仮想通貨(暗号資産)ニュース
LCNEM、決済に使いやすい日本円連動ステーブルコインを販売開始 〜NEMの技術を活用
2018年6月25日 18:37
京都のスタートアップ企業、株式会社LCNEMは2018年6月25日、日本円との交換レートが安定しており決済手段として利用しやすい「ステーブルコイン」の販売を開始した。同社が提供するLCNEMウォレット上でクレジットカードにより購入できる。また同ウォレットを使い、Amazonギフト券あるいはKyash(株式会社Kyashが運営する日本円ウォレットサービス)の形で出金することができる。
仮想通貨を決済手段として利用する際の大きな問題が、法定通貨との交換レートの変動(ボラティリティ)が激しいことだ。ステーブルコインは法定通貨との交換レートを安定化させ、決済用途に使いやすくしたものである。
ステーブルコインの取り組みは、世界中で複数のプロジェクトが進んでいる。米ドル連動の仮想通貨のTetherが有名で、日本でも日本円との交換レートを安定化させた仮想通貨「Zen」の実験という事例がある。三菱UFJ銀行が準備を進めている「MUFGコイン」も、日本円連動の仮想通貨となる予定だ。
LCNEMのステーブルコインは、法的な枠組みと技術的な枠組みのそれぞれに工夫がある。法的枠組みとして、資金決済法が定める「仮想通貨」ではなく、同じ資金決済法が定める「前払式支払手段」を用いる。これはギフト券やプリペイドカードなどを扱うための制度で、先行サービスとしてSuicaや前述のKyashがある。
前払式支払手段という法的枠組みを用いる大きな理由は、今の仮想通貨規制の状況では、スタートアップ企業にとって仮想通貨という法的枠組みは取り扱いが難しいことがある。「今、仮想通貨交換業の登録を受けるのは非常に難しい」とLCNEM代表取締役社長の木村 優氏は説明する。
ステーブルコインの発行者は顧客資産を預かる訳ではなく、ステーブルコインを販売し、他の価値記録手段との交換を行うだけだ。ところが仮想通貨交換業の登録を受けるには、現状では顧客の資産を預かる企業として金融機関に近い厳重な管理体制を整える必要がある。この2018年2月以降の規制強化に伴い、金融機関の資本が入っていないスタートアップ企業が新たに仮想通貨交換業の登録を受けるのはほぼ不可能ではないかとの見方も出ている。その中で、LCNEMは現実解を選択した形といえる。
LCNEMのステーブルコインは、法定通貨への直接の出金には対応しない。その代わりAmazonギフト券やKyashという別の種類の前払式支払手段との交換に対応することで、額面の価値を保つ。これはKyashも同様で、日本円の形で出金することはできないが、VISAプリペイドカードやアプリ利用者間の送受金により流動性を保っている。LCNEMの木村氏は、前払式支払手段とステーブルコインの相性は良いと説明する。「前払式支払手段には未使用残高の2分の1を供託が課せられるが、これはステーブルコインの信用リスクを抑える効果がある」(木村氏)。
技術的な枠組みとして、LCNEMのステーブルコインは仮想通貨NEMのトークン発行機能「モザイク」を活用する。モザイクとは、手数料を支払うことでトークン名の名前空間を利用できる枠組みだ。ステーブルコインは「lc:jpy」という名前のモザイクとして、他のNEMトークンと同様に扱うことができる。LCNEMウォレット以外でも、Nano Wallet、Raccoon WalletのようにNEMモザイクを扱えるウォレットであればステーブルコインの送受金が可能だ。使い勝手はNEMのネイティブトークンXEMの送受金と同じである。
最近になってNEMモザイク対応のスマートフォンウォレットが複数登場し、NEM決済を導入したオンラインショップ、フリーマーケットなどの取り組みが増えている(関連記事)。このことは、NEMモザイクを応用したステーブルコイン利用を後押ししているといえる。
LCNEMのステーブルコインのバックエンドで動いているのは、仮想通貨NEMのパブリック型ブロックチェーンということになる。通常、ポイントシステムや決済システムの構築運用には大きな費用が必要となる。バックエンドにパブリック型ブロックチェーンを活用することで、構築運用コストを格段に抑えることが可能だ。この点でも興味深い取り組みといえる。
LCNEMによれば8月25日から8月26日に世田谷区で開催する「用賀サマーフェスティバル」ではLCNEMウォレットを利用する方向とのことだ。ここでステーブルコインが使われる可能性もあるだろう。
この日の発表を受けて、オンラインショップでNEM決済を受け付けていた「珈琲ねむりや」がLCNEMのステーブルコインlc:jpy決済に対応した。すでにNEM決済を受け付けている店舗であれば、LCNEMステーブルコインにはすぐ対応可能だ。対応事例が今後も出てくるかもしれない。
若いスタートアップ企業によるステーブルコインへの挑戦がどのような展開を見せるのか、今後を見守りたい。