イベントレポート

金融庁長官「暗号資産はルールや税制などグローバルに対応を進める」=FIN/SUM 2019

ブロックチェーンはマルチステークホルダーの参加による議論を推進

FIN/SUM2019の3日目の冒頭で、金融庁長官の遠藤俊英氏が主催者を代表した講演を行った。また、この会場において金融庁のフィンテックイノベーションハブの研究成果として、「多様なフィンテックステークホルダーとの対話から見えた10の主要な発見」という資料を発表した。以下にはその発言内容の概略をまとめる。

遠藤俊英金融庁長官

フィンテックをとりまく環境において、あらゆるモノやコト、生産、流通、販売などのすみずみまでがデジタルでつながるデジタライゼーションの動きが加速している。金融庁は昨年9月に包括的なフィンテック戦略を示した「金融デジタライゼーション戦略」を発表し、フィンテックに関連するさまざまな施策に取り組んできた。そして、データの利活用が国の競争力を左右する時代になり、データそのものが企業の価値創造の源泉となっている。

そうしたなか、新たな金融デジタライゼーション戦略を8月28日に公表した。図1に示したように、具体的には新たにデータ戦略の推進を柱に据えて、金融機関によるデータの利活用が促進されるような環境整備を図っていく。そして、イノベーションに向けたチャレンジの促進、機能別・横断的法制のさらなる検討、レグテックを始めとする金融行政・金融インフラのさらなる整備といった、これまでの施策を大きく進展させるとともに、暗号資産をとりまく状況変化に対応すべく、さらなる国際連携の創出、国際的なルール・税制への対応、暗号資産に関連したグローバルな対応を進めていく方針だ。今後はこの戦略で掲げた取り組みを強力に推し進めていく考えだ。

図1:金融デジタライゼーション戦略の骨子

本年、わが国はG20の議長国を務めている。ブロックチェーン技術に関しては、さまざまな活用可能性や技術的な課題を議論するため、金融庁は国内外の金融当局、中央銀行、国際機関の関係者、国内外の大学関係者、そして、技術開発会社などの幅広いステークホルダー、すなわち、マルチステークホルダーが参加する国際共同研究のプロジェクトを推進し、ブロックチェーンラウンドテーブルなどの国際会議を主催し、いち早く分散型金融技術に基づく、新たな金融システムの課題への検討や技術的な研究にも取り組んできた。その結果、自立分散型の技術の進展によって、今後、規制の効果が十分に及ばない状況が想定され、従来の金融規制に代わる新たなアプローチを開拓することが必要だと考えている。今年6月に福岡で開催されたG20財務大臣・中央銀行総裁会合でも、議長国としてこうした分散型金融技術に基づく、新たな金融システムの課題にも焦点をあてた技術革新セミナーを開催した。

これらの発想をふまえ、分散型金融システムに対する潜在的な影響評価の実施や、金融当局以外の幅広いステークホルダーとの対話を通じた新たなガバナンスシステムを構築することの重要性について、G20での合意が得られた。このFIN/SUMは、フィンテック分野を中心とした技術的な論点をふまえ、世界最先端の議論をリードする場と位置づけている。中でも、FIN/SUMにおける金融庁シンポジウムはG20をふまえ、幅広いステークホルダーの参加による分散型金融システムのガバナンスのあり方について、さらに進んだ議論を行うほか、インターネットという分散型のネットワークシステムを構築し、そこにガバナンスの仕組みを導入してきた先人たちから、分散型金融システムに課題についても議論をする。そして、巨大テクノロジー企業の革新的な金融サービスの提供や暗号資産に関する新たな構想について、この会議では議論をする。そしてこのFIN/SUMとともに、金融庁の国際研究プロジェクトはより幅広いステークホルダーが集う場として発展させていく。

来年の春にブロックチェーン技術に基づく分散型金融システムの課題や今後のさらなる活用可能性を議論する場として、「ガバナンスフォーラム」を開催する。このフォーラムは分散型金融システムの問題を議論するプラットフォームとしてより発展させていきたい。ぜひ、このFIN/SUMだけでなく、今後の展開にもご期待をいただきたい。

昨年のFIN/SUMにおける金融庁シンポジウムでは、金融庁に「フィンテックイノベーションハブ」を設置したことを発表した。このイノベーションハブは金融庁のフィンテック室を中心としたチームがプラットフォームとなり、金融育成の観点から多様なフィンテックステークホルダーとの意見交換を実施してきた。このイノベーションハブの活動を報告書としてまとめた「多様なフィンテックステークホルダーとの対話から見えた10の主要な発見」を本日9月5日に公表した。

この資料の21ページ(図2)にはAI・データ活用、ブロックチェーン、APIなどの技術の観点を中心に、その動向や今後の取り組むべき課題を抽出した。AIやデータ活用に関しては、企業の取引データを用いたオンラインレンディングの進展や、金融機関がデータを利活用して新たな金融マーケティングのアプローチを構築する動きが見られている。特に、データ利活用や効果的なビッグデータ解析を進めるうえで、データ構造化技術なども進展してきている。他方で、データ解析に起因するプライバシーの問題など、AIを活用したモデル化にともなう検証可能性の課題については有識者を交えて議論を深めていく必要があると認識している。

図2:「多様なフィンテックステークホルダーとの対話から見えた10の主要な発見」の骨子

ブロックチェーンに関しては、パブリック型ブロックチェーンにおける決済速度の問題、いわゆるスケーラビリティの課題を解決する新たな技術動向の進展や、暗号資産取引のセキュリティを高める動きなどもでている。また、ブロックチェーンを利用した新たなユースケースを創出する動きにも注目している。特に、金融庁に設置しているフィンテックサーポートデスク、実証実験ハブの積極的な活用を促しながら、新たなサービスの育成にも取り組んでいく。

さらに、APIに関しては認証やAPI接続上のセキュリティなどの実務上の課題のほか、APIによって金融だけでなく、非金融ともつなぐ異業種間連携といった前向きな事例も見られる。

また、ビジネス面への活用については、事業承継先との効率的なマッチングを可能とするオンラインプラットフォームによる経営支援などの動きは事業承継といった社会課題の効果的な解決につながると期待されている。こうしたさまざま話題はFIN/SUMのアジェンダにも反映されている。

このFIN/SUMの開催は今年で4回目となるが、これまで築き上げてきた国内外のフィンテックネットワークを通じて、多方面で活躍する優れた専門家を迎えて、充実したプログラムを作ることができた。あらためて登壇者を始めとする関係各位には感謝を表したい。

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。