インタビュー

DMM Bitcoin代表取締役の田口仁氏に聞く「暗号資産ビジネスの近未来」

仮想通貨は存在自体が壮大なチャレンジャー

株式会社DMM Bitcoin・代表取締役の田口仁氏

 仮想通貨交換所「DMM Bitcoin」を運営する株式会社DMM Bitcoin。同社は仮想通貨交換所としては後発であると自らを語るも、代表取締役である田口仁氏が「Japan Blockchain Conference YOKOHAMA Round 2019」にて登壇をし、「暗号資産ビジネスの近未来」と題して行った講演は、仮想通貨交換所の目指すべき姿として最も先進的な考え方であるように思えた。

 そこで今回は、田口氏の語る暗号資産ビジネスの近未来について、より深く話を聞き出したく、田口氏に直接インタビューをさせていただくことにした。仮想通貨交換所を実際に運営する立場から、仮想通貨交換所の現状はどのように映っているのか。また「暗号資産ビジネスの近未来」の行く先にある仮想通貨交換所はどのようなものなのか、今回は仮想通貨交換所の未来について聞いてみたいと思う。

仮想通貨交換業への参入理由

 最初に、仮想通貨交換所「DMM Bitcoin」について伺った。

──なぜ仮想通貨交換業に参入されたのか?

 DMMグループが仮想通貨やブロックチェーンに関心を持ったのは、今から約5年前、Mt.GOX事件(2014年)が起きたあたりになります。恐らく他の仮想通貨交換所を運営されている会社も、その前後ではないかと思いますが、我々も同じタイミングで、仮想通貨や分散台帳技術に関して高い関心を持っていました。

 Bitcoin以外にも、今、中心的な仮想通貨になっているEthereumやRippleなど特定の仮想通貨は、Mt.GOX事件以前に誕生しましたよね。そのタイミングで、仮想通貨に関する事業についてDMMグループも初期参入するかどうか検討したという経緯がありました。実際に仮想通貨交換所を始めたのは2016年と後発ですが、検討自体は早いタイミングだったと思います。

 しかし、そのタイミングで参入しなかった理由は、DMMグループが広告などの一見華やかなにも見えるイメージとは対照的に、事業に関してはとてもシビアに判断しているためです。

 すでに、DMM.com証券が金融サービスを始めて10年以上経過していますが、その経験からも金融業というのは他のサービスと大きく違うと考えています。通常のサービスでは何かを製造(創作)したり、誰かが製造したものを流通させたりしながら、消費したものの対価をいただくビジネスです。

金融サービスは他のサービスはまったく違う

 金融は、まずお客様に取引行動をしていただくサービスの前段階として、お客様の財産をお預かりするというところから始まるビジネスです。金融業は、お客さまの財産と会社の資産を明確に区分してサービスをすべき事業であるという意味においても、他の事業とは異なりますよね。この手のサービスでは不正が許されない。内部不正も含めて、万が一、そういうことが起こった場合のレピュテーションリスク(企業に対する評判・評価が悪化するリスク)は非常に大きいものになります。ですので、仮想通貨や暗号資産、または分散台帳技術を使ったトークンなどを扱うにあたっては、法律が決まるまで参入しないと決めていました。 これが大前提としてありました。

 当時の検討結果では、法律がないからビジネスとしても自由度が高いことも分かっていました。しかし、お客様の財産を預かる立場にありながら、それに対して法律上の規制がないということ自体が、非常に高いリスクであるというのが、当時、仮想通貨交換業に参入しなかった理由です。自由度が高いビジネスで、後から法律ができる可能性が高いと分かっている領域は、とても危険です。自由度が高い中で急成長を遂げたビジネスに対して後々法律の網がかかると、事業自体がなくなる可能性もありますよね。成長をし続ける分野での事業は、それに合わせて事業基盤も拡大していく必要があります。急成長する中で、組織や設備を強化していった先に、突然、法律が変わって、それは違法ですからその事業は今後できないという話になったら、それ以降は利益を上げることができずに、それまで投資した負債だけが残り、会社の存続も危うくなります。こういう側面が金融にはあるんですね。我々が行うサービスにおいては、法の規制がかかった場合でも、業務やサービスを廃止するといった自体はあってはならないと考えています。そういうことがグループ全体の事業に対するレピュテーショナルリスクにつながりかねないので、事業での損失以上に大きなリスクになるようなことはやらないと決めていました。

 その後、仮想通貨については2017年の4月に法律が施行されることが決まり、改めて新規参入を決めたわけです。新規参入においては、一から会社を作りライセンスを取りに行くという選択、すでにある証券会社のほうでライセンスを追加していくという選択、それとすでに業務を行っているみなし業者を買収するという3つの選択肢が考えられました。それぞれの方法を検討した結果、一から会社を作るのはすでにみなし業者が十数社列をなして待機しているので、こちらの参入したいタイミングで参入できないリスクがあるので選択肢から外れました。そこで証券会社にて新たに仮想通貨のライセンスを取得し兼業をするという方法について検討しましたが、これも監督官庁側と改めて調整を行わなければならないため、これは一から会社を作るのと同じように時間がかかるというリスクがあることがわかりました。

 ということで、我々は3つ目の選択肢であるみなし業者の買収という案がある中で、たまたま「東京ビットコイン取引所」というみなし業者が会社譲渡したいという意向があり、グループとしての検討タイミングと合致したことから、みなし業者としての参入を選択しました。そこから本登録へと進めていくことが、最も参入タイミング、事業の進め方をコントロールしやすい状況ができるので、2017年12月に東京ビットコイン取引所を買収し、スタートを切りました。

仮想通貨交換所のシステムやセキュリティについて聞く

 仮想通貨交換業への参入理由と、経緯を知ることができた。仮想通貨交換所の具体的なシステムやセキュティへの取り組みについても伺ってみたいと思う。

──DMM Bitcoinのシステムは自社開発ですか?

 大本の現金の入出金であったり、仮想通貨の入出庫であったり、口座開設やAML(マネーロンダリング対策)など顧客管理の部分は、グループ内で内製しています。仮想通貨に関しては、ウォレットなど特にセキュリティが重要な部分は機密情報ということで、外部委託ではなく内製することにしました。

 実際に仮想通貨を買ったり売ったり、レバレッジ取引をしたりする部分については、すでに稼働実績のあるFXの仕組みをカスタマイズする形で導入しています。これまで金融のシステムは10年以上動かしていて、FXで動かしているシステムも5年ぐらい稼働しているので、どれぐらいのお客さんがどれぐらいの取引をした場合にパフォーマンスをどれだけ出せるかといった実測値があるので、参考になりました。

 ちなみに取引部分のシステムは、FXで世界第1位、2位ぐらいの商い高の取引を扱う、今の仮想通貨の取引の何十倍もの取引、約定をさばいている仕組みを持ってきています。ユーザー数についても、現状のFXをやっている人がいきなり仮想通貨の取引にやってきても大丈夫なくらい余裕があります。可能性として、FXをやっている人全員が仮想通貨の投資を行うということもあり得ると想定して、最大でそれぐらいの人数が突然やってきても稼働するパフォーマンスを確保しています。恐らくここへの投資は、他の仮想通貨交換所と比べても多いほうではないでしょうか。少なくとも2桁億の金額は投資しています。弊社は仮想通貨交換業者としては後発なので、それぐらいやらないと追いつけないと思っています。

──セキュリティ面については外部委託をしているという企業も少なくないと思いますが、そのあたりはいかがですか?

 セキュリティ面については、外部に委託するというよりも僕らの考え方は、ウォレット等の管理については自前で仕組みを作って管理をするという方法を取っています。それに対する不正検知や、不正アクセスのモニタリングについては、外部のサービスやアプリケーションを使用しています。いわゆる入り口と呼ばれる部分と、内部、そして出口の部分については、そういったパッケージシステムを導入し、データ等のモニタリングを外部に委託しています。内部だけでやっていると内部での不正があった場合に見過ごす可能性があるので、そこはバランス良く外部委託しています。チェックは第三者に委託し、第三者によるモニタリングは、第三者が提供する仕組みを導入するという方法ですね。自分たちの仕組みを使ってモニタリングだけを委託しても、そのシステムに不正があった場合に防げませんからね。

仮想通貨による決済や未来について聞く

──DMM Bitcoinでは仮想通貨による決済についてはどう考えていますか?

 以前、「消費者市場における暗号資産ビジネスの近未来」をテーマにカンファレンスで話をしたことがあるんですが、法令諸制度が整い規制が行われるようになるなど外部要因がある中で、分散台帳技術が用いられる領域が拡大していく予測を含めて、現実的に仮想通貨交換業者が受け止めなければならない事実というか、端から見るとまだそうなっていないという見方もあるが、僕からしたらファクト(事実)になっていることがあります。

 どう思っているかというと、海外にはレミッタンス(外国送金)という送金ライセンスがあるんですが、これには送金対象が現金であるという指定はなく、財産的価値を送るということへのライセンスであり、現金であったり有価証券であったり、法定通貨、自国通貨、外貨などを送金することができるライセンスであり、最近ではそこに仮想通貨が加わるといった法律体系になっているんですね。日本は、そうなっていないんですよ。

日本でのデジタル価値の流通基盤に必要なライセンス(講演資料より)

 現在の日本の法制度は、金融商品ごとに縦割りになっています。それにレミッタンスがあり、トレードがあり、カストディ(証券等の管理業務など)のようなものがあって、それぞれ縦割りです。ライセンスでいうと、資金移動業があり、仮想通貨交換業があり、金融商品取引業があって、業種によって必要なライセンスが別です。

 このようにグローバルでの法制度と日本の法制度の体系がまったく違っているんですね。日本の縦割りに対して、海外は横に広がっていくイメージです。しかし、日本も2020年以降は、グローバルな体系へとシフトしていくという方針があるので、そのあたりが今後はポイントになると思います。

 現時点では、分散台帳技術が発展していく金融領域を考えると、そういった縦割りの法体系の中で、3つの業ライセンスが確実に関係してきます。

 仮想通貨を扱うには我々が取得している仮想通貨交換業者のライセンスが必要ですね。資金移動業のライセンスも重要になってくるでしょう。資金移動業には、前払い式支払い手段があり、いわゆる電子マネー、プリペイドカードがそこに含まれますが、キャッシュレス決済をするには必須のライセンスになります。それに金融商品を取り扱うためのライセンスとして金融商品取引業があり、これが横ぐしで必要になってくる時代になると思います。

 例えばステーブルコイン(法定通貨などとペッグする価格が安定した通貨)というのがありますが、これは日本の法律では電子マネーになります。米ドルとペッグする有名な仮想通貨にTether(USDT)やUSD Coin(USDC)がありますが、これを扱うには資金移動業のライセンスが必要になります。また、証券など価値の裏付けとなるものをトークン化したアセットトークンを扱うには、金融商品取引業のライセンスが必要になってきます。現在、その仮想通貨(アセットトークン)を持っているだけで後から金利として同じ通貨が加算されるような仕組みが考えられていますが、これがもし商品化された場合は配当を出す金融商品となるため、それを扱うには金融商品取引業ライセンスが必要になります。現在は仮想通貨の範囲で扱えるものも、もしプロトコルが金利付きの仮想通貨に変わった場合は、その瞬間からその仮想通貨は株と同じ有価証券となり、仮想通貨交換業者ライセンスだけでは扱えなくなります。

 仮想通貨や分散台帳技術の普及が広がり進化し出すと、今ある仮想通貨交換業者では扱えなくなってくるわけですよ。そのままの業態では、他業種から侵食されて攻められる立場になるわけです。つまり、仮想通貨交換業者は現実をしっかりと見据えて2019年はこれらに取り組んでいかなければならないと思うわけですね。

 レバレッジ取引については金融庁の「仮想通貨交換業等に関する研究会」でも金融商品取引法(金商法)での規制が必要という結論が出たじゃないですか。ということは、逆に仮想通貨交換業者は金融商品取引業ライセンスを取らなければならないということですよね。僕らは、今後、これらの横ぐしのライセンスが必要になるような仮想通貨が登場し、それがお客さんにとって利便性が高いものや、提供する価値が高く、安全性の高いものであれば、それを取り扱うことを宣言し、必要なライセンスは取りにいきますね。

 また、仮想通貨の市場は今後どうなっていくと思いますか? 2017年の急成長のようなことが、また起こりますか? それは不確実ですよね。誰にもわかりません。ですが、周辺領域を見ると、確実に急成長する領域が日本にあります。政府の肝いりで「やる」といっている領域なので、確実です。

──それは、どの領域でしょうか?

 キャッシュレス決済です。この分野を倍成長させるといっていますからね。キャッシュレス決済は、全体市場でいくと年で60兆円ぐらい、2017年は64兆円。このうち50兆円強がクレジットカード決済、5兆円ぐらいが電子マネー、残りが商品券などの前払い式のものというのが現状です。これを2025年までに倍成長させるといわれています。この領域も、実は仮想通貨に関係あるんですね。そもそもBitcoinなど仮想通貨は、キャッシュレス決済の用途に使うことを目的として開発されているものですからね。

 2025年までに倍成長ということは60兆円が120兆円の市場になるわけですね。現状のキャッシュレス決済はクレジットカード決済が8割を超えていますが、120兆円に成長したときに、クレジットカードがそこまで成長しますか? 個人が今の倍以上クレジットカードを使うようになるのかということですよね。恐らく、クレジットカードが持てない人でもキャッシュレス決済を使うという時代にならないと、そこまで市場規模は広がらないですよね。しかし、そういう領域が増えることは分かっているわけですね。そうなると、いわゆる電子マネーと呼ばれている領域がそのシェアを拡大するでしょうということになるんだと思います。もちろん、クレジットカードの領域も伸びるでしょう。デビットカードも伸びるでしょう。

 この領域をやるとなると、仮想通貨交換業者のライセンスだけでは、Bitcoinでしかできないわけです。だけどボラティリティ(価格変動)の激しいBitcoin等を決済に使いたいですかね? そういうことになるので、結果的に資金移動業ライセンスも必要になってくるわけですね。それが仮想通貨交換業者における成長戦略の要になるはずです。

 ここの儲けどころのポイントというのは、仮想通貨のようにボラティリティに依存せず、キャッシュポイントを押さえて、決済手数料で成り立っていく業になります。仮想通貨的なアプローチや、システム的なインフラといったビジネスアプローチでいうと、加盟店側に課している決済手数料が従来のクレジットカードよりも安くできる可能性が出てきます。競争力がある可能性が出てくるということになります。また、クレジットカードでECをやっている人が決済を切ったとして、自分の手元に入金されるのはいつでしょうか? これは早くて30日です。ものによっては90日という場合もあります。クレジットカードは、利用者も後払いですからね。売掛金がキャッシュになるまで時間がかかります。電子マネーは前払い式ですから、電子マネーをチャージした際に100%現金が入り保全されているのでキャッシュフローが早くなる側面があります。仮想通貨で培われてきた知見がいかされて手数料も安くなるという可能性がありますね。

──みなさん、いろいろと研究されていますね。

 そう思っている会社もあれば、思っていない会社もあると思いますが、僕らはそう思っています。仮想通貨交換業者が今のライセンスだけで事業を行っていると、この領域というのは周りから侵食される可能性があって、どんどん縮まっていく可能性があるとみています。ましてや今扱っている仮想通貨がもし有価証券に該当するという判定が下された場合は、仮想通貨交換業者のライセンスだけでは取り扱いができなくなります。取り扱いができなくなるのは相当な痛手ですよね。お客さんに、明日から取り扱いができなくなりますと告げてやめるのは簡単ですが、このレピュテーショナルリスクは大きいですよね。そういうことがあってはいけないので、そういう意味でも仮想通貨交換業者が、今後は横展開を考えてライセンスを取得していくことは重要だと思っています。

 また今のステーブルコインを扱おうとすると、決済サービスをしようがしまいが、間違いなく資金移動業のライセンスが必要になります。ライセンスを取ることについては、キャッシュレス決済が倍成長をする領域に対する先行投資ですよね。ライセンスを取得するメリットとしては、ステーブルコインが扱えることによって、仮想通貨交換業者として扱える銘柄が増やせることになります。

 ステーブルコインというと日本では、日本円の電子マネーぐらいしか思いつかないと思いますが、ですが僕らが米ドルやユーロとかポンドを発行してもいいわけですよ。買ってもらった分だけデポジットしておけばいいだけです。それじゃー、為替レートはどうするの? といったときに、別に取引所間取引をする必要もなく、為替レートを外部から持ってきて両替してあければいいだけですよね。つまり両替商ができて、手数料がいただけるわけですよ。銀行業の場合は、お客さんから預かったお金を貸し付けることで利回りを取っていますよね。これらのライセンスでは、そういった銀行業とは違ったレミッタンスを基盤にしたコマーシャルバンクというような銀行ができるわけですね。さらに理論的には、資金移動業と金融商品取引業のライセンスがあれば、金利付き電子マネーもできますよね。そしたら、もうこれはほぼ銀行ですよね。これには仮想通貨交換業者のライセンスは必要ないですけど。

 これらが、どっちにも該当しないいわゆるピュアな仮想通貨・暗号資産と交換できるのであれば、お客さんから見ても利便性が高くなりますよね。仮想通貨の運用の幅も広がります。そうなると、仮想通貨交換業者のライセンスもいきるわけですよ。

 飲食の方々がやっているような通常の前払い式の方法では、それを自分たちのところに戻ってきて使ってもらわないと、駄目ですよね。ですが電子マネーの場合は、交換さえできればいいので、交換対象となるものの幅を広げれば、いろいろと使ってもらえることになりますよね。しかも金利付きという商品ができれば、さらに用途が広がりますよね。

 金利付き電子マネーを持っているというのはどういうことかというと、他の人に譲渡が可能になります。かつ、決済手段として使用することができるわけです。譲渡可能ということは決済手段でもあるわけですが、これは譲渡性預金と同じことになるわけです。銀行でいう譲渡性預金のようなことが、電子マネーを通じてできるわけですね。通常、譲渡性預金については、日本では最低預金額が高額なものしかなく、いろいろと制限があるので個人で利用することはなく、ほとんど法人しか利用していませんが、電子マネーであれば個人でも小口化した形でできてしまうわけですね。また、銀行の場合は、それを運用して利回りのさやを取っているので、実は預金は保全されていません。それが電子マネーであれば法律上100%保全しなければいけないですよね。つまり100%保全された譲渡性預金ができるわけですね。

 つまり仮想通貨交換業者の将来としては、こういうことができるようになったら面白いだろうなぁと思います。これは、スタートアップのベンチャー企業がやる事業ではないですよね。

デジタル資産プラットフォームの変化の方向性

 僕は、この業界は成熟化が進んだとよくいいますが、どういうことかというと、本当にユーザーの利便性を考えてしっかりとサービスを提供していくと、それに見合った体力や資本力が必要となり、結果、自力が付いていきます。この業自体が、これまでいろいろとあったことで、すでにそうなってきたというのが僕らの見方です。そうならないと、今後、お客さまの利便性の向上や面白いことはできないと思いますね。仮想通貨や分散台帳技術でゲームのコインやアバターのアイテムだとか、そういうものの延長線のようなことぐらいはできると思いますが、その先の生活への応用や資産運用のようなことまで行くのであれば、この3つのライセンスの取得は絶対に必要だと思っています。

 逆に、そういったことが仮想通貨交換業者に求められているものだろうと僕らは思っています。そして、取るからには特徴のある面白い商品やサービスを自分たちで生み出し、提案していきたいと思っています。仮想通貨のボラティリティに依存するようなサービスだけでは駄目ですよね。

──仮想通貨の現状は、ボラティリティに依存している部分が大きいですよね。

 そうでね。というのは、現状、仮想通貨が決済等に使われることがないから、ボラティリティがないと取引自体が生まれないからです。消費されてまた買われるという循環が生まれるまでは、繰り返し売買してもらうにはボラティリティも必要ですね。というのが、現状の仮想通貨交換業ですね。なけなしの100万円を仮想通貨に投資して、そのままなんの変化もなければ100万円は塩漬け状態で終わってしまいます。

──今後、仮想通貨が何かに使われるようになるのでしょうか?

 決済させる対象となるプロダクトを持っている企業にとっては、ボラティリティ自体が受け入れられないですよね。日本の上場企業の平均的な経常利益率って、恐らくは20%もいっていないと思います。5%から10%程度の会社が多いのではないかと思っていますが、そのような状況で売上の決済部分にボラティリティの高い通貨が使われた場合、経常利益率よりボラティリティが大きい通貨ということは、価格が高いときはいいですけど、低いときはあっという間に売上がマイナスになりますよね。ですので、仮想通貨が決済に使われるという状況は、これまでの仮想通貨ではかなり難しいということです。

 みんなが同じ仮想通貨を使ってくれる状況であれば、そのボラティリティは関係なくなります。日本にいて生活している限りでは、日本円のボラティリティに対して意識はないですよね。実際には変動しているけど、海外旅行に行くときにちょっと気にするぐらいで、普段の生活ではボラティリティの影響は受けていないですよね。つまり仮想通貨もそうならないと、ボラティリティの影響は大きいということになりますね。日本円に代わってBitcoinが法定通貨になることがあれば、話は別ですが、そうなると日本の国民は、日本円を保持しているので、一気に貧乏になってしまう可能性が出てきてしまいます。ですので、現在の仮想通貨が法定通貨に取って代わることもないと思います。

 仮想通貨の立ち位置は、法定通貨や通貨を中心とした国際金融ネットワークを維持している国や中央銀行を始め、FATF(金融活動作業部会)、銀行などに対してのチャレンジャーであると私は思っています。

 法定通貨は、国や中央銀行への信任によって法定通貨の価値を裏打ちしていますが、仮想通貨・暗号資産の価値の裏打ちは何だと思いますか? これは法定通貨との交換の道筋があることが唯一の価値の裏付けですよね。価格が変動するということはどういうことかというと、当たり前の話ですが、その商品の市場に入ってくるお金(法定通貨)のほうが出ていくお金より多ければ価値が上がり、少なければ価値が下がるわけですね。

 仮想通貨の価値を上げるには、入ってくるお金をどんどん増やさなければいけないということですよね。つまり養分は、法定通貨なわけです。仮想通貨が法定通貨に取って代わるという話は、仮想通貨の価値を裏打ちしているのが法定通貨であると考えると難しい話ですね。もし仮想通貨が法定通貨と交換ができないということになったら、その仮想通貨を誰も持たないですよね。これが、仮想通貨のジレンマだと思います。

 では、法定通貨の価値とは何でしょう? 法定通貨は、みんなが信頼しているからだという人もいますが、それはその通りの側面もあります。江戸時代には、小判以外にも藩札等いろいろありましたが、結局、藩札は駄目になっちゃいました。みんなが藩札には価値があるといっている間はいいけど、そうじゃなくなったら駄目になっちゃいましたよね。実は、通貨を維持するには信頼以外の裏付けも必要です。

 では、通貨の裏付けとは何でしょうか。かつては金の時代もありましたが、現在は2つの要素があり、1つは基軸通貨との交換かできること。世界の基軸通貨は何でしょうか? 米ドルですね。米ドルと交換ができるというのが、通貨の信任につながりますよね。では、米ドルの信任は何によって得られているのか。アメリカの国力、経済力というのもありますが、実はある商品の圧倒的決済通貨としてのシェアを握っていて、世界中が手放せないものになっています。それはオイル(原油)です。オイルは、米ドルで決済されているものがほとんどです。産油国は、米ドルでの決済しか認めていません。これは米ドルが世界の基軸通貨たるゆえんです。ちなみにオイル以前は、エネルギーとしてヨーロパ周辺で掘られていた石炭が主流でした。そのころは、ポンドが強かったと思います。通貨はエネルギーとひもづくことで基軸通貨になるんですね。

 つまり、基軸通貨と交換できるということが、1つの通貨の成立条件ですね。では、その他の通貨が米ドルと交換できる価値の裏付けは何でしょう。それが通貨のもう1つの価値の裏付けですが、法定通貨が国際的にも信任されて米ドルと交換ができるのは、通貨を発行する国の経済力という見方もありますが、通貨が通貨たり得るのはその国の徴税力です。税金を徴収し国を維持していく力があることで、その国の法定通貨は信任され、価値を裏付けることができるわけです。徴税力が安定している国の通貨じゃないと、米ドルと安定的な交換はできないということになります。

──価値の裏付けというのは、思っていた以上に複雑ですね。

 仮想通貨交換業者としていえることは、金融業界に対してすごい大きなチャレンジをしているということは間違いないと思います。これが競争であるとするならば、反撃される可能性もあるわけです。法制度や規制といった問題もあるし、すでに反撃もされていると思います。そのような状況で仮想通貨の領域だけに留まるのであれば、仮想通貨交換業者がやれることはどんどん縮んでいくと思います。もし広げていくのであれば、旧来のビジネスを取り込み、分散台帳技術を用いることもできるというように、自分たち自身を再定義する必要があると思います。そこで、仮想通貨交換業者ライセンスだけでは足りないということは誰しもが気づくと思います。最終的に分散台帳技術を用いた金融的なサービスが必要とするライセンスをそろえることに、しっかり軸足を置いて、2019年から2020年に取り組みを進めるというのが、仮想通貨交換業界に課せられた役割期待ということではないかと思います。

──よく仕組みとその先がわかりました。本日はありがとうございました。

高橋ピョン太