イベントレポート

日本オラクルが示すエンタープライズブロックチェーン4つの課題

「不要な学習時間を省けばサービス開発に集中できる」

日本オラクルが8月7日、東京のグランドプリンスホテル新高輪で開催した「Oracle Modern Cloud Day Tokyo」で、同社の中村岳氏がブロックチェーンの統合プラットフォーム「Oracle Blockchain Platform」について紹介した。

同氏はエンタープライズブロックチェーンにおける「典型的な4つの課題」を示し、その解決策として「BaaS(Blockchain as a Service)」の利用を提案する。

Oracle Blockchain Platformについて説明したのは、日本オラクル・クラウド事業戦略統括クラウドプラットフォームソリューション部の中村岳氏

エンタープライズブロックチェーンで壁となる4つの課題

仮想通貨から始まったブロックチェーンは、サプライチェーンを筆頭にさまざまなユースケースが増えており、その用途も広がりを見せている。中村氏は「企業の相談を受けたりプロジェクトをサポートしたりするなかで、典型的な課題が見えてきた」と説明し、企業がブロックチェーンに取り組む際の課題として次の4点を挙げた。

  • ブロックチェーン基盤の適切な選定
  • システム化実現への迅速性
  • アプリケーションとデータのインテグレーション
  • 独特な技術特性への対応
企業がブロックチェーンに取り組む際の4つの課題

1つめの課題は、どのブロックチェーン基盤を選定するかということだ。ブロックチェーン基盤には大きく分けてBitcoinやEthereumなどのパブリックチェーンと、Hyperledger Fabricなどのプライベートあるいはコンソーシアムチェーンがある。中村氏は「どちらが優れているということはなくユースケース次第だが、エンタープライズではプライベートかコンソーシアムを利用するケースが多い」と説明する。

「複数の基盤を並行して検証したり、直前で別の基盤に切り替えたりすることは困難です。正論の解決法としては主要な基盤を学習して選ぶことですが、これも現実的には難しいでしょう。似たユースケースの実績を見て、何を使っているのかを調べて参考にするのがいいと思います。その際は機能面だけでなく、開発体制やドキュメント、自組織の対応要員なども含めて総合的な判断が必要です」(中村氏)

主要なブロックチェーン基盤。中村氏は「ほかにも選択肢は30くらいある」という

2つめは実装の迅速性だ。企業でブロックチェーン基盤を導入する際はアプリケーションやスマートコントラクトの開発が必要になる。基盤も含めてイチから学習するのはハードルが高く多くのコストがかかる。そこで中村氏は「BaaS(Blockchain as a Service)」の利用を提案する。同氏は「学習することが障害になるなら、減らせばいい。基盤一式をサービスとして利用すれば、不要な学習時間を省いてサービスの開発に集中できる」と説明する。

3つめはアプリケーションとデータのインテグレーションだ。エンタープライズブロックチェーンは、ほとんどの場合で既存システムとの連携が必要になる。特にデータを既存システムと連携するためには、データベースの存在が欠かせない。最初からこうしたインテグレーションを見越した設計が必要になるわけだ。

既存のシステムとのインテグレーションも見越した設計が必要

最後の課題は、ブロックチェーンの従来と異なる独特の技術特性への対応だ。ブロックチェーンには、台帳データが運用とともに増加していくという特徴がある。最初は良くても、将来的にどうなるのかまで考えた設計が必要だ。ほかにもオンチェーンのデータは集計や分析などのバッチ処理が苦手なこと、パブリックチェーンではトランザクションを確定するファイナリティが取れないことなどの特性を理解しておく必要がある。

課題を解決するBaaS「Oracle Blockchain Platform」

これらの課題を解決する方法の1つがOracle Blockchain Platformだ。同プラットフォームはエンタープライズ領域での利用実績が多数あるHyperledger Fabricをベースにしており、数ステップでブロックチェーン基盤の構築が完了する。

中村氏は、同プラットフォームには「さらに付加価値がある」と説明する。1つはRESTプロキシーだ。通常スマートコントラクトなどのアプリケーションを開発するには、エンジニアがHyperledger Fabricに習熟していなければならない。同プラットフォームなら、WebエンジニアがREST APIを呼び出すだけでアプリケーションの作成が可能になる。

もう1つは、ブロックチェーンの台帳データを外部のリレーショナルデータベース(RDB)に複製して利用できることだ。ブロックチェーンのデータは、過去のデータを見るためには最新のデータからさかのぼらなければならないという構造的な課題がある。チェーンのデータを外部のデータベースに複製することで、従来のデータベースのスキルでデータを扱えるようになり、既存のシステムとの連携も容易になる。同プラットフォームでは、State DBとして同社の組み込み型データベースライブラリ「Berkeley DB」を採用している。

Oracle Blockchain Platformを利用すればブロックチェーン基盤の学習コストを下げられるだけでなく、外部のリレーショナルデータベースも利用できる

「お昼に行ったデモでは、30分でHyperledger Fabricの基盤を構築して、外部のオラクルDBに接続しました。ブロックチェーンはすごくハードルが下がっていて、明日にでもすぐに始められる状態です。ぜひエンタープライズブロックチェーンを盛り上げてほしいと思います」(中村氏)

ブロックチェーンは従来と異なる領域のスキルが必要で人材の確保が難しく、これまでは参入のハードルが高い分野だった。今はここで紹介した日本オラクルをはじめとした複数の企業がBaaSを提供しており、参入のハードルは下がっている。今後はこれまで以上に多様な業界でのユースケースが生まれてくることだろう。

西 倫英

インプレスで書籍、ムック、Webメディアの編集者として勤務後、独立。得意分野はデジタルマーケティングとモバイルデバイス。個人的な興味はキノコとVR。