イベントレポート

地域活性化の支援や地域通貨にブロックチェーンを活用した事例を報告

熊本ブロックチェーンカンファレンスで語られた活用メリット

 8月3日に熊本の市民会館シアーズホーム夢ホールで開催された「熊本ブロックチェーンカンファレンス2018」。前回のレポート記事「東京依存に終止符、ブロックチェーンが地方創生を促進」でお伝えした基調講演後、続けて行われたカンファレンスの内容をレポートしたい。

 カンファレンスでは、熊本県や九州などで活躍する4つの企業・団体がそれぞれの計画や実績などを報告した。現在、どのようにブロックチェーンが活用できるか、その可能性を探るべく、来場者の多くが耳を傾けていた。

福岡でブロックチェーンを使ったゲームを開発

 プレゼンテーションの最初は、ゲーム制作会社の株式会社グッドラックスリー・取締役である畑村匡章氏。

 畑村氏は2004年にDeNA入社後、日本を代表するゲームとSNSサイト「モバゲータウン」を構想し、立ち上げた。2007年に「第5回ウェブクリエーション・アウォード」にて、Webの発展に最も貢献した人に贈られる「Web人大賞」を受賞した。その後、2012年にスクエア・エニックスへ。オンライン会員サービスやソーシャルゲーム基盤の統括などの事業拡大に貢献しているという経歴の持ち主だ。

株式会社グッドラックスリー・取締役である畑村匡章氏

 ちなみに、グッドラックスリーは、福岡市のサポートのもと、民間有志で発足した「福岡ブロックチェーンコンソーシアム」のスタートアップメンバーでもある。

 プレゼンでは、スマートフォンゲーム「くりぷ豚」について触れられた(編集部注:PC向けWeb版もあり)。「くりぷ豚」とは、プレイヤー同士でゲーム内生物となる豚を売買したり、異なる性質の豚を交配させたりして楽しむシミュレーションゲームだ。ゲームシステムでブロックチェーンが用いられているという特徴がある。

 畑村氏は「例えば、ドラゴンクエストでは、ロトの剣という貴重な剣がありますが、ゲームの中で何本も出ているとか、他人も持っているよねという話になると思います。ドラゴンクエストの世界があったとして、その中に10本しかない剣だったらどうなるか。頑張って修行して先着順で排出される権利ですよという形で定義すると、改ざんできないような形になっていれば、ロトの剣を持っていることがすごく賞賛される。そうしたオーナーシップの面白みがでてきます」という。こうした世界を地で行っているのが「くりぷ豚」だ。

「くりぷ豚」のゲームシステムを例に、ブロックチェーンの活用の幅の広さを力説

 「たとえば、『くりぷ豚』の世界の中には取引所があります。ここにEthereumを払えば豚の所有権を移すことができる。法律上問題が生じますが、この豚を使ってレースをするなんて手法で掛け金を集めることも(技術の上では)できます。豚が勝ったら、1等になったら全部の掛け金総取りできるというコントラクトもできる」と畑村氏。

 こうした仕組みを、ブロックチェーンを使って実現できるということを示しつつ「従来の中央集権的に管理されていた世界で、密室の中で何かが議論されて、いろんなものがわけわからずに動いていく。こうした部分を変えていけるんではないか」と今後の可能性を語った。

プレゼンテーションの最後には、仮想アイドルを軸とした新しいゲームを紹介

地域通貨として仮想通貨を導入するメリット

 2つ目のプレゼンテーションは、株式会社フィノバレー・代表取締役社長の川田修平氏。岐阜県高山市に本店を置く飛騨信用組合が取り組んでいる、電子地域仮想通貨『さるぼぼコイン』の地域活性化の取り組みについて語られた。

 川田氏は以前、株式会社アイリッジにてフィンテック事業推進チームを立ち上げ、さるほぼコイン、アクアコインなどの電子地域通貨などのプロジェクトを推進。さらに電子地域通貨事業を中心に、フィンテック関連事業を子会社化し、今年8月に取締役社長に就任している。

株式会社フィノバレー代表取締役社長の川田修平氏

 現在、さまざまな自治体から、特定の地域のみで使うことのできる商品券が販売されている。割安で商品券を提供し、地域にお金を落として活性化につなげようという取り組みだが、こうした分野にIT技術を取り入れることでより多くのメリットがあるという。

 「ユーザーがスマートフォンを使うことで、QRコードだけで決済ができるようになります。これまでのクレジットカードやSuicaでは、ICカードのリーダーが必要です。これに対してQRコードはシステム全体が非常に軽くできるので、これまでは難しかった領域にも入り込めるのではないでしょうか」と川田氏。続けて「スマートフォンのアプリで提供できるという点が大事なところで、アプリなら決済の前後のプロセスをプログラム化できます」という。

 農業が盛んな地域では、かつて無人販売所をたくさん見かけた。「性善説に基づいた販売形態ですが、こうした場所にICカード読み取り機を置いて、インターネットに繋げたら月に1万円ぐらいかかってしまう。それでは商売は成り立ちません。もし、QRコードが貼ってあって、仮想通貨で料金を支払えるとなるとどうでしょう。こうした領域にも入り込めるのではないでしょうか」と川田氏。

ブロックチェーンを用いた「さるぼぼコイン」は、2017年12月から本格始動している

 また、川田氏は地域通貨にブロックチェーンを用いるメリットについても触れた。「2000年前後には、いろんな自治体で地域通貨発行されました。地域通貨のいいところは地域でしか使えないところで、地域からお金が流出しにくくなると言うメリットがあります。当時は紙で運用していたので効率が悪かったり、コストがかかったりというデメリットがあったのですが、昨今のスマートフォンの普及やブロックチェーンの登場で、広まる下地ができたのではないでしょうか」とのこと。

 スマートフォンを用いることで、利用者のデータも採取できる。「そうしたデータをマーケティングに利活用できるため、(自治体と利用者の)両方にいいことずくめだと捉えている」のだそうだ。

QRコードであれば導入コストが低く、バスなどでも決済サービスが利用可能に

 新たな地域通貨の形として、千葉・木更津が取り組む「アクアコイン」についても解説された。「アクアコインは、木更津市と地元の商工会と地元の金融機関が一体となって取り組んでいる仕組み。2018年の3月末から6月の終わりぐらいまで実証実験が行われました。職員がおおよそ1200名、加盟店は100店からスタートしたのですが、あとから参加したいという人が増えてきました。流通額も当初3千万円ほどを目標にしてたのですが、4千万円を超えて成功に終わり、この10月に本格展開する予定で動いています」とのことだった。

プロスポーツチーム運営にブロックチェーンを活用する方法を模索

 3つ目のプレゼンテーションは、熊本バスケットボール株式会社・代表取締役CEO共同代表の内村安里氏。企業にてモバイル広告事業の立ち上げやマーケティング部門の統括を経験したのち、独立して横浜DeNAベイスターズの立ち上げに参画。エンターテイメントコンテンツのマーケティング戦略立案や、大手家電メーカーのアプリケーション開発に携わる。

熊本バスケットボール株式会社・代表取締役CEO共同代表の内村安里氏

 熊本バスケットボールは、熊本を本拠地とするプロバスケットボールクラブ「熊本ヴォルターズ」を運営。現在はBリーグに属している。内村氏は、そうした地元チームの活性化にブロックチェーンを取り込みたいと考えている。

 「熊本ヴォルターズコインというのをトークンとして発行してそれを流通させようと考えています。ここには2つの仕組みを導入しています。1つはクラウドファンディングを活用した若手選手の育成支援システム。これをトークンエコノミー上でやりたい。もう1つは、パートナー企業が参画する地域活性化の支援システムです」と内村氏。

 「クラウドファンディングを活用した若手選手の育成支援システムは、支援者が資金援助をして、そのお礼として選手のトレーニングを見学したり、サインを書いたりといったインセンティブが得られる、音声などのデジタルデータの所有権をブロックチェーン上に記録して付与する、といったことが考えられる」としている。また、パートナー企業との連携については「前出の地域通貨と似ているが、チーム独自のコインを使うことで、マーケティングに利活用しやすい」とした。

プロバスケットボールチームの経営は難しく、新しい取り組みをしていかなければ生き残れないと語る

 内村氏は「プロバスケットボール選手を目指す子どもを増やしたいということだけではなく、震災のような出来事や、地域の方々が人々の生活の中で直面する嫌なこと、辛いこと、悲しいことがあっても、週末に僕らの試合があれば、明日へ向かえる。地域の方々の心に寄り添い、元気にすることが僕らの存在意義。より多くの人と関われるシステムをブロックチェーンで作りたい」と語った。

地域とのコミュニティ形成に、ブロックチェーンが一役かうと内村氏

熊本をマイニング事業の中心地に

 最後のプレゼンテーションは、熊本電力株式会社・代表取締役CEOの竹元一真氏。竹元氏はチームラボ株式会社などを経て、複数社の経営や事業企画及びファイナンスなどに従事。2012年再生可能エネルギー開発管理の、TakeEnergyCorporation株式会社を創業。再生エネルギーと農業、ITを起点に地方創生を掲げ、現在に至る。

熊本電力株式会社・代表取締役CEOの竹元一真氏

 熊本電力は、マイニング事業に参入した。地価が都市部に比べて低いという地域の特性と、電力会社という強みを生かして、熊本の各地でマイニングファームを展開する構えだ。

 「約1万台規模のマイニングファームをご用意しています。こちら1万台規模となりますとマイニングマシンが1台50万円なので、約50億円相当を投資しています」と竹元氏。大規模のマイニングというと、電気代の安い海外が注目されやすいが、竹元氏は「保険などの拡充もあって今はリスクがない。海外でマイニングをやられている方の話を聞くと、盗難や破壊、電気が止まったりといった話も聞きます。(治安のいい)日本でこういう事業やっていくというところにメリットがあるのではないか」と考えるとのこと。購入資金が一括で控除されるという税金面でのメリットも、日本でマイニングが注目をされている理由のひとつだという。

仮想通貨投機よりもマイニング事業のほうが収益を上げやすいと解説

 竹元氏は「マイニング事業をする人を、熊本で増やしたい。そうすることで、熊本を日本でのブロックチェーン技術の中心にしていきたい。マイニングファームが増えること、マイニング事業をされる人が増えることで、ブロックチェーンの技術や情報を集積させていきたいと思っています」と事業への意気込みを語った。

廃校となる小中学校をマイニングファームとして利活用するプランも紹介していた

 また、電力関連のトークンの設計も始めているとのこと。「トークンの発行を数年以内にやっていきたい。熊本電力がトークンを発行して、それで支払いができるようになる仕組みを構想している」とのことだ。

 以上で、カンファレンスが終了。平日夜の開催にもかかわらず、多くの来場客が訪れていたのを見るに、地方でのブロックチェーン活用が期待されていることを強く感じた。

外村 克也

株式会社タトラエディット代表取締役、編集者兼ライター。月刊アスキー編集記者や書籍編集者を経て起業。ITサービスやPC・スマホの解説書などを手がける一方、Minecraftやレトロゲームなどの記事執筆も行う。著書は『YouTube Perfect Guidebook』(ソーテック)、『人生が変わる! ずるいスマホ仕事術 タブレット対応版』(宝島社)など。