インタビュー

デジタル地域通貨による地方経済活性化なるか? 実現の障壁や持続性の問題とは?

静岡県富士市と茨城県かすみがうら市での取り組みをSound-FinTechに聞く

 STOCK POINT株式会社は2019年3月、共通ポイントサービス「Ponta」との業務提携を発表。Pontaポイントを使った金融体験サービス「Pontaポイント運用」を、4月9日よりスタートする予定だ。ブロックチェーン技術を基盤としたポイント運用サービスと、国内でも有数の利用者数を持つポイントサービスが提携するということで、一躍話題となった。

 STOCK POINTの提供するサービスは、株式会社Sound-FinTechがそのシステム開発を担当する。同社は、その名の通りFinTech分野に取り組む。ブロックチェーン技術を活用して、Stock Pointの他にも、地域仮想通貨の実証実験(PoC)から商用展開までを手がけている。

 今回、両社の代表取締役を務める土屋清美氏と、Sound-FinTech・取締役CTOの城竹公仁氏から話を伺った。地域仮想通貨は各所で実証実験の実施を耳にするが、その商用化まで至った例はまだ少ない。地域仮想通貨の実証実験から商用展開までを経験し、継続している同社から、そのエピソードや今後の展開、見えてきた課題を聞く。

インタビューに応じたSound-FinTech・代表取締役の土屋清美氏(写真右)と同社取締役CTOの城竹公仁氏(写真左)

 Sound-FinTechは2018年、Sound-Fから金融事業の事業譲渡という形で設立された。同社の金融事業の歴史は2006年に遡る。前身となるSound-Fは金融分野のシステム開発など、いわゆるFinTech分野に取り組んできた。Sound-F時代を含めると、FinTech企業として通算12年という長い歴史を持つ企業となる。

 金融とITのスペシャリストを多数抱えるというSound-FinTechは、金融ITコンサルティングやシステム構築に強みを持つ。SMBC日興証券、三井住友信託銀行、りそな銀行といった国内でも有数の金融機関が彼らの顧客だ。Webサービスのコンサルティングや資産運用補助ツールなどを提案・提供している。

 「金融をもっと身近なものにすること」がFinTechに取り組む同社の理念だと、土屋氏は語る。同社は10年を超える長い期間、金融とITの合わさる最前線でさまざまな課題を解決してきた。その時々で、「ユーザーの手に取り安い形」を意識し、Webベースからスマートフォンアプリなど、最新のプラットフォームに対応しながら新たな技術を取り入れる。そして2015年、FinTech企業としてブロックチェーン技術に着目し、研究を開始したという。

ブロックチェーン技術の研究から地域仮想通貨の実証実験まで

 Sound-FinTechがブロックチェーンへの取り組みを始めたのは2015年。今となっては当たり前のようにキャッシュレスと言われるが、当時はQRコード決済などもまるで普及していないという時代背景だ。丁度FinTechというワードが一人歩きをし始めたような時期だと土屋氏は当時を振り返る。

 金融のIT化が騒がれ始めた頃、Sound-FinTechはブロックチェーンに注目したという。当時、エンタープライズ向けのブロックチェーンなども普及していない中で、どのようにして最初の実証実験にまでこぎ着けたのか、同社CTOの城竹氏にその始まりを伺った。

 最初の知見は、すでに動いているBitcoinの仕組みを参考にしたと城竹氏は言う。同社のエンジニアチームは、その概念・動作原理を独自に学び、自社でカスタマイズしオリジナルのブロックチェーンを作成した。これをプロトタイプとして、後の地域仮想通貨プロジェクトへ繋げていったという。

Sound-FinTech・取締役CTOの城竹公仁氏

 Sound-FinTechはブロックチェーンの研究を進める中、静岡銀行とマネックスグループから、静岡県富士市での地域仮想通貨プロジェクトの提案を受けたという。オリジナルのブロックチェーンを完成させていた同社は、そのプロトタイプをカスタマイズし、すでに活発な町おこしの実績のある静岡県富士市での地域仮想通貨「NeCoban」の実証実験をスタートさせた。

地域仮想通貨「NeCoban」の概略図

 NeCobanは、地域仮想通貨として発行され、クーポン券のように扱われる。同地域内の店舗で、QRコードを利用して割引サービスを受けられる仕組みだ。NeCobanの取り組みは、「ブロックチェーンで何ができるのか?」を検証することが大きな目的だったという。

 NeCobanの実証実験での成果について、「数値や言葉で具体化することは難しいが、確実に今に繋がっている」と城竹氏は語った。実証実験を通してブロックチェーンが消費者向けのサービスとして、24時間体制で運用しうるポテンシャルを持つことが明らかとなり、また同社がそれを扱える確信が得られたということだ。同社における技術的基礎、そして実証実験を行ったという名声が次のプロジェクトへと繋がっていく。

地域仮想通貨「NeCoban」の仕組みイメージ図

地域仮想通貨の実証実験から商用サービスへ

 NeCobanの取り組みを受け、Sound-FinTechはいくつかの地方自治体から地域仮想通貨の導入について相談を受けた。その中で提案が具体化し、商用サービスとして現在も運用されているのが、茨城県かすみがうら市への地域仮想通貨「湖山ポイント」だ。

 湖山ポイントは当初、「NeCobanのような地域仮想通貨をかすみがうら市でもやりたい」という同市からの要望を受け、プロジェクトがスタートした。同社はNeCobanで使用したオリジナルブロックチェーンをベースに、インターフェースなどの改善を施す。提案から、わずか3か月で湖山ポイントの仕組みを作り上げたという。

 湖山ポイントはスマホアプリおよびWebサイト上で提供される。スマホアプリがソフトウェアウォレットの機能を持ち、ポイントの管理を行うという仕組みだ。

茨城県かすみがうら市の地域仮想通貨「湖山ポイント」(かすみがうら市公式サイトより引用)

 かすみがうら市はマラソンなどのイベントで都内近郊から訪問者は多い。しかし、訪問者が市内のサービスを利用する機会が少なく、消費につながっていない問題があるという。湖山ポイントは、市民はもちろん、そうした訪問者も対象とする。利用者が市内のイベントやボランティア活動などに参加した際に、会場のQRコードを読み取ることでポイントを得られる仕組みとなる。ポイントは、市内の店舗利用時に代金として利用できる。

 湖山ポイントを成功に導いた要因は何か?そして、他の地方自治体からの地域仮想通貨に関する提案が進展していない要因・障壁を土屋氏に伺った。

 地域仮想通貨を実現するプロセスとして、第一に自治体側の予算の確保があり、それが最大の障壁になると土屋氏は言う。かすみがうら市での導入がスムーズに行えたのは、自治体側に「ブロックチェーンに強く関心を持ち、是非進めたいという熱意」があったことが大きい。他の自治体でもそのような「熱意」があれば、同社のノウハウを生かして地域仮想通貨の導入は実現可能だと土屋氏は自信を見せる。

 実際のところ、地方の活性化やキャッシュレスは国を挙げて推進されている。そのため、自治体から地域仮想通貨について国に申請すれば補助金が出る制度もあると土屋氏は言う。しかし、国への申請のために自治体は議会で承認を得る必要がある。そこで二の足を踏んでしまう自治体が多いのだという。

 一方で、現行の地域仮想通貨のモデルに、持続性の問題があることも土屋氏は語る。例えば、湖山ポイントの事例では、ポイントの原資をかすみがうら市が負担している。NeCobanの事例でも割引に関して店舗側が負担していた。このように、誰もが利益を受けられるシステムではなく、誰かが負担を負わなければならない仕組みとなっているのが現状だ。

 「地域仮想通貨は、ビジネスとして成り立たないのでは継続性が得られない。国からの補助金だけでやっていくのではなく、マネタイズなどの仕組みを作り、その持続性を解決をする必要がある。」と土屋氏は述べる。氏は、「ビジネスモデルとテクノロジーの両輪で、新しい地域仮想通貨の仕組みを作っていく」とし、今後の地域仮想通貨の普及と、それによる地方活性化に対して最善を尽くしたいと語った。

概念実証から商用サービスへ。ブロックチェーン活用のコツは

 Sound-FinTechのエンジニアチームは、ブロックチェーンについて、ゼロからの学びを通して、オリジナルブロックチェーンを開発した。その地域仮想通貨事業への導入を経て、現在はHyperledger Fabricをベースとしたブロックチェーン技術を扱う。そんなプロフェッショナル集団を率いる城竹CTOに、ブロックチェーンに対する取り組み方を伺う。

 城竹氏は、ブロックチェーンには多数の機能・メリットがあると前置き、その活用にあたっては「着目する機能を限定する」ことが必要だと語る。PoCを失敗する事例の多くは、ブロックチェーンの利点をすべて引き出そうとする。その結果、「ブロックチェーンは思ったより使えない」という結論に至るケースが見られるという。

 商用化を視野に入れるなら、ブロックチェーンの可能性を模索する必要はない。ブロックチェーンが持つ機能の一つでもプロジェクトの要件に当てはまるなら、その利用を試してみる価値があると城竹氏は言う。実際の要件に照らし合わせていくと、ブロックチェーンの適用範囲は当初の想定より大きくなるはずだ。小さな想定から案件とのマッチングを図っていくことが、ブロックチェーン活用の秘訣だと氏は語った。

おわりに

 以上、金融システムの視点からブロックチェーン技術を活用するSound-FinTechのお二人にインタビューを行った。地域仮想通貨に関しては、自治体側からの提案さえあれば、同社はすぐにでも具体的な案件へと移れる段階にあるという。地域仮想通貨に興味があれば是非お声がけいただきたいとのことだ。また、同社が取り組むポイント運用サービス「Stock Point」においても、近々新システムの実装が計画されているという。そちらの展開についても今後注目していきたい。

日下 弘樹