 雅晴氏

すべての情報を透明化すると弊害もある

西村氏:以前私が住んでいた部屋で、私が引っ越した後のことだが心霊現象が起きたという話があった。もし入居歴がブロックチェーンに記録されていたら、優良でない物件に住んでいたことも永久に記録され、その透明性が担保されてしまうのは主観的に良い気分ではない。そうしたデメリットも踏まえて、透明性という観点で不動産に生かせることはあるだろうか?

株式会社マネーパートナーズ社長室長/日本仮想通貨ビジネス協会(JCBA)広報部会長 西村 依希子氏

山田氏:日本では地震が多い。災害で建物に被害が出ると保険の話になる。マンションなど大きい建物では、関わる保険会社もさまざまだ。建物に被害が出れば、いろんな保険会社がそこに来て調査するということになる。すると、同じ調査結果が何個も出るのだ。別々の会社の調査員が同じ作業をして、同じ結果を別々に記録するという無駄が生じる。ここで、調査員同士が情報を共有していれば業務を効率化することができる。このように、ブロックチェーンを使ってすべてを透明化するというよりは、必要な範囲で情報を共有できるようにする方が現実的だと思う。

証券を電子化するセキュリティトークン。そのデメリット

西村氏:STOで不動産の権利を細分化するとさまざまなメリットがあるというのは分かる。逆にデメリットはないのか?

成本氏:単純に小口化すると資金調達しやすくなるというのが分かりやすいメリット。だが、地方の建物にそこまで利回りがあるのかという問題もある。利回りを生み出すためには付加価値をつける必要があるが、それにもコストがかかる。

デメリットといえば、それなりに歴史を刻んでいる「クラウドファンディング」という仕組みでさえ、未だに怪しいと思う人が多いのが現状。地方にいけばなおさらだ。ましてやセキュリティトークンとなると素直に受け入れる人がどれだけいるだろうか。この不信感がデメリットと言えるだろう。

TMI総合法律事務所 パートナー弁護士 成本 治男氏

不動産へのブロックチェーン適用を阻むものとは

西村氏:不動産領域でブロックチェーンを社会実装していくにあたって、ブレイクスルーしなければならないものは何か?

宇野氏:法律。何をするにしても必ず法律が壁になってくる。たとえば登記にブロックチェーンを用いるにしても法務局が関わってくる。どんな仕組みを作っても、政府を巻き込まないとどうにもならない。法律が敵と言うより、法律を変えていかなければいけないと思う。

成本氏:不動産クラウドファンディングのためにライセンスを取るのに、下手をすると2年ぐらいかかる。こうした面では法律がイノベーションの足を引っ張っているとは感じる。一方、厳しく制限することで変な人が入ってこないというのは、ある意味メリットだ。

日本の不動産領域は仕組みとして出来上がった状態にある。その中で一度に関連するすべての法律を変えていくというのは非常に難しい。ある条文を変えたら関連する法令も変える必要があるとか、慎重に考えていかなければならず、どうしても時間はかかる。

松坂氏:我々も当局と話したりするが、ブロックチェーンで結局何をしたいのかというところをきっちり決めていかないと当局側も動きようがない。議論の中で、当局側は視点が違うと感じることもある。しかし、そうした議論を繰り返して認識を擦り合せていくことが必要な段階だと思う。

山田氏:ブロックチェーンの採用を阻んでいるのは、保守性だ。多くの日本企業は、何かやるにしても考えるところから始める。一般的にPoCは数か月から長くても半年でやるが、日本だとそれをやるかどうかに半年間検討を重ねている。この考える期間を乗り越えて、PoCを行ったとしても多くは「この事業一社でやっても意味がない」と結論づける。そういった各社が持つ意識を変え、コンソーシアムで多くの会社を巻き込んで進めていくことが必要だと思う。

SBI R3 Japan株式会社 ビジネス開発部 山田 宗俊氏

まとめ

不動産×ブロックチェーンと言えば登記の電子化などに代表される「所有権の移転」、または既存の証券の電子化という文脈での「セキュリティトークン」の2択というのが現状だ。一方で実を結んではいないのものの、不動産業における書類のやり取りを効率化といった話も、国交省の社会実験発表も相まって7月に入って活発になっており、ブロックチェーンを活用する事業者も複数いる。不動産領域はブロックチェーンによる改革の余地が大いにある分野と言えるだろう。

日下 弘樹