イベントレポート

サプライチェーンの文脈で問われる「現実とのひも付け問題」

物流の透明化はブロックチェーンだけでは不完全。さらなる進化はIoTの発展等に期待

日本オラクルは10月10日、ブロックチェーン技術者向けのミートアップイベント「Blockchain GIG #5」を開催。約2か月に一度のペースで定期開催される同イベントは、今回で第5回目を迎えた。本稿では、同イベントでのパネルディスカッション内で話題となったトレーサビリティを取り上げる。

企業でのブロックチェーン導入は、全体で見れば決して早いペースではないものの、国内でも徐々に進んできている。だが、その事例はまだまだ少なく、技術者視点で見れば実際どう取り組めばいいのかわからないということも多い。そこで、各社が取り組みを紹介したり、実装で行き詰まった点などを紹介し合って知見を共有する場として、日本オラクルがホストしているのがこのイベントだ。

第5回には、富士通・ソフトウェア事業本部デジタルウェア開発統括部第一開発部の石原俊氏と、LayerXのエンジニアである神場貴之氏が登壇。富士通の石原氏は同社で提供しているBaaSでサービス当初に苦戦した事例を、LayerXの神場氏はエンタープライズEthereumでの分散型アプリケーションの実装について話した。各セッションの講演資料は、Connpass上のBlockchain GIG #5のイベントページで公開されている。

各人のセッション後、富士通の石原氏とLayerXの神場氏、先に登壇した日本オラクルの中村岳氏をパネリストに、パネルディスカッションを行った。会場から質問を募り、最初に出てきたのは「トレーサビリティ」に関する質問だった。事業へのブロックチェーン活用の代表例として、物流業界などを中心に、その透明性を生かしてサプライチェーン(物流網)でのモノの追跡と証明に利用しようという動きは活発だ。

パネルディスカッションではトレーサビリティが話題に上った。パネリストはLayerXの神場貴之氏(写真左)、日本オラクルの中村岳氏(写真中央)、富士通の石原俊氏(写真右)

会場から、「物理的なモノとブロックチェーン上のデータをどうひも付けるのか。モノのすり替えが行われると意味が無いのではないか」という意見が上がった。この議題は、頻出問題である。オラクルの中村氏は、この問題を「現実とのひも付け問題」と名付ける。過去のBlockchain GIGでも何度か話題に上ったが、完全な解決法は今のところ存在しない。

最近弊誌で取り上げたサプライチェーンとして、IBMが取り組むホタテ貝の流通システムを例に「現実とのひも付け問題」を考えてみよう。中間を省略してシンプルに考えると、このシステムに関わるのは、ホタテ漁師、ホタテを購入するレストランの2者。そして、レストランでホタテ料理を注文する消費者がいて、各人がホタテの産地や流通経路を確認することができるという仕組みだ。

「現実とのひも付け問題」で考慮するのは、ネットワーク上のデータが指すホタテと実際のホタテが異なるものである可能性だ。

例えば、ホタテ漁師からホタテを購入したレストランが悪意を持っていたとする。高級なホタテを購入したレストランは、高級なホタテの証明を手にする。この高級なホタテを市販の安いホタテにすり替えて、「高級なホタテの証明」を添えて消費者に提供することもできてしまう。そして、ネットワーク上からこの事実を観測する手段はないのだ。

このように、システムの中に悪意を持つ人が介在すると信頼できるサプライチェーンを構築することはできない。前提として参加者全員が互いに信用する必要があるのだ。ブロックチェーン上で完結する仮想通貨のような仕組みと違って、現実との接点があるサプライチェーンの場合、ブロックチェーンだけでは完全にトラストレスな仕組みにはできないということだ。

パネリストとして「現実とのひも付け問題」を論じた石原氏は、「現時点では解決策がないだろう」とコメントし、今後IoT技術の発展により解決の可能性があると付け加えた。

富士通・ソフトウェア事業本部デジタルウェア開発統括部第一開発部の石原俊氏

IoTは、「モノのインターネット」の名の通り、現実とインターネットを結びつける技術だ。現実でのモノのすり替えを防止またはネットワーク上から監視することができれば、ブロックチェーンを用いてサプライチェーンをトラストレスなものへ進化させることができる。

今回取り上げたサプライチェーンを含め、エンタープライズ領域では「ブロックチェーンだけ」でイノベーションが起こる分野は稀だ。ブロックチェーンと既存技術を組み合わせたり、IoTやAIのような先進技術を組み合わせたりすることも含めて、検討していくことが重要となるだろう。

日下 弘樹