イベントレポート

新型コロナウイルス感染防止策における中国のブロックチェーン活用

BCCCがオンライン緊急セミナーを開催

ブロックチェーン推進協会(BCCC)は3月6日、新型コロナウイルスの感染拡大に備え、感染拡大防止策という観点からのブロックチェーン技術の可能性を探究する、緊急セミナーを開催した。協会会員向けに、中国を中心とした海外における感染抑止に繋がるブロックチェーンの技術適用事例を紹介した。今回のセミナーは、BCCC初の試みとなるZoomのウェブビデオ会議を使用したオンラインによる開催となった。

BCCCメイン会場は、BCCCエバンジェリストの浜谷貞祐氏(左)と奥達男氏(右)のみ参加

緊急セミナーは、第1回BCCCエバンジェリストアクティビティーズとして、1月にBCCCエバンジェリストに任命された日本情報通信の浜谷貞祐氏の司会進行のもと、同じくBCCCエバンジェリストに任命されたカイカの奥達男氏と、日本テラデータ ICファイナンス担当の中山思遠氏が講師を努め、2部構成による講演を行った。

協会会員およびメディアは、ビデオ会議Zoomにて参加

中国の感染防止政策

前半は、「中国における金融帰化FinTech企業の新型コロナウイルス対応と政策」と題し、中山氏が講演。新型コロナウイルス感染拡大防止策として、中国にて利活用されるブロックチェーン技術の最新情報を紹介した。

セミナー資料より引用、以下同

新型コロナウイルスの発症源となってしまった中国は、湖北省・武漢市を中心に様々な感染拡大防止対策をほどこしてきたが、中国政府は2月3日、新型肺炎対策会議でAI、ビッグデータ等のテクノロジーを活用することを新たに決定したという。

官庁におけるIT技術等を統括する工業及び情報部は、「人工知能固有の能力を十分に発揮させ新型肺炎流行阻止に貢献させることについての提案」により、従来の感染予防技術の欠点を補うAI技術の開発強化、製品化を進め、各企業が新型肺炎流行阻止に貢献できるよう奨励する。また、遠隔医療用のソリューション開発を促す政策についても提案している。

国家衛生健康委員会は、「IT化強化による新型コロナウイルスによる肺炎流行予防業務の支援についての通知」と題した通知を行っている。具体的には、交通、政府各部門、医療部門が保有するビッグデータをオープン化し、企業がデータをよりインタラクティブに活用できるよう支援するという。各企業が、ビッグデータを分析し、感染状況のリアルタイム追跡、予想、予防等に利用できる環境の提供を開始している。

専門家による地域医療機関に対するオンライン診断支援、オンライン教育プラットフォームによる医療従事者に対する新型肺炎に関する予防、治療教育の実施も行っている。大小様々な病院において、新型肺炎に関する知見が片寄らないよう、専門家がオンライン支援している。また、行政はオンライン病院の申請を積極的に受け付け、各病院のオンライン診療の活用を促進していくという。

金融面において中国人民銀行とその関連部署は、「金融による新型コロナウイルス肺炎の感染予防支援をさらに強化することに関する通知」により、感染拡大で損害を受ける業種、地域に対する金融支援や医療用物資等生産企業に対する支援、手続きの簡略化を通知した。電子決済、モバイルバンキング等を活用して、金融サービスの維持に努めることを報告している。

これらのIT技術やFintechを活用することで得られる成果は、北京大学とAnt Financialの研究によれば、金融機関は新型コロナウイルスによる打撃を、対策を取らなかった場合に比べて最大で51%削減できると報告している。

金融機関とFintech企業の具体策

中国政府の政策を受け、金融機関とFintech企業は「金融的支援」「技術の応用」「付加価値の提供」といった具体策を実施している。

金融的支援として金融機関は、湖北省など特定地域、飲食店など特定の業種に対し低金利、無担保の特別融資を実施する。また、医療関係者などの感染予防業務従事者、湖北省など一部の地域の債務者に対する返済を延期し、新たに医薬品関連企業、医薬品購入のための特別ローンを導入する。

決済面においては、医薬品関連企業、医薬品購入のための決済、送金優遇措置を導入。医療物資購入等のための海外送金手続きを迅速化した。医療機関、慈善団体向けのモバイルペイメント手数料等を無料にするといった対策を実施している。

講演では、具体的な事例も紹介している。

アリババグループのAnt Financialは、アリババのプラットフォームを利用する湖北省の業者に対して3か月無利子、9か月間金利20%引きの1年特別融資を実施。また、医薬品関連企業、感染予防物資購入に対する特別融資も行っている。湖北省ではすでに100億人民元を融資したという。さらには、中国全土の医療従事者向けに新型肺炎を保障する保険を無料提供。中小企業向けの新型肺炎による業務停止、店主が感染した場合の保障保険の無料提供も実施しているという。

技術の応用として、Fintech企業は自社技術を活用し感染予防支援を行っているという。

すでに、金融機関向けのAIを活用した自然言語認識、合成音声を利用した自動応答システムを病院向けに改良し無料で提供し、電話やアプリによる問診に応用しているほか、ビッグデータ解析、データ収集能力を利用して、感染予防政策立案の支援、感染流行の予想、個人の感染リスク分析、企業の営業再開を支援するソリューションなどを提供し、感染予防、営業再開支援をしているという。

感染予防支援として、画像認識などを使った様々なソリューションの提供も行われている。

Ant Financialは、画像認識、データ分析を利用してマスクや防護服を自動で消毒するごみ箱を開発した。上海市内のテックパークにて、不法投棄、不適切な廃棄方法による汚染物の廃棄を防止している。

テンセントは、マスクをしていても顔認証ができる認証システムを開発、オートロックの解除、施設等への出入管理システムに利用する予定だという。

その他の付加価値サービスとして、オンライン医療を実施する。

平安保険傘下のオンライン診療プラットフォーム「平安グッドドクター」は新型肺炎流行から11億回以上のオンライン診察、問診を行ったという。これは2019年通年の診察、問診回数を大きく上回る結果になった。

また、自社アプリに、感染、流行状況が確認できるダッシュボードを追加し、アプリ上から自身の行動を確認し、感染のリスクを確認できるサービスを提供する企業も増加している。Ant Financialはアリペイ上から最新の感染状況、予防知識を取得できるダッシュボードを追加。複数の銀行、WeChat Payも同様のサービスを提供しているという。

自社サービスの利用者のために、外部動画共有サイト、オンライン教育サイトと提携し、無料で見られるオンライン教育、娯楽動画を提供する企業も増えているという。

具体例では、衆安保険は加入者には外部プラットフォームと提携したオンライン学習、運動関連のコンテンツを無料提供、中国農業銀行は自行の教育機関向け金融プラットフォームからオンライン教育ソリューションをテンセントと合同で提供している例を挙げた。

後半はブロックチェーン適用事例のまとめ

緊急セミナーの後半は、BCCCエバンジェリストの奥氏による新型コロナウイルス対策ブロックチェーン適用事例の紹介が行われた。

奥氏は、新型コロナウイルス対策としてブロックチェーンが適用されている事例を分析すると、大きく分けて情報共有とトレーサビリティの2分野、またその両方に機能する技術適用が見られるという。

情報共有とトレーサビリティでの事例では、山東財経大学の取り組みを紹介。山東財経大学は、アリババクラウドが大学向けに開放したブロックチェーンプラットフォームを活用し、学生と教職員の健康状況を示すデータや外出データ等の各種データをリアルタイムに表示し、学内の新型肺炎対策に役立てているという。旧正月等で大半の学生が実家に帰省している状況から、キャンパスに戻るための情報を一元管理しているという。

情報共有での事例では、広州中国科学院ソフトウェア応用技術研究所や南沙区産業情報技術局ほかが開発する、新型コロナウイルスの感染拡大防止に関する必要情報を取得・閲覧できるプラットフォームを紹介する。複数か所からの収集データをブロックチェーンで管理し、データに署名をつけることにより、信頼性を向上させる仕組みに応用している。

その他にも、講演では公衆衛生アプリケーションやウイルス状況管理に関する構想事例などが多数紹介された。いずれも、奥氏がインターネットを介し調査した結果のため、ブロックチェーンの具体的な活用方法や詳細については、定かではないと付け加えた。

高橋ピョン太