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LCNEM、ステーブルコインでLightning Network支払い代行へ

価格変動と法規制の課題を解決

 Bitcoinの最先端技術「Lightning Network」を用いたマイクロペイメントを、日本の仮想通貨規制やBitcoinの価格変動を気にせずにビジネスで活用できる──このようなシステムを、株式会社LCNEMが開発中である。2019年9月をメドにリリースする予定だ(発表資料)。

 株式会社LCNEMは、ブロックチェーンを活用したステーブルコイン「LCNEM Cheque」(旧名称はLCNEMステーブルコイン)の事業を展開するスタートアップ企業である(関連記事)。今回の記事では、LCNEMへの取材に基づき、同社のシステムの仕組みと意味を説明したい。

 このシステムを仮に「LCNEM Cheque×Lightning Network」と呼ぶことにする。その概要は次のようになる。

(1)事前に、Lightning Networkによるマイクロペイメントで利用できるサービスの「ホワイトリスト」を作成、LCNEMのシステムに登録しておく。
(2)利用者は、利用料金に相当する「LCNEM Cheque」と、Lightning Networkによるサービスを利用するためのデジタルな請求書「lightning invoice」を、LCNEMのAPIを使ってシステムに送信する。
(3)Lightning Network上の支払いは即座に完了し、利用者はサービスを受けることができる。

 システムのメリットは、冒頭に記したようにBitcoinの価格変動と法規制の課題を解決することだ。詳しくは以下に説明する。

Lightning Networkのリアルタイムなサービスを価格変動と法規制の心配なしに使う

 まず、Lightning Networkとは何なのかを説明しておきたい。

 Bitcoinの最新技術Lightning Networkは、Bitcoinのブロックチェーンの「ひとつ上」の層(「レイヤー2」と呼ばれることもある)で動く決済ネットワークだ。現在はメインネットが立ち上がり、プロトコルの仕様策定と実装が同時並行で進んでいる。

 Lightning Networkの大きな役割は、Bitcoinのスケーラビリティ問題、つまりブロックチェーンが混雑し、手数料が高くつく問題を解決することだ。Lightning Networkではブロックチェーンの承認(confirmation)のプロセスがなく、送金すると直ちに着金する。またLightning Networkではネットワーク上で分散処理をする形となり、システム全体の処理性能の上限がない(このことはデータセンターに処理が集中するクラウドコンピューティングよりも高い性能を目指せる可能性があることを意味する)。手数料も非常に低く抑えることができる。

 このLightning Networkを応用すると、高速で大容量(高スループット)のマイクロペイメントを、きわめて低い手数料で利用できる。事前に契約書を交わす手間なしに、デジタルなメカニズムにより確実に送金が執行されることもメリットといえる。このような性質から、従来は作れなかったサービスを実現できる可能性がある。

 例えば、各種センサーを搭載したデバイス(IoTデバイス)が取得したデータを、Lightning Network払いでその都度購入するサービスが可能だ。支払いが国境を越える場合でも、Lightning Networkであれば問題ない。このほかにも、「外国人観光客の多いクラブで、DJへのリクエストに対価を支払う」「有料道路の通行料金を、渋滞に応じてリアルタイムに変動させる」「店舗に置かれたサービスロボットの利用料を客がその都度支払う」「観光地のリアルタイムな写真をその場で買う」「人工衛星のセンサーで取得した画像データをその都度購入する」など、多種多様なユースケースが視野に入ってくる。

 このようにLightning Networkのメリットは大きいが、ひとつの課題がある。それは、Lightning Networkで支払うお金の種類はBitcoinの一択となることだ。Bitcoinを筆頭とする仮想通貨は法定通貨に対する価格変動が大きく、また厳しい法規制の対象となる。価格変動を避けるため、例えば「日本円で支払いBitcoinに両替した上でLightning Networkのサービスを利用するサービス」を作った場合、法定通貨と仮想通貨を交換するサービスとなるため、資金決済法が定める「仮想通貨交換業」の登録が必要となる。日本の現状の規制では、仮想通貨交換業のライセンスを取得するハードルは非常に高く、おいそれとは手が出せない。

 そこでLCNEMは次のようなアプローチで、価格変動と法規制の問題を解決し、Lightning Network払いのサービスを利用しやすくすることを狙っている。

(1)「LCNEM Cheque」は、資金決済法が定める「前払式支払手段」として設計されている。法定通貨(日本円)との交換レートは固定なので、資金決済法が定める「仮想通貨」(資金決済法の改正案の用語では「暗号資産」)には相当しない。法的には、商品券やSuicaのような電子マネーと同じ扱いとなる。
(2)「LCNEM Cheque×Lightning Network」では、利用可能なLightning Network支払いのサービスをホワイトリストに事前登録する形とした。これにより、「前払式支払手段(LCNEM Cheque)を用いてモノやサービスを購入する対価関係」であることを明確にした。ここで大事な点は、もし「前払式支払手段から仮想通貨を購入する対価関係」の構図となると仮想通貨交換業が必要となるところを、ホワイトリストを使うことでこの図式を避けていることである。

 補足すると、「LCNEM Cheque×Lightning Network」では顧客資産を預かるカストディ業務には相当しない作りになっている。デポジット(預かり金)を預ける形ではなく、サービス利用の都度LCNEM Chequeを支払う形となる。

 日本円連動のステーブルコイン「LCNEM Cheque」は、現時点ではNEMブロックチェーンのモザイク(トークン)の形で実現している。同社のウォレットサービスLCNEM Walletから購入して使うことができる。

 今後、LCNEMではステーブルコイン「LCNEM Cheque」を、COSMOS、Ethereum、EOS、Liquid(カナダBlockstream社のサイドチェーン技術)の各技術に対応させていく計画を立てている。「LCNEM Cheque×Lightning Network」については、NEMとCOSMOSの2種類のブロックチェーン上の「LCNEM Cheque」に対応させる予定だ。

 最近のブロックチェーン関連企業の動向を見ると、複数のブロックチェーン技術を用途に応じて使い分ける「クロスチェーン」、「マルチチェーン」の利用が今後は増えてきそうだ。複数のブロックチェーンを活用したビジネスが立ち上がってくると、「LCNEM Cheque」のようなステーブルコインの役割や、「LCNEM Cheque×Lightning Network」のような支払い代行システムの役割が大きくなっていく可能性があるだろう。