イベントレポート

著名VCの見据える暗号資産・ブロックチェーンの未来

一次情報から学ぶ米国VCのブロックチェーン投資実態

サンフランシスコで開催された「SF Blockchain Week 2019」(以下、SFBW)のメインイベントEpicenterより、暗号資産・ブロックチェーン業界を牽引する豪華メンバーによるFireside Chat「The Real Crypto Oracles!」のレポートをお届けする。登壇者は、Pantera CapitalからDan Morehead氏、Galaxy DigitalからMike Novogratz氏、ConsenSysからJoseph Lubin氏、そしてモデレーターには人気YouTubeチャンネルNBTVを運営するNaomi Brockwell氏だ。

ブロックチェーン投資を牽引する巨人たち

まずは、本セッションのスピーカー陣を把握しておく必要がある。なぜなら、SFBWにおいて本セッションが最も豪華な顔触れであったといえるからだ。セッションでのトーク内容に限らず、日頃より彼らの発言には注目しておくことを推奨する。

Dan Morehead氏は、Pantera CapitalのCEOを務める人物だ。Pantera Capitalは、暗号資産・ブロックチェーン領域に特化したベンチャーキャピタルである。この領域に特化したファンドを組成したのは、米国ではPantera Capitalが最初だという。Pantera Capitalの特徴的な投資スキームとして、株式での出資とトークンでの出資を分けている点があげられる。株式での出資先の例としては、BakktやCircle、Earn.com、Ripple、Shapeshiftといった名だたる企業が存在する。一方のトークンでの出資先には、0xやEnigma、Kyber Network、Polkadot、Originなどが有名どころだろう。

残念ながら日本ではほとんど例がないが、米国では株式出資とエクイティ出資の両方に対応しているベンチャーキャピタルが少なくない。要するに、IPOとICOの両方を出口戦略として位置付けているのだ。米国でブロックチェーン熱が高まり続けているのには、こういった投資マネーの土壌が整備されている点があげられるだろう。

続いては、Galaxy DigitalのCEOを務めるMike Novogratz氏だ。Novogratz氏は、長年Goldman Sachsでパートナーを務めていた人物だ。2018年1月には、EOSブロックチェーンを活用したプロジェクトに特化して投資するファンドを、約325億円で設立したことで話題を呼んだ。出資先には、BakktやBitGo、BlockFi、Ripple、Bitstampなどの著名企業が名を連ねる。なお、Galaxy Digitalは日本にもオフィスを構えている。

最後に、ConsenSys創業者のJoseph Lubin氏を紹介する。Lubin氏は、今や誰もが知るEthereumの共同創業者だ。EthereumというとVitalik Buterin氏にばかり注目が集まるが、Lubin氏やPolkadot創業者のGavin Wood氏といった共同創業者の功績も非常に大きい。彼らがEthereumそのものだけでなくエコシステム全体を整備したことで、アプリケーション開発の基盤としてEthereumが地位を築くことができたのである。Lubin氏は、そんなEthereumの立ち上げと同時期にConsenSysを創業し、ブロックチェーンの導入支援やツールの開発を行ってきた。

左からモデレーターのNaomi Brockwell氏、Pantera CapitalのDan Morehead氏、Galaxy DigitalのMike Novogratz氏、ConsenSysのJoseph Lubin氏

暗号資産・ブロックチェーンとの出会い

前提知識のおさらいが長くなってしまったが、ここからはセッションについて触れていく。まず、本セッションのテーマは暗号資産革命の現状と未来についてだ。モデレーターのBrockwell氏を中心に、それぞれなぜこの領域にフォーカスしたのかが語られた。

Pantera CapitalのMorehead氏は、「ブロックチェーンとデジタル化された通貨が様々な産業で活用される未来を2013年に確信した」と語った。通貨は今まさに転換期に直面している。より仕組み化された応用性のあるものに変わるべきだと、彼はいう。

Galaxy DigitalのNovogratz氏は、この領域に参入する前に、ソーシャルデータを元に暗号資産に未来があるかを考察したという。彼は、暗号資産・ブロックチェーンによって変革されるものとして、SNSとマイクロペイメントをあげた。そして、「この二つの変革による、金融の民主化の実現を確信している」と述べている。Galaxy Digitalは投資業以外に、資産運用や取引業も行っているため、自ら金融領域を包括的に変革できる環境が整っているのだろう。

ConsenSysのLubin氏は、「(暗号資産との出会いは)Bitcoinが作り上げたエコシステムに触れたことがきっかけだ」と述べた。そして、Bitcoinブロックチェーンの仕組みを応用し、2013年にカナダのトロントでEthereumの構想に着手したという。当時、Bitcoin上にアプリケーションを開発する動きは少しずつ登場していた。しかし、より多くの開発者がアプリケーションを開発しやすくなるためには、専用のプラットフォームが必要だと感じたという。そういった背景で誕生したのが、Ethereumなのだ。

「Libra」「DC/EP」とプライバシーについて

モデレーターのBrockwell氏は、昨今話題となっているプライバシーの問題へと話題を移した。Galaxy DigitalのNovogratz氏は、「GoogleやFacebookといったTechGiantにデータを搾取し続けられている現状に憤りを感じている」と述べた。話題のLibraや中国のデジタル通貨DC/EPについても触れ、これらは金融の民主化とは程遠いと説明する。なぜなら、明確な管理者が存在するからだ。

Pantera CapitalのMorehead氏は、「既存のインターネット社会では全てが監視下に置かれ、常に何かに怯えながら生活しなければならなくなってしまった」と力説した。ブロックチェーンおよびそこで使われている暗号技術は、この状況に対するブレイクスルーになるという。

ConsenSysのLubin氏は、規制の観点から考察を述べた。彼はこれまでの各国における規制への取り組みを前向きに捉えているという。人類は皆、どこかの国で生きている以上はその国の法律を遵守すべきであり、その国によってあらゆる側面で守られるべきだ。よってプライバシーの問題は議論すべき最重要テーマなのだという。Lubin氏は、「この業界は時にもう少し保守的な要素を持ち合わせる必要がある」と語った。思想が先行し過激な姿勢が印象的な業界であるため、古くから身を置いてきた視点が危機感を物語っているのだろう。

暗号資産・ブロックチェーンの未来

最後に、今後の暗号資産・ブロックチェーンには何が必要かについて言及された。Pantera CapitalのMorehead氏は、「スケーラビリティが鍵になる」と考察する。10月に日本で開催されたEthereumの開発者カンファレンスDevconでも、スケーラビリティの問題を解消することを中心とした、レイヤー2以降の取り組みが議論されていた。ブロックチェーンが様々な産業に浸透していくには、単純に使えるかどうかという点が非常に重要だ。大手VCを率いる同氏としては、産業の発展を期待した意見であることが伺える。

ConsenSysのLubin氏は、「プライバシーと機密性が重要だ」と語った。技術に明るいLubin氏ならば、スケーラビリティを取り上げるかと考えられたが、これは意外な回答だった。背景としては、ブロックチェーンは既に実用化フェーズに入っていることがあげられる。これまでは幹となるプロトコルの整備が最重要テーマだったが、今後は枝葉や果実となるミドルウェアやアプリケーションを増やしていくことが重要になってくるのかもしれない。

著者の考察

今回、SFBWに参加して最も印象に残っているのが、日本と米国のVCの違いだ。まず、米国で開催されるバーティカルなカンファレンスは(SFBWはブロックチェーン特化)、VCによる登壇が非常に多い。それだけ彼らはテクノロジーや規制に明るいのである。むしろ、投資家としてスタートアップと苦楽を共にする以上、起業家と同じレベルで理解できていないことを恥ずべきことだと考えている気すらしている。実際、Galaxy Digitalはブロックチェーンの中でさらにEOSに特化した300億円規模のファンドを組成している。正直、これは日本では全く考えられない。私自身スタートアップの経営者である身として、今後のベンチャーマネーの流入を期待したいところだ。

田上 智裕

株式会社techtec代表取締役。チームラボでのアプリ開発やリクルートでの全社ブロックチェーンR&Dを経験後、株式会社techtecを創業。「学習するほどトークンがもらえる」ブロックチェーンの学習サービス「PoL(ポル)」を運営。メディアでの執筆や海外での講演も行なっている。

Twitter:@tomohiro_tagami