イベントレポート

東京に集中するお金の流れを変える地域通貨「コミュニティコイン」の発想とは

応援プラットフォーム「FiNANCiE」とコミュニティコインを紹介。BCCC第5回トークンエコノミー部会より

一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は8月6日、東京・大手町で第5回トークンエコノミー部会を開催した。トークンエコノミーとは、法定通貨ではなくトークンを介した価値形成や流通、交換を実現する経済圏のことだ。部会ではその事例として、フィナンシェが同社の応援プラットフォーム「FiNANCiE」を、chaintope社が地方の地域通貨「コミュニティコイン」をそれぞれ紹介した。

FiNANCiEは「個」が主役の時代で人を応援するプラットフォーム

先に壇上に上がったのはフィナンシェ・Co-founder CEOの田中隆一氏。田中氏は「FiNANCiEは『個』を応援するプラットフォーム」と説明する。

「産業革命のときは、株式会社という仕組みが大きな発明でした。それが進化して今はGAFAのような企業が出てきています。今は個人の影響力が増大して、働き方も変化している。企業ではなく、その人を応援するプラットフォームを作りたいというのがサービスのコンセプトです」(田中氏)

フィナンシェ・Co-founder CEOの田中隆一氏

FiNANCiEでは、夢を持つ人が個人のカード(トークン)を発行して、支援したいサポーターがそのカードを購入する。1人あたりのカードの総発行量は一律2000万枚と決まっていて、初回はその10%である200万枚を発行できる。初期のカード単価は10円に設定されており、時間とともに価格が下がるダッチオークション方式を採用している。田中氏は「だいたい初回は30~40万円くらい、有名なeスポーツ選手で300万円くらい購入される」と説明する。

オーナーが発行したカードを購入してファンのコミュニティに参加できる

「これまでのマスメディアから情報を得て物を買う時代から、個人が情報発信する時代になり、クラウドファンディングのような仕組みも出てきました。でも課題があって、それは初期からずっと支えているファンのメリットがないこと。広くはなるが浅くなってしまう。それを解決する、新しいファンの形を実現します」(田中氏)

FiNANCiEでは、カードを初期から持っているとカードの価値が向上していく。FiNANCiEはコミュニティやマーケットプレイスの機能も備えており、カードを発行したオーナーが話題になるとカードの需要が上昇して価値が上がる。カード購入者は、ただの支援者ではなくいわば“運命共同体”になるわけだ。

FiNANCiEはトークンの発行や管理にEthereumを利用しており、ERC20トークンを使うことでマーケットプレイスでの売買を可能にしている。同サービスは仕組みのなかでも特にコミュニティに力を入れているという。コミュニティ部分はオフチェーンで運用されている。

「ビジネス特化のSlack、ゲーム特化のDiscordのように、FiNANCiEはファンに特化したコミュニティにできればと考えています。カードを売ったらおしまいとならないよう、応援を継続するインセンティブを用意しています。コミュニティに貢献するとユーザーのスコアが上がって、できることが増えていく。継続的に、積極的に参加できるコミュニティを目指しています」(田中氏)

ファンがコミュニティに貢献するとスコアが上がり、より多くのことをできるようになる

FiNANCiEは3月にベータ版を公開して5か月目になる。9月にはアプリをリリースする予定だ。今はカードを発行するオーナーが限定されているが、11月にはオーナーの外部登録を開始することも予定している。

地域で経済が循環する仕組みを作る「コミュニティコイン」の必要性

続いてchaintope社の正田英樹氏が地域通貨の取り組みについて解説した。正田氏は「地方創生とは言うが、この人にお金が流れたらいいなと本当に思う地域起業家に流れていない」と問題点を指摘する。

chaintope社・代表取締役CEOの正田英樹氏

「すでに実績があったり、短期間で結果が出そうなものにはお金が出やすいが、本当にとがった先端技術や学生、外国人にはお金が行きづらいんです。そして日本円は圧倒的に東京に集まりやすい条件が整っています。日本円だけだと、結局東京の会社がすっと間に入って持っていってしまう。だから地域で経済が循環する仕組みを作らないといけないんです」(正田氏)

そこで正田氏が示すのが「コミュニティコイン」だ。コミュニティコインは地域内での生活に利用でき、決済だけでなく感謝や応援、共感などの気持ちを伝える手段にもなる。東京に流れる日本円ではなく地域内で循環するコミュニティコインのデータを分析することで成長するビジネスモデルを目指すという。

コミュニティコインは地域内でのみ流通する通貨

もう1つ正田氏が注目するのは「STO(Security Token Offering)」だ。STOは実在する証券をもとにセキュリティトークンを発行する資金調達の方法で、国内では2020年6月までに解禁される見込みだ。証券がトークンで小口化され流通することで、これまで国から予算を得られなかった地方の起業家も資金を調達できる可能性が出てくる。その配当を地域のコミュニティコインで行うことで、東京ではなく地方で経済を循環させようというわけだ。

STOの配当をコミュニティコインで行い、地方の事業に流通させる

「やはり資産の裏付けがほしいですから、自治体と地方銀行などの協力は必要です。そこに地方を代表するような鉄道会社や、コンテンツの核となるような企業が加わると面白いことになると思います。日本円の特性を持ちながら地域の特性が入った地域通貨が、地域を盛り上げる起爆剤になって、東京に集中するお金の流れを変えられるのではないかと思います」(正田氏)

自治体と地方銀行が協力して資産の裏付けを行う

コミュニティコインの実例として、chaintope社は2017年から2018年にかけて近鉄や三菱総研、大阪市と協力して「近鉄ハルカスコイン」の実証実験を行っている(参考記事)。地域通貨の近鉄ハルカスコインを発行して、大阪市のあべのハルカスと周辺の商店約400店舗で実際に買い物ができる取り組みで、2か月以上の長期間にわたり実施された。

ここではFiNANCiEとコミュニティコインの事例を紹介したが、ほかにもトークンエコノミーに関係する多くの実証実験が行われている。資金決済法と金融商品取引法の改正法が施行される2020年6月(参考記事)までに、さまざまな取り組みが出てくることだろう。

西 倫英

インプレスで書籍、ムック、Webメディアの編集者として勤務後、独立。得意分野はデジタルマーケティングとモバイルデバイス。個人的な興味はキノコとVR。