ニュース解説

三菱UFJとAkamaiが「新型ブロックチェーン」で合弁会社、その意味は

毎秒100万件と従来技術より圧倒的に高速な決済処理を狙う

 株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループ(以下、MUFG)と米Akamai Technologies, Inc.(以下、Akamai)は2月12日、両社が独自開発した「新型ブロックチェーン」を活用した決済ネットワークの提供を目指し、合弁で新会社「Global Open Network株式会社」を設立すると発表した(発表資料関連記事)。その内容について現時点で分かっていることをお伝えする。

 新会社は資本金2億5000万円、出資比率はMUFGが80%、Akamaiが20%。新会社は2020年上期までをめどに「新型ブロックチェーン」を基盤としたオープンなペイメント(決済)ネットワークの提供を目指す。

従来技術以上の高速処理を求めてブロックチェーン技術に注目

 両社の「新型ブロックチェーン」とは、どのような技術なのだろうか。一言でいえば、Akamaiが提供する高速なエッジプラットフォームを前提に、従来型技術よりも高スループットの決済処理の提供を目指す独自のブロックチェーン技術と考えられる(スループットはシステム全体での単位時間あたり処理性能を指す用語)。

 両社は、2018年5月に「新たなペイメントネットワークのサービス提供へ向けた新型ブロックチェーンの開発について」と題する発表を行っている(発表資料)。発表資料には、「決済処理速度2秒以下、世界最速の取引処理性能毎秒100万件超の取引」と具体的な性能が記されている。さらに、機能拡張により「毎秒1000万件」への展望も可能と記している。

 MUFGでは、ブロックチェーン技術を活用する場合、「ノード間のネットワーク速度」と「ノード内のブロック生成、検証の所要時間」の2点を高速にすれば、取引の高速化が可能になると考えた。前者はAkamaiのエッジプラットフォーム(Akamai Intelligent Platform)を活用することで達成し、後者は独自ソフトウェア開発により達成したとしている。

 いわゆるコンソーシアム型ブロックチェーン技術(例えばHyperledger Fabric)の利用例では、処理性能の高速化のために同一拠点の少数のノード数で合意形成を行うやり方を取る場合がある。MUFGの発表資料では、このやり方を「可用性のメリットが失われる」と批判する(可用性とは運用停止時間の短さを示す用語)。また、Bitcoinのレイヤー2技術と呼ばれることもあるLightning Networkでは、ブロックチェーンの外側のノード間で高速高頻度の決済を実施し、その合算結果だけをブロックチェーンに記録する。このようなやり方については「詳細な取引記録が残るというブロックチェーンの本来の機能が損なわれる」と批判している。つまり、MUFGは多数のノードが地理的に分散することによる高可用性を重視し、かつブロックチェーン上にすべての取引が記録される形での高速化を重視していることが分かる。

 開発チームへのインタビュー記事(日経BP 浅川直輝氏による)では興味深い情報を引き出している。この「新型ブロックチェーン」技術では決済ネットワークJ-Mupsの開発を指揮した三菱UFJニコスCTOの知見を反映しているとある。またBitcoinの仕組みを参考にしたと記されている。ブロック間隔は、Bitcoinでは10分であるのに対して「新型ブロックチェーン」試作システムでは100msと大幅に短い。これはAkamaiの高速ネットワークを前提とすることで実現できたと考えられる。Bitcoinとは異なりPoW(Proof of Work)は用いないが、合意形成アルゴリズムはBitcoin類似としており、6ブロック作成の時点で決済完了とみなす。これはBitcoinなどパブリックブロックチェーンで用いられる確率的な合意形成を用いることを示す。この点でも、ファイナリティ(決済の確定性)を重視した合意形成を行う従来のコンソーシアム型ブロックチェーン技術とは発想が異なる。ノード数を大きくとり地理分散するには、確率的な合意形成の方が適していたと考えることもできるだろう。

 毎秒100万件と高速な決済処理は、従来型のデータベース管理システム(DBMS)を活用したシステムでは難しいとMUFGは結論付けた。その背景として、従来のDBMSではデータの更新は同期処理、つまり一件ずつ処理していくやり方を基本としていることがある。一方、ブロックチェーンは多数の取引(トランザクション)をまとめた「ブロック」単位で処理を実行する。つまり非同期処理のやり方を取る。非同期処理は処理の遅延が大きくなるのと引き換えにスループット(システム全体での単位時間あたりの処理性能)を高くでき、処理要求が一時的に殺到する状況(スパイク)にも対処しやすいというメリットがある。

「毎秒100万件の決済ネットワーク」の需要が見えている

 「毎秒100万件」の高速な決済ネットワークは、既存のクレジットカード決済システムとは文字通り桁違いの処理能力を持つことになる。両社が合弁会社を設立した意味は、この処理能力を使いこなす用途があると考えていることを意味する。

 発表資料には、新会社が提供する決済ネットワークの用途の例として「IoT時代を見据えた多様な決済サービスでの活用」「ペイメントネットワーク事業のグローバル展開」の2件を挙げている。例えば、IoT機器がセンサーなどで収集したデータを買い上げるような市場が登場した場合、そこで求められる決済ネットワークは、人間を対象にした既存の決済ネットワークとは桁違いの処理能力が求められるだろう。また、スマホ決済、ポイントシステム、ICカードによる電子マネーのようなサービスが今後拡大していくと、それらのサービスの裏側で動く決済ネットワークは既存のクレジットカード決済ネットワークとは桁違いの処理能力が求められるだろう。このような決済の多様化と処理能力のニーズに対応することが新会社の狙いということになる。

 既存のDBMSや決済ネットワークの技術とBitcoinなどの技術を比較検討した上で、MUFGとAkamaiは独自技術を作り上げた。その評価は実際に決済ネットワークが動き出してみないと定まらないが、暗号通貨とブロックチェーンというムーブメントを受けて金融業界から大胆な技術的挑戦が出てきたことは記憶にとどめておきたい。