イベントレポート

2020年には仮想通貨交換所でもオンライン本人確認が始まる

住信SBIネット銀行にeKYC基盤を提供するLiquid社が仕組みを解説

株式会社Liquid・最高営業責任者の保科秀之氏

一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は7月30日、リスク管理部会を開催した。今回は住信SBIネット銀行のWEB本人確認システム(eKYC)を開発した株式会社Liquid・最高営業責任者の保科秀之氏が登壇。昨今、メルペイやLINE Payなどのサービスでも実装されていることから知名度を上げているeKYCという仕組みがある。どのような法律に基づいて、どういった仕組みで実装されているのかということを保科氏が解説した。

LiquidはeKYCのプラットフォームLIQUID eKYCを開発。2019年7月1日より住信SBIネット銀行のeKYCシステムとして提供を開始した。今後複数の金融機関や仮想通貨交換所などへの採用が決定しており、2020年4月までに16社が同基盤を用いたサービスを発表・提供予定とのこと。保科氏は、仮想通貨交換所に関しては現在1社が導入を決定済みであり、2020年内には提供を開始する予定だと話した。

文脈上誤解を招く恐れがあるため補足すると、株式会社Liquidは、仮想通貨交換所Liquid by QUOINEとは無関係の企業である。Liquid社のシステムを導入予定の仮想通貨交換所については、具体的な名称は現時点では明かされていない。

住信SBIネット銀行は7月1日よりLiquidのシステムを導入しeKYCを開始した。当初の想定より2倍多いユーザーがeKYCで登録しているという(住信SBIネット銀行 公式サイトより引用)

eKYCのやり方は法律で決まっている

仮想通貨交換所を利用したことがある方はKYCをご存じだろう。Known Your Customersの頭文字を取ったもので、事業者による本人確認を意味する。eKYCは読んで字のごとく、本人確認を紙面でなく電子的な書類提出で行おうというものだ。

現在法律上実現可能なeKYCの定義は、2018年11月30日改正の犯罪収益移転防止法(犯収法)第6条第1項に記載されている。昨今各社が実現した、あるいは実現に向けて取り組んでるのは、この中のホで定義されるeKYCの仕組みだという。

犯収法第6条第1項第1号ホの内容を要約すると、「特定事業者が提供するソフトウェアを使用して、顧客(本人)の容貌(顔)画像と写真付き本人確認書類の画像の送信を受け、確認を行う」という仕組みになる。

さらに同法について金融庁がパブリックコメントを発行し、補足している。まとめると、eKYCにおいては以下のような要素をすべて満たすシステムが必要になる。特に課題となるのは書類の厚みを確認する方法とランダム性だ。

  • 画像が加工されないこと
  • 顔写真や本人確認書類の写真が鮮明であること
  • 撮影直後に送信されたものであること
  • 書類の厚みを確認でき、撮影されたそれぞれが同一の書類であることを保証し、検証できること
  • 撮影時にランダムなポーズの要求などを行い、実物が撮影されたことを保証すること

実用化が始まったeKYCではスマホで免許証を撮影していく

保科氏はLiquidが提供するeKYC基盤の機能を紹介するにあたって、先んじてeKYCを実装した北陸銀行、メルペイ、LINE Payの事例を挙げた。いずれもアプリをベースにしたシステムである。株式会社メルカリが動画でメルペイにおけるeKYCの仕様を説明しているので、eKYCの具体的なイメージについては下記をご覧頂くのが早いだろう。

【メルペイ「アプリでかんたん本人確認」の撮影方法の紹介【メルカリ公式】】
メルペイのeKYC手順を示した公式動画

例えばメルペイでは、eKYC時に本人確認書類として免許証を用意し、アプリの指示に従って撮影を行い、本人確認を進めていく。およそ4分程度の作業となる。自撮り時の顔の傾け方や首の振りなどがランダムに指示され、実物の撮影であることを保証する。書類の厚みついては動画による撮影を用いる仕組みだ。

保科氏はLIQUID eKYCを用いて本人確認の申請を行う手順を実演した。写真から対象がはみ出した場合や写りが悪い場合などにはソフトウェアが自動的に判定し、取り直しを要求する様子などが確認できた。撮影自体は免許証の表・裏・斜め上に加えて、自身の顔写真数枚を撮影することとなり、順調にいけば3分程度で終わるようだ。

LIQUID eKYCの実演の様子。免許証を立てて斜め上から撮影することで厚みを確認する
ソフトウェアが写真の白飛びを検出しエラーとなった。ほかにも枠内に収まっていない、手ぶれしている、画像が小さい・暗いといった場合にも自動的に判定し、NGの場合撮り直しを要求する

先行事例はすべてスマホアプリをベースにした仕組みであるがLIQUID eKYCはWebベースのシステムとなる。APIを利用して簡単に既存サービスに組み込むことができるのが強みだという。現在はスマートフォンのみに対応しており、ブラウザから端末のカメラにアクセスし制御することで実現している。

メルペイのeKYCと同様に、画面の指示に従って撮影を進めていくが、撮影した写真のNG判定を画像処理で行っており、「提出された写真が粗い」などの理由で再提出となるロスを削減することができる。また、動画撮影を用いないため作業時間が比較的短くデータ量が小さいという特長も持つ。

プラットフォームとして提供されるLIQUID eKYCは、ユーザーによる本人確認書類の提出から、その偽造に対する検証の機能も付属している。書類と登録住所の合致や、有効期限、生年月日などは自動で検証することができるほか、ブラックリストとの照合なども自動化するという。

まとめ

仮想通貨交換所での口座開設時に行う郵送によるKYCはかなり面倒だ。勤務時間の関係で書類の受け取りが難しいなど、開設がなかなか進まないという話もよく耳にする。eKYCによって事業者側、ユーザー側いずれも時間的・金銭的コストを軽減できるのは歓迎すべきところだ。

今回のLiquidの例で言うと仮想通貨交換所もちろん、証券会社やクレジットカード会社、シェアリングエコノミー事業者など、厳格な本人確認を要求する広い領域で提供される予定だという。今後その仕組みに触れる機会も増えていくことだろう。

お詫びと訂正: 記事初出時、人名に誤りがございました。お詫びして訂正させていただきます。

日下 弘樹