イベントレポート

Facebookの仮想通貨リブラの衝撃、中国デジタル人民元のゆくえ

CBDC発行を検討する国とそうでない国

FLOCブロックチェーン大学校・講師の志茂博氏

去る12月5日、FLOCが運営するブロックチェーン総合スクール「FLOCブロックチェーン大学校」の講師3名が2020年のブロックチェーンと仮想通貨業界の展望についてのプレゼンテーションを行った。

この記事はそのプレゼンテーションの要約を3回に分けて紹介する。第2回はFacebookの仮想通貨「Libra(リブラ)」の仕組みと世界のデジタル通貨のゆくえについてFLOCブロックチェーン大学校の講師である志茂博氏が語った。

各通貨システムの相違

2019年、FacebookがLibraという仮想通貨の構想を発表した。これは単なる産業的な話題であるだけでなく、政治的な観点でも、経済的な観点でもいままでにないほどの大きなインパクトを与えた。

LibraとこれまでのBitcoinのような仮想通貨との大きな違いは、Facebookという巨大IT企業が旗を振っているということと、その潜在的なユーザーになり得るFacebookの既存ユーザーが世界に20億人もいるということ、さらに、技術的にはブロックチェーンを使って実装をしようとしているという点である。

Libraの発表を受け、各国の政府は反対を表明したり、規制が整うまでは許認可しないと表明したりした。さらに、これをきっかけとして活発になった議論が中央銀行発行デジタル通貨(CBDC:Central Bank Digital Currency)である。そのなかで、もっとも世界の関心を集めているのが中国の動きである。中国政府が人民元のCBDC発行に積極的な姿勢を見せているからだ。

そもそもBitcoinが革命的だったのは「人々のための通貨」だということだ。これまでの法定通貨は国や中央銀行によってコントロールされていた。そして、リーマンショックのときには、破綻しそうな金融機関を救済し、金融システムを維持するためにたくさんのドルを発行する措置をとった。こうした出来事をきっかけとして、通貨の価値は国や中央銀行の意向によって薄められていくということに気づいた人々のなかから、国や中央銀行、そして既存の金融産業の構造を否定するような考え方が生まれていく。そこで、2100万枚しか発行できないと決められているBitcoinという通貨システムを作り上げ、国や中央銀行の意向とは無関係で、かつ金融機関をバイバスできる仕組みとして考えられた。これは暗号技術を駆使して、プライバシーを守ろうとするカルチャーのなかから生まれてきた革命的な技術でもある。

当初、Bitcoinが登場したとき、政府はあまり関心を示さなかった。しかし、今年、FacebookからLibraという新たな仮想通貨のアイデアが発表され、それが実現に向けて動き出したことから、急速に危機感を募らせるようになっていった。なぜかというと、いきなりFacebookのユーザー20億人が使うようになるかもしれないということ、これまでの仮想通貨とは異なり、その価格を安定させようとしたコンセプトを持っていた点である。これまでのBitcoinなどの仮想通貨は大きく価格が変動するために、投機的な色彩が強く、決済に使うには難しかったからだ。Libraでは価格を安定させる方法として、米ドルという特定の法定通貨だけを裏付け資産とするのではなく、さまざまな通貨などの金融商品をバスケット型にして保有し、それを裏付け資産としようとしている。

Libra発表に伴う国際競争へのインパクト

仮想通貨は法定通貨と異なり、国の監督が行き届かない。すなわち、Facebookのようなグローバル企業が20億人ともいわれる潜在ユーザー向けに通貨を発行すると、国としては経済政策をコントロールできないという事態が生じることになる。米国議会で説明を求められたFacebookのマーク・ザッカーバーグCEOは「いま、米国でこれに取り組まなければ、いずれ中国に先を越されることになる」という趣旨の発言をした。米国政府としては、国際社会における米国ドルの覇権を脅かしかねない事態を認めるわけにはいかない。

そのようななか、中国は人民元をデジタル通貨にすることを推進するという姿勢を見せている。とりわけ、米中での経済摩擦があるなかでは中国に通貨の覇権を握られることを容認するわけにはいかない事態でもある。さらに、中国だけでなく、米国ドルを国際通貨であると認めたくない勢力として欧州がある。このように見ていくと、CBDCをめぐる国と国との国際的な争いになりつつあるといえる。

CBDCにはいくつかのメリットとデメリットがある。デメリットとしては、プライバシーの問題がある。ユーザーのお金の動きを政府が捕捉することも可能になり、国民のプライバシーに対する影響が懸念されている。一方で、メリットとしては送金や決済などが低コストで、容易になるということなどがある。それぞれがかなり異なった特徴を持つことから、将来的にも、お互いをつぶし合うようなことにはならず、用途に応じて使い分けられるように共存するのではないかと考えられる。

図1:どんな用途に適しているか

また、今後、こうした動きがどうなるのかということを考えていくと、鍵となるのはグローバル化ということだろう。通貨を既存の国をまたいで国際的に流通させるのかどうかという点である。また、デジタル化技術、フィンテック技術の向上により、こうした通貨がどう活用されていくのかという点も注視すべきポイントだろう。仮想通貨、とりわけLibraは国際的な金融システムの再編を促すことにもつながる一石を投じた。

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。