イベントレポート

ニトリ、自社物流システムにブロックチェーン活用

未来の物流をどう実現させるか=Legacy Tech Conference 2020

左から、ホームロジスティクス・CIO兼ソリューション事業本部本部長の深作康太氏、LayerX・CEOの福島良典氏、オプティマインド・代表取締役社長の松下健氏、プロトスター・顧問の山口豪志氏

インターネットによりネット社会が加速する中で、経営における競争力の源泉としてロジスティクス(物流)の重要性が再認識され始めている。物流業界の最前線にいる家具・生活雑貨小売業最大手のニトリは、ニトリグループの群戦略として自社の物流システムにブロックチェーンの活用とオープンAPI化を取り入れようとしている。

ニトリグループにて物流を担うホームロジスティクス・CIOの深作康太氏は2月7日、東京ミッドタウン日比谷・BASEQにて開催された「Legacy Tech Conference 2020」に登壇し、物流業界の構造をリデザインするプレイヤーたちと共に、未来の物流をどう実現しようとしているのかをパネルディスカッション形式で語った。

「Legacy Tech Conference 2020」は、大企業とスタートアップが垣根を越え、ビジネスにおける次の挑戦トレンドを発信する招待制のカンファレンスだ。「Legacy Tech」ということで、既存のビジネスモデルや組織のあり方を新たなテクノロジーでどうリデザインしていくのかをディスカッションしていく場となる。

「物流業界の仕掛け人、ニトリが牽引する群戦略としてのロジスティクス」をテーマに掲げたパネルディスカッションでは、カンファレンスを主催するプロトスター・顧問の山口豪志氏が司会進行を務め、ホームロジスティクスの深作康太氏を中心に、同社の物流リデザインを共に担うパートナー、LayerX・CEOの福島良典氏とオプティマインド・代表取締役社長の松下健氏がディスカッションに参加した。

ニトリグループ、ホームロジスティクスの新規事業

ホームロジスティクスでは、700億円規模となるニトリの物流を担うと共に、その他の企業に関しても20億円規模の物流を請け負っている。全国の運送会社150社をパートナーに、車両台数2万4000台、ドライバー1万6000人を抱え、物流を行っている。ちなみにパートナー運送会社の規模は年商50億円以下の企業が8割を占めるという。

物流量では、海外サプライヤーから年間18万本程度のコンテナにて家具等を輸入する。この量は、日本の全産業の3%程度であるとのこと。それらの家具は、DC(在庫型物流センター)から、ニトリ519店舗または営業所(デポ)78拠点に配送される。配送量は、トラックにしてのべ21万台となる。店舗・営業所から消費者(購入者)へと渡るラストワンマイルと呼ばれる配送は、300万件にものぼるという。これらをホームロジスティクス以下、運送会社150社で担っていると、同社の深作康太氏は説明する。

日本のサプライチェーン・マネジメントをアップデート

大規模な物流をこなすホームロジスティクスだが、同社は次世代の物流についてLayerX社やオプティマインド社らパートナー企業と共に、日本のSCM(サプライチェーン・マネジメント)の効率化などアップデートを目的に、社会課題になりつつある人手不足や車両不足の解消も視野に入れながら、新しい事業として取り組みを始めたという。

すでにホームロジスティクスの物流においては、消費者への配送に関して一部、オプティマインド社のラストワンマイルに特化した配送ルート最適化サービス「Loogia(ルージア)」を導入し利用していると話す深作氏。オプティマインド社の製品を使用しながら、より効率的な配送を行っていると、今回のパートナーとの関係性を語った。

オプティマインド社の松下健氏は、それを受けて「Loogia」について解説をする。「Loogia」は、AIを活用し、誰でも簡単に配送までの最適なルートを作成することができ、また手間のかかる複雑な配車計画をAIにより自動作成し最適な配車計画を組むなど、まさにラストワンマイルの業務を効率化している旨を報告。両社は、さらに効率化をはかっていくという。

自社配送を視野に

物流業界の構造

深作氏は、ここで物流業界の構造について解説をした。ニトリは150社の運送会社とともに物流を行っているが、一方で自社配送についても進める予定であることを明かした。自社配送は、ECを中心とした小売業者におけるトレンドでもあるという。

物流業界の構造を示す上記スライドでは、荷主の部分がニトリにあたり、その下にある運送A社、B社というのがパートナーである運送会社、そして荷主のすぐ右下に表示する色の付いた部分が自社配送を示しているという。具体的には、物流業界・運送業界の最下層レイヤーにあたる個人事業者、個人ドライバーに直接配送依頼・契約が行える仕組みを作りたいというのだ。

しかし、そういった個人ドライバーはどこにいるのか?また、家具という特殊な荷物を運ぶにはスキルが必要だ。なかなか個人に仕事を依頼するのは難しい状況だという。これを実現するには、物流業界における「平等な価値の連鎖」が必要であるという。それには今後、物流業界におけるドライバーのスキルや実績のデータ化、契約から決済までの電子化が必須であり、ブロックチェーン技術が必要だという結論に至ったと話す。

そこで、パートナーとなったのがLayerX社だ。同社は、ブロックチェーン領域のコンサルティングとプロダクト開発などのサービスを国内外で展開する会社である。深作氏は、ただブロックチェーン部分の設計をLayerX社にお願いするのではなく、もっと広範囲に物流という事業をどうアップデートしていくのかというところまで、福島氏に一緒に入ってもらっていると、その関係性を明らかにした。

Gunosyの創業者でもあるLayerX社の福島氏は、Gunosyのようなニュースメディアを通して思うのは、これまでのインターネット産業で起きた技術の変革やソフトウェアの進化は、空いている時間を効率よく利用するようになった。しかし、仕事をしている時間やプロセスをどれだけデジタル化し、効率をあげたかを考えると、日本はまだまだそこは進んでいないという。業務上のオペレーションをデジタル化し、もっと楽にしていこう、生産性を上げていこうという観点から物事のデジタル化を考えたいという思いからLayerX社を創業し活動していると福島氏は述べた。

福島氏は、「デジタル化」という単語を面で捉えている人と立体的に捉えている人がおり、この捉え方の違いが今後は大きな差になるという。面で捉えるというのは、リアルなものがあって(店舗等)、それに対してデジタルという新しい集客口が増えるという考えだ。この場合は、では「ホームページを作ります」「アプリを作ります」という関係性にしかならない。立体的にデジタル化を考えるというのは、既存のオペレーションをデジタルでどう再定義するか、どう効率化をはかるということだという。根本的なビジネスモデルは変わらないが、これまでの業務はどうやって行ってきたのか、また何が問題だったのかなど、構想の段階から一緒に考えることが重要であるという。

今回の事業においては、同じ目線で同じ課題を見て、物流のプロとしての意見、ソフトウェア開発のプロとしての意見を出し合い、その結果がこうであるという形の物を一緒に作りあげていきたいと福島氏は考えているという。

前述の通り、最終的に物流業界・運送業界の最下層レイヤーにあたる個人事業者、個人ドライバーに直接配送依頼・契約が行える仕組みを作るために、ニトリの物流リデザインを共に担うパートナー、LayerX社とオプティマインド社は、これから共に歩んでいくという。ブロックチェーンを起点とした業務デジタル化による既存システムの再構築は、これまでのインターネットによる社会の変化よりも、はるかに変化の大きな20年、社会にインパクトを与えるものになるだろうと3者は予測する。

しかし、まずは大きな改革というよりも、オペレーションの1つ1つを効率よくデジタル化させていきながら、ドライバーや配送を行う者がストレスと感じていることを平準化することで負担を分散し、余裕を持ったオペレーションができるよう改善をしていきたいという。コスト削減や配送時間の短縮に一喜一憂するのではなく、ドライバーが安心し、ゆとりを持てる仕組みを作りたいと語った。その結果、ちょっといつもより笑顔が増えた、今までよりも世間話が多くなったといった変化を起こしたいと、深作氏はパネルディスカッションを締めくくった。

お詫びと訂正: 記事初出時、LayerX社に関する記述に誤りがございました。お詫びして訂正させていただきます。

高橋ピョン太