イベントレポート

KDDIとディーカレットら、デジタル通貨×スマートコントラクトを実証

「昨日より寒いのでホットが割引」前日との気温差で価格決定

(Image: Ned Snowman / Shutterstock.com)

KDDI、auフィナンシャルホールディングス(auFH)、ウェブマネー(4月にauペイメントに社名変更予定)、ディーカレットの4社は、2020年2月18日から2月28日まで、ブロックチェーン上に発行するデジタル通貨に関する共同検証を実施する。2月18日付けでディーカレットが開催したメディア向け勉強会で、このデジタル通貨に関する説明を行った。

資金移動業者であるウェブマネーがデジタル通貨の発行体となり、デジタル通貨を実現するプラットフォームはディーカレットが提供する。デジタル通貨の実態はプライベートブロックチェーン(Enterprise Ethereum)上のトークンである。秘密鍵はサーバー側で管理する。

今回のデジタル通貨実証の実施内容

実証の内容は、10日間にわたり、KDDIの社内のカフェで飲み物などの決済に用いるというもの。参加者はプロジェクトメンバーなど特定少数に限定する。プログラマブルマネーの実験として、気温差に従って飲み物の価格を変えるダイナミックプライシングの機能をスマートコントラクトの機能を使い実現して提供する。例えば前日より気温が低い場合ホット飲料の値段を下げるなど自動割引を行う。利用者はスマートフォンアプリを使い決済する。いわゆるQRコード決済アプリと似た使い勝手となる。

資金移動業、スマートコントラクトを組みあわせる

ディーカレットCTOの白石陽介氏

ディーカレットCTOの白石陽介氏は「検証するデジタル通貨では、法的な定義として資金移動業、ブロックチェーン技術としてEnterprise Ethereumを用いる」と説明する。この2点は重要なポイントだ。

1点目に、資金移動業は「○○Pay」と呼ばれる決済アプリですでに使われている。つまり、決済手段として実績があり、法的な解釈に悩まされずに検証や事業に取り組むことができる。

資金移動業の枠組みでプログラマブルマネーを実現

資金移動業は100万円までの資金移動が可能で、転々流通(個人から個人にデジタル通貨を送金すること)はできない。これに比べると、仮想通貨(暗号資産)は送金額に上限がなく転々流通が可能でより便利という見方もできる。今回、仮想通貨の選択肢を取らなかった理由は、「仮想通貨建てのステーブルコインに法的な整理がつくのに時間がかかりそうだ」(ディーカレット白石氏)という現状分析がある。

世界的に見ると価格が安定したステーブルコインは複数種類が登場し流通している。しかしいずれも日本の仮想通貨交換所では扱っていないのが現状である。日本の現行の資金決済法では通貨建て資産を仮想通貨の定義から除外していることから、ステーブルコインの法的な位置付けにグレーゾーンがあるためだ。その点、資金移動業であれば、その気になれば最短時間でサービスを開始することが可能だ。

2点目に、資金移動業の枠組みで発行するデジタル通貨のプラットフォームとしてはブロックチェーン技術(Enterprise Ethereum)を使う。特徴はスマートコントラクトを活用できること。「このデジタル通貨は、スマートコントラクトを“喋る”ことができる」と白石氏は語る。

auフィナンシャルホールディングスの藤井達人氏(執行役員 最高デジタル責任者 兼 Fintech企画部長)

今回の実証では、スマートコントラクトの応用としてダイナミックプライシングを試すが、スマートコントラクトには様々な可能性がある。「ブロックチェーンを応用した取り組みを行っている企業で、ラストワンマイルの決済の部分で困っている企業がいたら、手を組めたらいいと考えている。例えばM2M(Machine to Machine)、IoT分野の決済に使うケースも考えられる」。auFHの藤井達人氏(執行役員 最高デジタル責任者 兼 Fintech企画部長)はそのように語っている。

今回のデジタル通貨の検証の取り組みは、「ブロックチェーン」と「資金移動業」という二つの世界を接続する試みだ。ブロックチェーンによるデジタル変革を推進する上では、どこかで決済手段という現実世界との接点が必要となる。その際、資金移動業の形態を取るデジタル通貨は一つの「出入り口」となるだろう。

一方、資金移動業に基づく決済サービス(いわゆる「○○Pay」など)の側から見ても、ブロックチェーンの特徴であるスマートコントラクトを活用できることにより、新しい可能性が開ける。「スマートコントラクトを開発している企業とも手を組んで行ければ」とauFHの藤井氏は話している。

星 暁雄

フリーランスITジャーナリスト。最近はブロックチェーン技術と暗号通貨/仮想通貨分野に物書きとして関心を持つ。書いてきた分野はUNIX、半導体、オブジェクト指向言語、Javaテクノロジー、エンタープライズシステム、Android、クラウドサービスなど。イノベーティブなテクノロジーの取材が好物。