イベントレポート

ブロックチェーン・ガバナンス団体"BGIN"が発足

分野横断で標準文書やサンプルコード作成を目指す

(Image: Shutterstock.com)

3月10日、ブロックチェーン分野のガバナンスのための団体「Blockchain Governance Initiative Network」(略称:BGIN)が結成された。「(団体名は)ビギン(BEGIN)と読む。ものごとが新たに始まることを示すネーミングだ」(金融庁 フィンテック室長の三輪純平氏)。

創設メンバーとしてBitcoinとEthereumのコア開発者、ブロックチェーン関連分野の研究者、各国の金融当局の担当者、仮想通貨取引所の担当者ら23人が名前を連ねる。メンバーは個人の資格で参加し、ブロックチェーン分野の技術発展や規制について議論し、共通の理解を得て、技術文書の作成やサンプルコードの実装を進めていく予定だ。

オンラインで行われた記者ブリーフィングの場で、創設メンバーの一人であるジョージタウン大学 研究教授の松尾真一郎氏は「例えば、マネーロンダリングを防止するには法律で規制するだけでは有効ではない。一方、ソフトウェア開発者たちも、マネーロンダリングを広めたい訳ではない。目標に向かって共通理解を得た上で、ソフトウェア開発者が技術を磨いていくことが本当に必要なことだ」と説明する。

またブロックチェーン分野の現状はバラバラな技術群が競い合っている状況だが、「将来のブロックチェーンのソフトウェアスタックには共通部分も出てくるだろう。共通の機能のコンポーネント化が進むだろう」(慶應義塾大学大学院政策 メディア研究科 特任教授の鈴木茂哉氏)。こうした共通の技術を議論し、文書化やコードの実装を進めていくことも、この団体の視野に入っている。実際に動くコードに基づき、議論と標準化を進めるインターネット分野の流儀を取り入れる。

このような分野横断の取り組みを進めることについて、松尾氏は「マルチステークホルダー(複数の立場の当事者)で話し合い、新しいガバナンスのやり方をみんなで作っていくスタートポイントにする」と意気込みを語る。この団体のモデルとなったのは、インターネットのガバナンスの仕組みだ。松尾氏は「インターネットのInternet Society、IETF(Internet Engineering Task Force)、ICANN(Internet Corporation for Assigned Names and Numbers)のような過去の事例を調べ、似た活動をする組織を作った」と話している。

BGINの設立に先立ち、金融庁や松尾氏らは過去に8回、ブロックチェーン分野のマルチステークホルダーの議論を実施してきた。金融庁が国際共同研究として実施した3回の「ブロックチェーンラウンドテーブル」、2019年6月のG20財務大臣・中央銀行総裁会議(福岡)の場で開催した「G20技術革新にかかるハイレベルセミナー」、2019年9月のイベント「FIN/SUM 2019」、イスラエル・テルアビブで開催された「Scaling Bitcoin 2019」、2019年10月に大阪で開催された「Devcon 5」、11月の「The Global Blockchain Congress」(スペイン・マラガ)でそれぞれパネルディスカッションの機会を設けた。「議論して、なんらかの共通理解を得るテストケースを行ってきた」(松尾氏)。その上で、今回は「ジェネシス・ブロック(ブロックチェーンの最初のブロック)に相当する第一回の会議ができた」(松尾氏)と位置づける。

このBGIN第一回の会合は、本来は金融庁と日本経済新聞社が開催するイベント「Blockchain Global Governance Conference -BG2C- FIN/SUM」で行われる予定だったが、イベントは新型コロナウイルス流行を受けて3月9日〜10日開催予定から4月21日〜22日に延期された。ただし、「コアな部分は特別にオンラインでこの日にやらなければならないという強い思いと認識」(松尾氏)があったことから、3月10日にBGIN創設メンバーのほとんどが集まってオンラインのミーティングを開き、第1回の会合とした。

このBGINに関連して、オンラインのパネル会議「新たな分散型金融の世界を見据えたマルチステークホルダープラットフォーム -ガバナンス新時代の到来-」を3月10日の18時より、下記URLでオンライン中継する。

オリジナル(英語) https://vimeo.com/395639333
日本語同時通訳 https://vimeo.com/395638416


    【BGIN創設メンバー(名字のアルファベット順)】
  • ジュリアン・ブリンガー
    カリスティック CEO
  • ブラッド・カー
    国際金融協会(IIF)シニアディレクター
  • ミシェル・フィンク
    独マックス・プランク・イノベーション研究所 シニア研究フェロー
  • ホアキン・ガルシアアルファロ
    仏Institut Mines-Télécom 教授
  • バイロン・ギブソン
    米スタンフォード・ブロックチェーン研究センター プログラム・マネジャー
  • 李 慧
    フォビ・ブロックチェン・アカデミー ディレクター
  • フィリップ・マーティン
    コインベース 最高情報セキュリティ責任者
  • 松尾 真一郎
    米ジョージタウン大学 研究教授
  • 三輪 純平
    金融庁 フィンテック室長
  • カタリーナ・ピスター
    米コロンビア大ロースクール 教授
  • ニー・ナルク・クエイノア
    ガーナ・ドット・コム 会長
  • ジェレミー・ルービン
    Bitcoin Core開発者
  • ダニー・ライアン
    イーサリアム財団 コア研究者
  • デービッド・リプリー
    クラーケン 最高執行責任者
  • 崎村 夏彦
    OpenID Foundation 理事長
  • 佐古 和恵
    Sovrin Foundation 理事
  • マイ・サンタマリーア
    アイルランド財務省 ファイナンシャルアドバイザリー部門長
  • 須賀 祐治
    株式会社インターネットイニシアティブ / CGTF シニアエンジニア
  • 鈴木 茂哉
    慶應義塾大学大学院政策・メディア研究科 特任教授
  • 高梨 佑太
    金融庁 総合政策局総務課国際室課長補佐
  • ロバート・ワードロップ
    英ケンブリッジ大学オルタナティブ金融センター ディレクター
  • ピンダー・ウォン
    VeriFi (Hong Kong) 会長
  • アーロン・ライト
    米イェシーバー大学カルドゾ・ロースクール 教授

星 暁雄

フリーランスITジャーナリスト。最近はブロックチェーン技術と暗号通貨/仮想通貨分野に物書きとして関心を持つ。書いてきた分野はUNIX、半導体、オブジェクト指向言語、Javaテクノロジー、エンタープライズシステム、Android、クラウドサービスなど。イノベーティブなテクノロジーの取材が好物。