イベントレポート

金融庁、仮想通貨交換業者の貧弱な内部監査部門や専門性を有する監査要員不足を指摘

業務改善命令などこれまでの対応を「仮想通貨交換業等に関する研究会」第5回で報告

 金融庁は9月12日、霞ヶ関・中央合同庁舎第7号館にて「仮想通貨交換業等に関する研究会」の第5回会議を開催した。金融庁が事務局を務める本会議は、学識経験者と金融実務家などをメンバーに、仮想通貨交換業者などの業界団体、関係省庁をオブザーバーとし、仮想通貨交換業などをめぐる諸問題について制度的な対応を検討するため、定期的に開かれている。本稿では同研究会で示された金融庁の「仮想通貨交換業者に対するこれまでの対応策等」(中間とりまとめ資料)から紹介する。

新規参入意向企業は160社超

 第5回研究会では、最初に金融庁から仮想通貨交換業者に対するこれまでの対応政策等について説明があった。

 ここでは、同庁は現在、コインチェック事案を踏まえて登録済み16社に対して順次、立ち入り検査を実施していること、みなし登録業者は全社に立ち入り検査を実施し、登録申請業者が16社から3社に減少したこと、登録業者として新たに参入の意向を示している企業は上場企業を含み160社超に達していることが明らかになった(8月10日、中間とりまとめとして公表)。

 これまでに問題が判明したみなし仮想通貨交換業者10社及び登録業者7社に対し、業務停止命令・業務改善命令を発出している。

 みなし仮想通貨交換業者(16社)のうち、1社は登録拒否(6月7日)、12社は既に取下げなどを行っている。

 コインチェック社を含む残り3社は業務改善報告書を現在審査中で、今後、残りの登録業者に対して、順次、立入検査を実施する。

 また、これまで実施した仮想通貨交換業者等の検査・モニタリングで把握した実態や問題点について、8月10日に中間的にとりまとめとして公表した。

 登録業者の自発的改善や、新規登録申請者の自己チェック、自主規制機関における自主規制ルールの検討、利用者における業者の選定等に活用することを念頭に置いてのものだ。

総資産は前年度比553%と急拡大

 金融庁の仮想通貨交換業者に対する検査・モニタリングでは、仮想通貨交換業者の会社規模(総資産)が前事業年度比で平均、553%と拡大急拡大している。平均して1名で33億円の取扱いと少ない役職員で多額の利用者財産を管理している――ことが明らかとなっている。

 また、主にみなし業者において、昨年秋以降、取引が急拡大し、ビジネス展開を拡大する中、内部管理態勢の整備が追いつかない実情が明らかとなった。

 ビジネス部門では、取り扱う仮想通貨のリスク評価をしていない。自社が発行する仮想通貨の不適切な販売、内部管理態勢の整備が追いつかないなかで、積極的な広告宣伝を継続していた――と指摘。

 リスク管理・コンプライアンス部門では、法令等のミニマムスタンダードにも達していない内部管理、マネーロンダリング・テロ資金供与対策、分別管理ができていない、内部牽制が機能していない、セキュリティ人材が不足している、利用者保護が図られていない、外部委託先の管理ができていない――ことをあげている。

 内部監査では、内部監査が実施されていない、内部監査計画を策定しているがリスク評価に基づくものとなっていない。

 コーポレート・ガバナンスでは、利益を優先した経営姿勢、取締役及び監査役の牽制機能が発揮されていない、金融業としてのリスク管理に知識を有する人材が不足、利用者保護の意識や遵法精神が低い、経営情報や財務情報の開示に消極的――を指摘している。

システム担当者が不足

 主にみなし業者において、多数認められた事例としては以下を指摘している。

 第1線のビジネス部門における取扱い仮想通貨の選定では、暗号資産の利便性や収益性のみが検討されている反面、取扱い仮想通貨ごとにセキュリティやマネロン・テロ資金供与等のリスクを評価した上の、リスクに応じた内部管理態勢の整備を行っていない。

 リスク管理・コンプライアンス部門ではマネロン・テロ資金供与対策について、口座開設、仮想通貨の移転取引に係る各種規制の理解、仮想通貨のリスク特性を踏まえたマネロ
ン・テロ資金供与対策など、第1線にアドバイスを行うのに必要な専門性や能力を有する要員が確保されていない。

 システムリスク管理では業容や事務量に比べ、システム担当者が不足している。サイバー攻撃に関するリスクシナリオや、予期せぬ事態に備えるための緊急時対応計画コンティンジェンシープランを策定しておらず、セキュリティに関しての研修を実施していない。

貧弱な内部監査部門

 内部監査部門では、マネロン・テロ資金供与対策や、システムリスクなどの監査を実施するために必要な専門性・能力を有する監査要員が確保されていない。内部監査要員が1名で、他業務と兼務している中、内部監査計画の策定や内部監査を実施していないとしている。

 企業カルチャーおよびコーポレート・ガバナンスでは経営陣は、業容が急拡大する中、業容に見合った人員の増強やシステム・キャパシティの見直しを行っていない。また、取締役会等では、多額の利用者財産を管理する金融業者としてのリスク管理等に関する議論が行われていないことを指摘。経営情報や財務情報について、利用者に分かりやすく公表されていないと述べている。

今後の監督上の対応

 登録審査・モニタリングでは登録業者に対してはリスクプロファイリングの精緻化およびその頻繁な更新を行うとともに、引き続き、順次、立入検査を行う等、深度あるモニタリングを行い、問題が認められた場合は必要な行政対応を行う。

 みなし業者に対しては、業務改善命令を受けて提出された報告内容について、本とりまとめの結果を踏まえ、個別に検証し登録の可否を判断する。

 新規登録申請業者に対しては、登録審査に当たって、業者のビジネスプランの聴取およびそれに応じた実効的な内部管理態勢の整備状況について、書面やエビデンスでの確認を充実させるとともに、現場での検証や役員ヒアリング等を強化。また、新たに登録された業者に対しては、仮想通貨を取り巻く環境やビジネスの急速な変化を踏まえ、登録後の早い段階で立入検査を実施する。

 自主規制団体との連携では、自主規制団体からの認定申請を踏まえ、法令の認定要件に基づき、実効性のある自主規制機能が確立されるよう適切に審査。

 関係省庁や海外当局との連携としては、国内の無登録業者への対応や、利用者への注意喚起について、引き続き、関係省庁と緊密な連携し、また、海外の無登録業者への対応など、海外当局とより広範かつ緊密な連携する。

仮想通貨業界の現状

 また、金融庁は現在の仮想通貨業界の現状についても報告している。登録業者は、以下の通り。

登録業者16社一覧

  • マネーパートナーズ
  • QUOINE
  • bitFlyer
  • ビットバンク
  • SBIバーチャル・カレンシーズ
  • GMOコイン
  • ビットトレード
  • BTCボックス
  • ビットポイントジャパン
  • DMM Bitcoin
  • ビットアルゴ取引所東京
  • Bitgate
  • BITOCEAN
  • フィスコ仮想通貨取引所
  • テックビューロ
  • Xtheta

 これまで金融庁登録業者16社に対して、順次立入検査を実施。登録済みの16社は自主規制団体を設立し、金融庁へ認可申請(8月2日)している。その他、上場企業を含む様々な企業160社超が新規参入の意向を示していることを明らかにした。

 みなし仮想通貨交換業者の現状については、以下の通り。

みなし登録業者3社一覧

  • コインチェック
  • Last Roots
  • みんなのビットコイン

 金融庁は、みなし仮想通貨交換業者16社全社に対して立入検査を実施。立入検査結果等に基づくこれまでの行政処分は、業務停止命令および業務改善命令が5社。業務改善命令12社。そのうちの1社を登録拒否(6月7日、FSHO)、12社は既に自主的に取下げなどを行っている。コインチェック社には1月29日および3月8日に行政処分(業務改善命令)、その後マネックスグループの完全子会社化になっていることを報告。Last Rootsとみんなのビットコインの2社に対しても、業務改善命令を行っている。

丸山 隆平