イベントレポート

ブロックチェーンでメディアの未来はどう変わる?

情報と同時に価値を届ける時代に=Legacy Tech Conference 2020

左から博報堂・HAKUHODO Blockchain Initiativeの伊藤佑介氏、Tokyo Otaku Mode・取締役副社長の安宅基氏、CryptoGames・代表取締役社長の小澤孝太氏、幻冬舎・あたらしい経済編集長の設楽悠介氏

すべての産業の基盤技術として、ブロックチェーン技術が日常的に使われる時代が来る。ブロックチェーンが我々の仕事や生活において、多くの既存の価値の転換を巻き起こし、あたらしい経済の時代を迎える。そう予見するのは、幻冬舎・あたらしい経済編集長の設楽悠介氏だ。

2月7日、東京ミッドタウン日比谷・BASEQにて開催された「Legacy Tech Conference 2020」では、設楽氏と博報堂・HAKUHODO Blockchain Initiativeの伊藤佑介氏、Tokyo Otaku Mode・取締役副社長の安宅基氏、CryptoGames・代表取締役社長の小澤孝太氏が登壇。「ブロックチェーンはメディアの価値を再発明できるのか?」をテーマに、ブロックチェーン技術がもたらすメディアの未来について議論を行った。

司会進行を務める設楽氏は、ブロックチェーン・仮想通貨(暗号通貨)・トークンエコノミーなどの「あたらしい経済」をテーマにしたビジネスマン向けのWebメディアの編集長。他の登壇者は全員、メディア領域において、実際にブロックチェーン技術を活用し、既存の価値を変えようと奮闘する、業界からのメンバーとなる。パネルディスカッションは、設楽氏が登壇者に対して質問を行い、ブロックチェーン業界の実態を探る方式で進行した。

ブロックチェーンは確実に浸透している

設楽氏は、ブロックチェーン技術の登場により変化し始めた世の中について、簡単に解説を行った。

設楽氏が編集長を務めるWebメディア「あたらしい経済」は、ブロックチェーンがもたらすパラダイムシフトを生き残るための情報を提供するメディアであると、氏は話す。今、我々に訪れようとしている「あたらしい経済」とは、まずはお金の民主化であるという。Bitcoinの仕組みであるブロックチェーンは、国や銀行が管理していない価値のあるお金を作り上げた。まさしくお金の民主化であると語った。

また同時にブロックチェーンは、Ethereumのスマートコントラクトの登場により、あらゆるプログラム、プラットフォームを民主化させるきっかけを与えたという。それにより、大手企業やプラットフォーマーが動き出し、Amazonやマイクロソフトは、ブロックチェーンを管理するプラットフォームを提供し始め、Facebookらは仮想通貨Libraを発表した。

そして、ここにきて国も動き出しているという。それは中央銀行デジタル通貨(CBDC)だ。中国がCBDCの発行計画を発表すると、欧州、日本、米国をはじめとした国々がCBDCに対するスタンスを明らかにした。

あたらしい経済とは、分散化の時代、個人の時代への移行であると語った。ブロックチェーン技術によりコンテンツが主役となる時代が到来し、コンテンツ二次流通市場が勃興するだろうとも予見した。

続いてパネルディスカッションは、登壇者各自のブロックチェーンへの取り組みについて自己紹介がてら、それぞれが概要を紹介した。

博報堂の伊藤佑介氏は、氏のブロックチェーンへの興味から、2018年に「HAKUHODO Blockchain Initiative」(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)を発足、マーケティング領域におけるブロックチェーン技術を活用したソリューションの開発を始めたという。

最初は理解者が少なかったが、ブロックチェーンによる価値の転換を予見し、同社の強みである他企業との連携により、ブロックチェーンサービスを提供する企業に向けて、サービス内のユーザーコミュニティがどのように活性化し得るのかを分析する「トークンコミュニティ・アナライザー」をリリースしたり、深夜ラジオ番組の放送内でDAppsゲームのキャラクターやアイテムを配布する試験放送を実施したりなど、他メディアと連携したサービスの提供を数多く実施している。

伊藤氏の、今までの「情報としての広告、メディア」を、「価値としての広告、メディア」にアップグレードしていきたいという言葉が印象的だった。

日本のポップカルチャーを世界に発信するTokyo Otaku Modeの安宅基氏は、同社とイード社、bitFlyerグループと協業で実証実験を行ったブロックチェーン活用の翻訳プラットフォーム「Tokyo Honyaku Quest」を紹介した。

Tokyo Honyaku Questは、日本語アニメニュース記事を、ファンが翻訳家となり記事の翻訳ができるプラットフォーム。イードが運営するWebメディア「アニメ!アニメ!」の日本語記事を翻訳の対象に世界中のファンが翻訳をする。サイト上で依頼された記事を、翻訳者と校正者がペアで翻訳をする。記事が完成すると報酬がトークンで支払われ、海外向けの記事として公開される。貯まったトークンは、さまざまな特典と交換可能だという。翻訳トークンエコノミーで気軽に海外展開を実現させている。現在、その翻訳文字数は300万字、英語に翻訳された記事は1000件を超えたそうだ。

中高時代からMMOゲーマーだったと自己紹介をするCryptoGamesの小澤孝太氏は、「ブロックチェーンでゲームをもっと面白く」をテーマにゲームを開発し、公開している。同社のブロックチェーントレーディングカードゲーム「クリプトスペルズ」は、仮想通貨やウォレットなしでも遊べるカードゲーム。カードをEthereumのERC-721トークン(NFT)として発行することで資産化し、ユーザー間で自由に取引ができる世界を実現させている。カードはNFTコンバートを介し、他のゲームでも使用できる拡張性を有する。ブロックチェーンゲームならではの、資産価値のあるゲームを提供している。

メディアの未来を予測する

設楽氏は、登壇者の自己紹介を聞き、ブロックチェーンの実用化は思っていた以上に進んでいることを実感したという。しかしながらブロックチェーンには、規制や処理性能の問題などさまざまな課題も抱えている。では、これらが解消されたと仮定し、ブロックチェーンが世の中に浸透した未来において、メディアはどのように変化しているだろうか。設楽氏は、それぞれの予測を登壇者に尋ねた。

伊藤氏は、テレビやラジオなどマスメディアの未来を語った。テレビやラジオはWeb広告も含めて、これまでのマスメディアは大勢の人たちに見てもらうことで、メディアの役目を果たしていた。しかし、インターネットが発達したことで、情報の価値は相対的に下がり、既存のメディアが発信する情報自体も価値が薄れつつあると語った。これからのメディアは、個人にフォーカスした個別の情報が提供できないと価値ある情報にはならず、また人を集めることはできないと分析する。個人が情報だけでは満足しないであろう未来は、価値のインターネットと呼ばれるブロックチェーンが情報と同時に価値を届ける、そういう時代を予見していると語った。

Webメディア領域からの視点でどう見るかと尋ねられた安宅氏は、わかりやすいところではアニメ業界が変わるのではないかと答えた。現在、アニメを1本作るには3億円ぐらいかかるが、作品がヒットする率は10本に1本以下だといわれている。ビジネスとしては、リスクが高い。それもあり、現在は製作委員会モデルというアニメの作り方ができ、複数社でリスクを分散させようという考え方で資金を集めているのが主流だという。これがブロックチェーンを活用することで、世界中のファンから出資してもらえる環境が整い、かつ大勢から小額を募るだけでも資金調達が可能になるだろうと語った。これらはクラウドファンディングでも可能だが、ブロックチェーンを活用すれば同時に権利などをオープン化し付与することができ、契約等もすべてデジタル上で可能になり効率がいいだろうという。

ブロックチェーンゲームの世界は、すでにそのような未来にさしかかりつつあるのではないか。小澤氏に質問が飛ぶ。

小澤氏は、ゲームの運営をみんな(プレイヤー)でする事例を挙げる。とあるブロックチェーンゲームのキャラクターが、ストックオプションのような働きをしているというのだ。ゲームのキャラクターを所有するユーザーが、そのゲームが流行れば自分のキャラクターの価値も上がるということで、ユーザー自身が勝手にゲームを盛り上げる行動に出るという。ユーザーが大会やイベントを自主的に行うそうだ。そういったイベントには、ゲームを開発・提供する企業は関わっていないのが、ブロックチェーンゲームの特徴だ。それはすべてキャラクター(カード)が資産となり、マーケットプレイス等で取引が可能な世界をブロックチェーンが実現させているからにほかならない。

また小澤氏は、かつてのゲームでは、キャラクターを育てたゲームアカウントを不正に取引をしたり、チートで不正をしたりして稼いでいたユーザーもいたが、ブロックチェーンゲームでは不正が難しく、健全であり、そういう意味でも資産のやり取りが安心して行えるゲームだという。ブロックチェーンゲームは、資産が担保されたゲームだと話す。

設楽氏は、今、ゲームで稼ぐにはeスポーツに参加して大会に勝つという方法しか考えられないが、法が整備されれば、ブロックチェーンゲームのキャラクターを育成し、資産価値を高め、資産運用をするような世界も可能性はあるとまとめた。

ブロックチェーンの価値移転は、さまざまなコンテンツを主役にし、そして二次流通市場を形成することは間違いなさそうだ。ゲームに限れば、ソーシャルゲームで散々課金をし育て上げたキャラクターもゲームを辞めてしまうことでなんの価値もなくなるが、ブロックチェーンゲームにて資産化されたキャラクターたちは、たとえゲームを辞めても資産価値として残る。既存の価値の転換を体現する、わかりやすい事例なのではないだろうか。

高橋ピョン太