イベントレポート
SBI北尾社長が語る「第4のメガバンク」「ネオ証券」「ネオバンク」=FIN/SUM 2019
仮想通貨マイニングチップ開発にも着手
2019年9月24日 06:00
「FIN/SUM 2019」初日となる9月3日、SBIホールディングス代表取締役社長の北尾吉孝氏による講演が行われた。「フィンテックを通じた自己進化と地方創生について」と題し、地方銀行を巻き込んでの「第4のメガバンク」、そして「ネオ証券」「ネオバンク」などの将来構想について語った。
地方金融機関とSBIグループががっちりタッグ
今回の講演では、2つの大きなテーマが掲げられた。その1つ目が「地域金融機関との共創を深め、第4のメガバンクを形成」である。
国が一大テーマとして掲げる「地方創生」に向けて、SBIグループが得意とする金融分野で貢献できることはないか。北尾氏らは約3年前からこの課題に取り組んでおり、その1つの答えが、地方金融機関との協力である。具体的には、SBIの金融商品を活用してもらい、地方金融機関自身の企業価値向上を支援するという。
ただ、北尾氏はその中で心を砕いた点もある。「地方金融機関の方から『SBIに(母屋を)乗っ取られるのではないか』というイメージを抱かれてはならない。それを払拭し、SBIと地方の間で信頼感を作り上げないといけない」(北尾氏)
証券分野の面では、39の地方金融機関(内定済みの4社を含む)との連携を実現。直近1年で預かり資産額が4.9倍に達するなど、成果を出し始めている。同様に、「SBIマネープラザ」を地方銀行と共同運営する例も増えた。
技術関係の分野では、フィンテックベンチャー企業のサービスやシステムを地方金融機関にも利用しやすくするため、API基盤を設立した。また、新たに設立したSBIネオファイナンシャルサービシーズでは、フィンテックの導入支援などを地方金融機関向けに行っていく。
SBIグループでは、有望なベンチャー業との業務提携なども推進。RPA、小口送金、保険分野のロボアドバイザーなどについては、具体的なサービスとして提供予定という。
「第4のメガバンク」とは?
そして北尾氏がいま推進しているのが「地方金融機関の全国展開」である。これにあたってまず、SBIグループほか有力地銀、ベンチャーキャピタルなど出資する共同持株会社を設立。ここが主体となって、地域金融機関への投資を行うという。
こうして地方金融機関の一体的事業展開を促し、既存の3大メガバンクに匹敵するネットワークを構築しようというのが「第4のメガバンク」構想の核心である。
この実現に向けて、具体的な課題も見えてきた。1つ目がシステム運用コストの高止まりと、定期的なシステム更新に伴うコスト。北尾氏はこれに対し、システムを固定費化せず、変動費にすることが重要だと指摘し、プライベートクラウドの整備が鍵だろうと述べた。
2つ目が、資産運用業務の非効率性。担当人員が不足していたり、そもそも金融機関の収益状況が悪化していてポートフォリオの入れ替えが難しい場合がある。ここではSBIグループのノウハウをまさにつぎ込んでいく。
「地方の金融機関が日本全国に展開する、考えてもいなかった海外での投融資(が第4のメガバンクによって)が実現する。SBIの海外拠点、人脈なども活かして、“ネオバンク”を目指していきたい」(北尾氏)
取引手数料が無料になる?! 「ネオ証券」
講演2つめのテーマが「SBIグループにおけるフィンテック技術を活用した次世代金融機関の創造」である。
証券業の今後を考える上で、北尾氏は「ネオ証券」を提唱する。その柱は、売買手数料・投資家負担の手数料などの無料化。大胆な取り組みに思えるが、米国の新興証券会社であるRobinhoodがすでに先鞭を付けている。Robinhoodは証券の売買手数料が無料、収益源は月額制プレミアムプランの会費とされる。
「Robinhoodも恐らく日本に進出したいと思っているだろう。しかしプレミアムプランだけでは十分な収益にならないと思っている。だからこそ、“手数料無料”をどう具現化していくか、SBIとしても緻密に、ロジカルに戦略を組み立てていきたい」(北尾氏)
SBIグループでは、取引の多様化によって、証券手数料の低廉化を目指している。SBIジャパンネクスト証券のPTS取引(Proprietary Trading Systemの略で私設取引システムのこと。証券取引所の開いていない夜間帯などにも株式取引が行える)、SBIプライム証券のダークプール取引(取引所を介さずに投資家の注文を付け合わせるサービス)などがその例だ。
これに加えて、今年4月にはSBIネオモバイル証券を開業させた。一部条件付きながら、月額200円での取引放題サービスを展開。若年世代を惹きつけ、ここで仮想通貨サービスも同時勧誘するなど、グループのシナジーを活かしていく
銀行業務が「分解」される時代に備える
証券業と同様、銀号業についても「ネオ銀行(ネオバンク)」を目指す。銀行の経営環境は年々厳しくなっており、例えば米国では若者たちが銀行へ足を運ばなくなっているという。一方、Amazonが法人向けの融資サービス「Amazon レンディング」を立ち上げてすでに久しい。
フィンテックの進展、それにひっぱられる形での異業種参入により、銀行機能は分解(アンバンドリング)が進んでいると北尾氏は指摘する。こうした動きへの対応が、まさにネオバンクという訳だ。
SBIグループの住信SBIネット銀行は、ネオバンク化を積極的に進めている。BaaS(バンキング・アズ・ア・サービス)の立ち位置も明確で、銀行業務相当の機能を外部へ“黒子”として提供することもはじめている。JAL、リクルートゼクシィなび、旭化成ホームズフィナンシャルとの間で、すでにパートナー関係を構築した。
マイニングチップ開発にも着手
ブロックチェーン関連では、米国のRipple社・R3社との間でそれぞれ合弁企業を設立した。SBIグループのSBIレミットは国際送金サービスを手がけているが、現在はRippleの「xCurrent」を用いた送金システムを開発中という。
また北尾氏は、R3社が手がけるDLT「corda」について、スマートコントラクト機能を含めて高く評価しており、グループとしても積極的に使いたいと明かす。一例として、SBIグループが携わっている地域通貨「UC台場コイン」「NISEKO Pay」「常若通貨」では、これまでのシステムを入れかえCorda上でデジタルトークンを発行する方法に切り替える。
このほか、マイニング用のチップおよびシステムを開発する新会社「SBI Mining Chip」も設立。さらなるネオ証券化、ネオバンク化のため、動きを加速させていくと北尾氏はアピールし、講演を終えている。