イベントレポート
将来ではなく今過疎地が抱える課題を解決するMaaS「ISOUプロジェクト」
INDETAIL坪井氏が目指す地域通貨中心の次世代交通インフラ
2019年8月21日 06:00
INDETAILの坪井大輔氏は8月7日、東京のグランドプリンスホテル新高輪で開催された「Oracle Modern Cloud Day Tokyo」で、同社が進める「ISOUプロジェクト」について紹介した。ISOUプロジェクトは、ブロックチェーンと地域通貨を用いた過疎地域向けのMaaS(Mobility as a Service)だ。過疎化と高齢化の問題を抱える北海道檜山郡厚沢部町で行っている実証実験の詳細を解説した。
過疎地域活性化のカギは住民の足、交通だった
厚沢部町は新函館から車で40分、広大な面積に4000人しか住んでいない過疎化が進む町だ。坪井氏が呼ばれたのは「地域活性化」のためだった。「遊休資産を活用できるのではと思い、最初はマイニング施設などもいいのではと想像しながら現地に向かった」と振り返る。
現地で役場や病院、道の駅などにヒアリングを行うと、例えば町長は遊休資産を活用したい、道の駅は観光客が少ないなど、それぞれの問題を抱えていた。話を聞くうちに「住民の移動手段が少ない」という本質的な課題が見えてきたという。
「市街地から住居が遠く、生活に車は必須です。一方で人口の4割は高齢者。合計すると民間バスの運営には税金で5000万円かかっていました。どんなに新しいコンテンツを作っても、住民がそこに行けなければ意味がない。これは交通インフラが必要だと考え、ISOUプロジェクトを立ち上げました。」(坪井氏)
「交通は過疎地域共通の問題」と坪井氏が語るように、高齢化が進む地域では重要な問題だ。人口が少ないので民間の交通会社は利益を得づらく、税金を使い少ない本数を運行するしかない。MaaSというと未来的な都市サービスを想像するが、住民は先進技術を使いたいわけではない。「今困っていること」を解決するために、住民の足となる交通インフラを整えようと考えたわけだ。
町内での行動が足に変わる「ISOUコイン」
坪井氏が目指したのは、使いたいときに呼べるオンデマンドの交通だ。商店で買い物をしたり、イベントに参加したり、町内でアクティブになると地域通貨「ISOUコイン」が発行され、それを使って交通サービスを利用できる。ISOUコインは買い物には利用できず、交通サービス専用のポイントのようなものだ。ISOUコインはスマートフォンのアプリのほか、高齢者に配布する専用のICカードでも利用できる。スマートフォンの普及率が高くないことを考慮して、自宅の電話から車を呼ぶことも可能だ。
余っている広い土地で自家発電の電力を供給し、日産のEV車を走らせる。その構想を実現するために、自治体だけでなく電力会社や自動車リース会社、保険会社など幅広い業種を巻き込んで仕組み作りを行った。
「遊休資産の土地を使った再生エネルギーを活用して、地域通貨で町を活性化して、住民に移動手段を提供する。これがプロジェクトの全体像です。」(坪井氏)
重要なのはトリガーとリワードの構築。「使いたい」気持ちを呼び起こす
ISOUプロジェクトを推進するにあたり、坪井氏は「重要なのはトリガーとリワードの構築」だと説明する。つまり「使いたい」「参加したい」という住民のモチベーションだ。
私たちは円を使うことに慣れていて、円でも買えるものにわざわざ別の方法を使う必要はない。ISOUコインは、これまでになかった新しい移動手段の専門コインだからこそ「使いたい」という強いインセンティブを生むわけだ。
「ISOUコインは日本円に替えられないので、無料モデルになります。円ではないのでいくらでもトークンを発行できますし、運送業者の緑ナンバーではなく白ナンバーで運用できることもメリットです。」(坪井氏)
ISOUプロジェクトは、今まさに実証実験を行っている最中だ。過疎地域の課題は厚沢部町だけのものではない。2回に分けて日本中から同様の過疎地域の自治体やメディア関係者など約200名を呼び、同プロジェクトを見学するイベントも予定している。坪井氏は「国内だけでなく海外から視察に来る担当者もいる」と説明する。
「スマートシティ、MaaSプロジェクトといっても未来のことではありません。ISOUプロジェクトは今使えて、今困っていることを解決するサービスです。」(坪井氏)
現在はフェーズ1として厚沢部町で実証実験を行っているが、その結果を踏まえて2020年からは全国の過疎地域でも展開する予定だ。2025年からは、自動運転技術もあわせた次世代交通インフラとして国外に展開することも視野に入れているという。