イベントレポート

4人の著名投資家による仮想通貨・デジタル決済・リブラ対談=FIN/SUM 2019

「Facebook仮想通貨はデータ収集ツールとして強すぎる」「Suicaはデジタル決済の好例」

日本経済新聞と金融庁主催の国際イベント「FIN/SUM 2019」は、9月3日から6日までフィンテックの活用をテーマに議論する。その最初の長編セッションは、Facebook(フェイスブック)の仮想通貨Libra(リブラ)がテーマとなった。

お金はどうあるべきか FBリブラの衝撃 Part1(海外編)

FIN/SUM第1日目、最初の長編セッションは「お金はどうあるべきか FBリブラの衝撃」と題して、45分間の討論が行われた。

「お金はどうあるべきか FBリブラの衝撃 Part1」の様子(写真左から、ジョーンズ氏、ブラム氏、イェン氏、ポンプリアーノ氏)

登壇者は、シンギュラリティ大学・共同出資者のリース・ジョーンズ氏、モルガンクリークデジタル・共同出資者のアンソニー・ポンプリアーノ氏、アトミックキャピタル・CEOのアレクサンダー・ブラム氏、プルーフオブキャピタル・ゼネラルパートナーのイディス・イェン氏の4名。司会進行は500スタートアップ・出資者のマーヴィン・リャオ氏が務める。

フェイスブックは2019年6月に仮想通貨リブラを発表。世界中の金融界が騒然となった。このセッションでは、世界の名だたる投資機関の専門家らが、仮想通貨、決済のデジタル化、フェイスブックのリブラをテーマに討論を行った。

リブラを使えば全く新しいデータを入手できる

ディスカッションは各人が自己紹介した後、新しい金融の技術ということで、まずは仮想通貨、とりわけBitcoin(ビットコイン)に焦点が当たる。

「新しい技術は現状よりも完璧でなければならない」と論じるのはブラム氏だ。氏はテスラのEVを例に挙げ、1台でも事故を起こせば世間から徹底的にバッシングを受けることになると述べた。同様に、ビットコインもマネーロンダリングに対して、完全に防ぐことができなければならないというのが氏の主張だ。新しい技術がより良いものであるべきという論には、ジョーンズ氏も同意した。

アトミックキャピタル・CEOのアレクサンダー・ブラム氏

一方、ポンプリアーノ氏は「人々がビットコインを信頼するのは難しい」と述べる。それはビットコインが「技術」に過ぎないからだ。人々が信頼するのはテクノロジーではなく、ブランドだとポンプリアーノ氏は言う。「多くの人は新しい製品があれば、まずそれを作る企業を見て判断する。そして企業に説明を求める。それに使われている技術を調べることはおろか、説明書だって読みはしないのだ」(ポンプリアーノ氏)

モルガンクリークデジタル・共同出資者のアンソニー・ポンプリアーノ氏

ここで、フェイスブックをはじめとした複数の企業が関わる仮想通貨として、リブラが話題に上る。

「リブラを使えば全く新しいデータを入手することができる。その点で、運営企業にとっては極めて強力な技術だ」とブラム氏は切り出す。デジタルの決済はあらゆる取引を追跡できる。それがリブラにせよ、政府が作るデジタル通貨にせよ、取引のすべてを政府や企業に把握されるのは、人権という観点からも問題だと同氏は主張。特定の組織がデジタル通貨の主導権を握ることに疑念を示した。

イェン氏はリブラの運営を担うリブラ協会の仕組みについて分析する。リブラは20億のユーザーが見込まれるというが、協会の参画企業たちはそれぞれが自身のビジネスの幅を狭めたくないという思惑がある。というわけで、彼らがフェイスブックの誘いに乗るのは必然だという。一方で、リブラの立ち上げに際してアメリカに軸を置くことに関しては疑問を述べた。仮にイェン氏が経営者なら、「アメリカは無視してインドや東南アジアといった、今すぐに金融を必要としている地域で使えるようにする」と述べた。

プルーフオブキャピタル・ゼネラルパートナーのイディス・イェン氏

ポンプリアーノ氏は、広告主の立場からすると、リブラによって新しいファンディングが生まれることに関しては前向きだという見解を示した。フェイスブックはすでに数百という広告の出稿があり、リブラによって、それらはプラスの影響を受けるという論拠だ。

中国は将来的にデジタルマネー大国になる

議論は、「デジタルマネーの観点から、どの国が将来的に主導権を握るか」というテーマに移る。

ブラム氏とイェン氏は、中国の立場が強くなるという見解だ。ブラム氏は、「中国はデジタルマネーを税収増加のチャンスと見ている」と分析した。「中国はデジタルマネーでは技術的に先行しているし、大規模に実行する能力もある。順調にいけばアメリカに取って代わる可能性もある」(ブラム氏)

一方、イェン氏は中国政府ではなく企業を評価した。中国政府は、課税対象としてコントロールできないという理由で、ビットコインを排除した。結果として、中国のブロックチェーン企業は同国内にとどまらず、インドや東南アジアに進出し、高い技術力を身に付けた。企業力という点でも、中国は今やアメリカに並び立つ存在になっているという。

決済のデジタル化が進まない理由はプライバシー

最後のテーマは、「デジタル決済の利点が分かっていながら、なぜシステムは移行しないのか」ということだ。

ジョーンズ氏は、「既存のシステムを少し修正するだけで決済のデジタル化は可能だ」と話す。それでも人々が現金を手放さないのは、「現金が持つ匿名性」が重視されているからだという。決済の記録が残ることは、仮想通貨や電子マネーのマイナス面になる。政府が取り締まりのために、この記録を利用することが分かっているので、利用する人々は決済に慎重になってしまう。

そんな中で、すでにデジタル決済を実現し、広く受け入れられている企業はいいポジションにつけているとジョーンズ氏は述べる。その好例にJRのSuicaを挙げ、評価した。

シンギュラリティ大学・共同出資者のリース・ジョーンズ氏

ビットコインに期待半分。リブラと米ドルには弱気

セッションのまとめとして、司会のリャオ氏はパネリストに対し、仮想通貨に対する今後の期待感を聞いた。ジョーンズ氏とポプリアーノ氏はビットコインには期待していると即答。一方、イェン氏とポンプリアーノ氏は仮想通貨に関して中立だと述べる。さらにポンプリアーノ氏が「ビットコインはともかく、リブラについては弱気だ」という見解を示すと、他のパネリストもおおむね同調した。

最後にリャオ氏が、米ドルに対して同様に意見を求めると、満場一致で弱気と即答。微妙な笑いに包まれ、セッションは幕を閉じた。

日下 弘樹