イベントレポート
慶應大・村井教授とファーバー氏が未来の金融に向け対談=FIN/SUM 2019
「既存の金融と後払い式決済は目的が異なる」「経営者は先端技術の勉強を」など
2019年9月6日 06:00
日本経済新聞と金融庁主催の国際イベント「FIN/SUM 2019」は、9月3日から6日までフィンテックの活用をテーマに議論する。第3日目、午後のセッションは「金融庁シンポジウム特別対談」と題して、45分間の討論が行われた。
金融庁シンポジウム特別対談
登壇者は、慶應義塾大学・環境情報学部/大学院政策・メディア研究科委員長の村井純教授、慶應義塾大学・サイバー文明研究センター・共同センター長のデイビッド・ファーバー氏。司会進行はジョージタウン大学・リサーチプロフェッサーの松尾真一郎氏が務める。
どんなIDがインターネット上の本人を証明するか
暗号技術の発展により、インターネット上で決済ができるようになった。すべての人が金融のサービスを受けられる金融包摂の実現に向け、技術は進歩している。その際に用いる「IDは本人の情報として信用できるのか」が議論の中心となった。
「これまで金融は、本当の意味でユーザーの認証という問題には直面していなかった。SNSをやっているとよく分かるが、インターネット上には他人がなりすました複数のバージョンの自分自身が存在している。そんな中、オンライン上で決済をするにあたって、自分自身を証明することは実に難しい」(ファーバー氏)
ファーバー氏の言う本人確認(KYC)の難しさに対し、村井氏は、「政府が発行するID」と個人が所有する「SNSなどで用いるID」をひも付けることが解決策になると語った。政府がIDを発行することで、政府の信頼によって本人確認を成立することができる。それによって、個人用のIDを用いて、KYCが必要なサービスを受けられる。
さらに村井氏は、利用するサービスによって要求するトラストのレベルが異なることを指摘する。
「金融レベルのトラストが必要なのか、生身の個人を示すトラストが必要なのか、これは用途によって異なる。たとえば犯罪者を追跡するとなると、これは政府が管理するIDでもって、確実に人物を特定しなければならない。一方で金融機関を利用するという場合、そこまで厳格なトラストは必要ないのではないか。要するに、金融で利用する場合は金融のIDが必要になるのだ」(村井氏)
Facebookの仮想通貨は安全か
議論は、Facebookが発表した仮想通貨Libra(リブラ)にも及んだ。司会の松尾氏が、金融包摂を掲げるリブラが、その基盤に使うのはSNSであることを指摘し、そこにはぜい弱性があるのではないかと問題を提起した。
村井氏は、「Twitter上のトランプ大統領は本物だと思うか」と逆に問いかけた。多くの人は、本物であることを疑わない。それはつまり、TwitterというSNSの1つが、潜在的に信頼を得ていることを示す。これはFacebookにも当てはめることができる。懸念される安全性はともかく、大多数はその基盤を信頼しているのが実情だと言えるだろう。
技術が進化する中で組織に求められるもの
最後に両氏は、今後金融や企業はどうしていくべきかを語った。
ファーバー氏は、インターネットが誕生から50年経ったが、人間に置き換えると25歳ぐらいの若者にすぎず、これからも進化が続くことを述べた。金融機関にも企業にも重要なことは、トップに立つ経営層が先端技術を学ぶことだという。
「今はちょうどWi-fi 6が動き始めた時期だが、すぐに次の規格が現われるだろう。そのとき、我々はインターネットを介して、今よりもっとつながることになる。金融機関や企業は、エンドユーザーよりもさらに大きな影響を受ける。その中で一組織がどう舵取りをするのか、経営者は責任を持って決めていかなければならない」(ファーバー氏)
村井氏は、銀行口座の契約と、携帯電話の契約について、審査の差異に言及した。携帯電話があれば、「○○Pay」に代表される後払い式決済を用いて、金融に似たサービスを利用できる。後払い式決済は日本では厳しくコントロールされているが、既存の金融とこれらは根本的に目的が異なる。その違いを意識する必要があると論じた。
「今後再びデジタルトランスフォーメーションという言葉が注目されるだろう。すべての業界は企業をまたいで横につながり始めている。金融の場合も同じだ。技術によって時代が変わっていく中で、将来のために創造力を持って立ち向かっていかなければならない」(村井氏)