イベントレポート

電力・金融・人材評価・インターネット投票などブロックチェーンの社会実装実例を紹介

ブロックチェーンがつくる未来社会を語る「BLOCKCHAIN2.0 MEETUP」開催

 BLOCKCHAIN2.0 MEETUP実行委員会は9月8日、渋谷区と日本財団が主催するイベント「SOCIAL INNOVATION WEEK SHIBUYA」のサテライトイベントとして「BLOCKCHAIN2.0MEETUP」を開催した。パネルディスカッション「ブロックチェーンがつくる、あたらしい未来」では、電力、金融、政治、ゲームなど各分野で実証実験を進めるゲストが登壇。ブロックチェーンが今後世の中をどう変えて行くのか、なぜブロックチェーンなのかについて興味深い見解が表明された。

Mistletoe株式会社Investment Group Directorの鈴木絵里子氏

 セッション1では、ブロックチェーンでモノ(電気)とお金の流れはどう変わるか? について、Mistletoe株式会社Investment Group Directorの鈴木絵里子氏をモデレーターに、デジタルグリッド株式会社の代表取締役・阿部力也氏、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループのデジタル企画部・藤井達人氏、「Mastering Bitcoin」(O'Reilly Media社刊)代表翻訳者の今井崇也氏、株式会社ALISのCEO・安昌浩氏、日本マイクロソフト株式会社のテクニカルエバンジェリスト・増渕大輔氏の各氏がパネラーとして発言した。

電力×ブロックチェーンで環境問題にも対応

 まず、情報と電力と金融をデジタルに統合した新しい電力網「デジタルグリッド」を提唱し、昨年末に起業した阿部氏が、環境省と一緒に取り組んでいる電力×ブロックチェーン(Ethereum)の実証実験について紹介した。

 阿部氏は、まず電力市場は発電と消費が常に一致していないとダウンする点で「電力市場は株式市場と似ている」とした。その上で、ブロックチェーンで使用電力のデータが一軒ずつ正確に取得できるようようになると、現在、20兆円と言われている電力市場はさらに大きなマーケットとなると述べた。

 その理由は、対環境問題だという。「発電者と消費者が明確になり、再生可能な電気か、CO2を排出する電気かが色付けされるようになり、発電者は環境価値を売ることができるようになるからだ」とした。

 同氏は現在、Ethereumを使用したブロックチェーンを使い、電力使用記録を3Gモジュールでインターネットを介して制御する小型のスマートメーターを開発し、使用していることを紹介した。

 電気の売買は銀行で現金化可能なトークンで行うことを計画しており、「分散認証を実現。2重払いの防止や、データの可視化、追跡を可能した環境価値を売買できるシステムが実現する。これによりエネルギーの使用を控える社会から豊富に使える時代にシフトする」と解説した。

 同氏のプレゼンテーションに対してモデレーターの鈴木氏が、パネラーの安氏にコメントを求めた。

株式会社ALIS CEOの安昌浩氏

 安氏はデジタルグリッドで使用されているブロックチェーンがパブリックかプライベートかについて尋ねた後、オラクル問題とトークンについて質問した。
(※編集部注:オラクル問題とは、ブロックチェーン外にある情報をブロックチェーン内に移行する際のインプットデータの正当性を証明することができない問題)

 これに対し阿部氏は、小型のデバイスにより電力量を計測するためオラクル問題は生じないこと、トークンは将来、現金化を可能とすることを考えており「トークンを先払いすることにより、与信問題が解消される」と解説した。

パブリックブロックチェーンの金融への応用は難しい

 次いで三菱UFJフィナンシャル・グループのデジタル企画部・藤井達人氏がRipple社と取り組んでいる国際送金システムとMUFGコインについて紹介した。

三菱UFJフィナンシャル・グループのデジタル企画部・藤井達人氏

 藤井氏はまず「ブロックチェーン、とくにパブリックチェーンは破壊的で、金融機関とブロックチェーンは相反するものだ。だが、パブリックブロックチェーンをそのまま金融に適応するのは難しい。当グループではプライベート、コンソーシアム型のブロックチェーンを仮想通貨、送金、セキュリティなどに応用している。国内では銀行間送金への応用、MUFGコイン、シンガポールでの小切手へのブロックチェーンの応用などを行っている」と紹介した。

 2016年春からスタートし、話題となったMUFGコインについては「まだお話できることが少ない」としたものの、行内では「食堂やコンビニでの清算に利用されている」。将来的にはエスクローやクラウドファンディングへの応用が考えられる」と述べた。

 また、昨年のCTECで実演したブロックチェーンを使った自動販売機の例を紹介し、「今年10月のCTECにはもう少し進化したスマートコントラクトのアプリケーションをたくさん出品する」と語った。

 金融から見たブロックチェーンについて藤井氏は「パブリックの場合、パフォーマンスやスケーラビリティで課題が多い」との評価を明らかにした。

 藤井氏は「ブロックチェーンで従来の金融機関はなくなるのか?」という質問に対しては、「個人向けサービスは置き換えられることが多いのでは」との見解を示した。

ブロックチェーンの完全な記録は人と行為を評価できるか?

多摩大学大学院客員教授の福田峰之氏

 セッション2は多摩大学大学院客員教授・元内閣府大臣補佐官・マイナンバー対応の福田峰之氏をモデレーターに「ブロックチェーンの完全な記録は人と行為を評価できるか?」について話し合われた。

 まず、ランサーズ株式会社取締役の曽根秀晶氏が「1社から雇用されている人以外の、副業を持っている広義のフリーランスは現在、35%だが、2027年には50%を超えるという調査」を紹介。個のエンパワーメントがこれからの時代のキーワードとなるとした。

 「日本でも労働力がフリーランス化、オンライン化、ビジネス化していく。自分らしい選択ができ、個人へのパワーシフトが起こり、フリーランス2.0の時代が来る。これまでは前職はここで、前の年収は幾らという世界から自分自身の市場価値を証明し、自分自身を担保する時代に移る」と同氏は述べた。

 ランサーズはオンライン上で企業が個人に直接発注できるクラウドソーシングを2008年から展開している。すでに30万の企業が累計200万件の依頼を行ったという。

 これに続き、同社は昨年末にランサーズ・トークン経済圏について発表している。また、6月には個人がバーチャルな株式会社を設立することができるサービスを開始した。経理、法務、資金調達など企業に必要な業務をパッケージ化したサービスという。

 曽根氏は「インターネットに次ぐ技術としてブロックチェーンの可能性が指摘されているが、ブロックチェーンが人材、人事など働き方に影響する実例として個人を点数化するサービスを挙げ、「人々の信用が可視化され、スコア化されていく」と語った。

パブリックかプライベートか

日本マイクロソフトのテクニカルエバンジェリスト・増渕大輔氏

 日本マイクロソフトのテクニカルエバンジェリスト・増渕大輔氏は「これからは人材評価に当たって複数の人の視点が必要となってくる。すでにエンジニアでは会社の評価で次の職場に移るということがかなり怪しくなっている。ランサーズさんの仕組みのように他人と評価が共有できることはこれからの人材評価に必要なことだ。これらにブロックチェーンがどう活用できるか知りたい」と述べた。

日本デジタルマネー協会代表理事の本間善賽氏

 一般社団法人日本デジタルマネー協会代表理事の本間善賽氏は、「インターネット以降、パワーが個人にシフトし、起業しやすくなった。従来はコンピューターをはじめ大型の設備が必要だったが、個人が動きやすくなった。その中で、個人の評価はFacebookやTwitterを見ていけばある程度はわかる。我々は既にコンピューターとネットワークをフル活用して、バーチャル空間の情報がリアルと結びついて生産性が上がる世界に生きている。個人の評価も可視化され、売買されるところまで来ている。個人が生き生きと活躍できる状態が加速する」と述べた。

 これらの議論に対してモデレーターの福田氏が「ブロックチェーンは曽根氏が行おうとしていることに対してどのような意味を持つのか?」と問題提起した。

 増渕氏は「コンソーシアムやプライベートブロックチェーンでは使いやすい技術が出てきているので、技術的にブロックチェーンが受け皿になってさまざまなことができるようになってきている」と語った。

 本間氏は「パブリックチェーン対プライベートチェーン、コンソーシアムチェーンというディベートは2015年以来、3年間続いている。パブリックチェーンは遅い。ただ、金銭的価値がある。一方、プライベートチェーン、コンソーシアムチェーンは速く、かなり違う性質のものだ。それぞれ役割があり、ユースケースが違う。それぞれが異なる市場にチャレンジしていけば、業界としては盛り上がる。フリーランスに対してはそれぞれがエンパワーしていく。決済や評価経済的なものか、個人が使うツールとしてブロックチェーンは非常にパワフルであり、楽観的な未来を描けるのでは。ただ、パブリックチェーン側から見ると、まだインフラレイヤーのものにとどまるが、それぞれがチャレンジしていけばどこかで融合する段階に来るのでは」と見解を述べた。

選挙にブロックチェーンを活用

株式会社VOTE FORの代表取締役・市ノ澤充氏

 次に政治と選挙のプラットフォーム「政治山」の運営とインターネット投票の研究と推進を行っている株式会社VOTE FORの代表取締役・市ノ澤充氏が登壇。先月末につくば市で行ったブロックチェーンを使った実証事業について語った。

 市ノ澤氏は、投票は選挙権を持つこと、マイナンバーカードを使った本人確認により行われたこと、ブロックチェーン(Ethereum)は投票データの集計に使ったことを紹介した。

 同氏は「今回は最小構成で投票データを暗号化した。ただマイナンバーは、暗証番号を入力する必要があり、ここで脱落する人も少なくなかった。この投票システムでは選挙権を持つ人が誰に投票したかは、わからない仕掛けをつくった」と、投票システムの概要を紹介した。

 また、今回の選挙にブロックチェーンを使用した狙いについて「ブロックチェーンは投票の集計だけに使用し、非改竄性を実現することを目指した」と述べた。

 結果については「今回の実証によりいくつかの自治体でこのシステムを使ってもらうことを話し合っている。選挙へのブロックチェーンの利用の確実な第一歩となった」とした。

 システムのネックはマイナンバーカードの使用で、市ノ澤氏は今後認証手段としてマイナンバーカード以外の方法について検討していくことを表明した。

 モデレーターの福田氏は「5年前にインターネットを使った選挙運動は解禁されたが、インターネット選挙はまだ解禁されていない。市ノ澤氏のような取組は多いに評価されるべきだ」とまとめた。

お詫びと訂正:記事初出時、株式会社三菱UFJフィナンシャル・グループの藤井達人氏の名前と所属につきまして、誤って記載している部分がありました。また、三菱UFJフィナンシャル・グループの取り組みについて「XRPの活用などを行っている」とお伝えしましたが、著者の推測を誤って記載しておりました。これらの該当部分につきまして、お詫びして訂正させていただきます。

丸山 隆平