イベントレポート

副業の勤怠をブロックチェーン管理、複数企業の就労時間をトークンが一元化

BCCC第1回トークンエコノミー部会でタイムカードアプリのデモンストレーション

 一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は9月14日、第1回トークンエコノミー部会を開催した。新たに発足されたトークンエコノミー部会の初部会となる今回は、前半にパーソルキャリア株式会社の桑原悠氏を招き「副業/複業による課題とブロックチェーンでの実証目的」をテーマにお話を伺い、後半は日本情報通信株式会社の浜谷貞祐氏より「実証アプリケーション"副業/複業時代のタイムカード"ご紹介」について伺った。

 最初に、第1回トークンエコノミー部会ということで、部会長に就任したテックビューロホールディングス株式会社マーケティング最高責任者の福永充利氏が、あいさつを兼ねて部会の趣旨を説明した。

テックビューロホールディングス株式会社のマーケティング最高責任者・福永充利氏

 福永氏は、今後「トークンエコノミー」というキーワードは「ブロックチェーン」の次に良く聞く言葉になるだろうという。ブロックチェーンを基盤として、個人や法人が資産を電子化(トークン)して運用することで、人や企業がその資産価値を新たに認識をして、活用・拡張・交換をしていくという。このトークンを交換したり、売ったり、買ったりするさまがトークンエコノミーであるとのこと。部会では、さまざまなトークンの交換を広義の意味でトークンエコノミーと呼び、ここではその研究、議論、アイデアだしなどメンバー同士ディスカッションをしていく場にしていきたいそうだ。

 福永氏は最後に部会の今後の活動予定として、メンバー各社によるトークンエコノミーの事例発表のほかに、ビジネスモデルの企画だしやトークン設計などプランニングワークショップを開催していきたいと、抱負を述べた。

副業による課題とブロックチェーンでの実証目的

パーソルキャリア株式会社のプリンシパルエンジニア・桑原悠氏

 講師を招いての事例発表前半は、パーソルキャリア株式会社の経営戦略本部事業推進統括部データソリューション部プリンシパルエンジニア・桑原悠氏による「副業/複業による課題とブロックチェーンでの実証目的」について発表が行われた。

 パーソルキャリアは旧社名を株式会社インテリジェンスといい、就職情報サービス大手の企業である。桑原氏は、「PERSOL」というブランド名や、転職情報サービス「DODA」、アルバイト情報誌「an」といったサービスを展開している会社だといえば、ピンときてくれるのではないかという。同社は、就職情報サービスのほかにも法人向けに人事管理のソリューション提供も行っているそうだ。

 昨今、政府が推進している「働き方改革」の1つに、就業者が単一の企業で働くだけでなく、所定の勤務時間外に他の企業で働くなど、いわゆる「副業」や「兼業」の推進が含まれている。新たな働き方として副業ができる企業が増加する中、複数の企業で働くことによる労務管理の複雑化が懸念されていると、桑原氏はいう。その労務管理の懸念を、トークンを使って一元化する新たなタイムカードの仕組みを考案し、課題解決を試みているのがパーソルキャリアだ。

 総務省が発表をする資料によると、副業を希望する就業者は年々増加傾向にあるという。しかし、副業を容認している企業は全体のわずかに15%程度(2014年時点)。実際に副業を行っている人は、就業者全体の6%。これは全国平均の数値で、東京だけを見ると13%を超える数値にはなるが、今後さらなる高齢化社会が進み労働力の減少が予想される中で、この数字はまだまだ少ないという。

副業を容認している企業は約15%

 では、副業をする人、それを認める企業を増やすにはどうしたらいいのか? それにはまずその課題を洗い出す必要があると桑原氏はいう。副業に関する企業の課題や不安はさまざま。副業を認めない企業に利用を聞くと、「本業がおろそかになる」「人材が流出する」など実際に起きるかどうかわからない不安もあれば、副業を認める企業では就業者の「労働時間の把握ができない」「労災基準の明確化」などすぐ対応が必要なものまで、課題と不安は2種類に分かれたという。

 働き方改革で副業を推進している政府も、2018年に厚生労働省がモデル就業規則や運用ガイドラインが定めている。副業を解禁するにあたり企業は、対象となる就業者の労働時間を把握するなどの管理の実施、長時間労働の禁止など安全配慮義務の履行を求めている。つまりこれらが解決されて、初めて副業を解禁することができるわけだ。現状では、こうした管理を他の企業と共同で行うことが困難であることから、副業のメリットに気がつきながらも、実際にはなかなか副業解禁に踏み切れないというのが本音のようだ。

 具体的に労働時間の管理は、自社内の就業者が副業をする場合、自社と他社でどのくらい働いているかを把握しなければならない。なぜならば、たとえ副業を許可しても1週間あたりの労働時間は労働基準法で定める週40時間を超過してはならないからだ。また、1日の勤務時間が副業も合わせて8時間を超過した場合は、あとから契約した企業は法定時間外労働に対して割増賃金の支払い義務があるからだ。

 現在、副業を許可している企業は、これらをアナログ的に管理しているという大きな課題が見つかったと桑原氏はいう。そこでパーソルパーソルキャリア、まずはこの課題を解決することが必要であるという結論に至ったとのこと。実際に政府も、ガイドラインに労働時間管理ツールの必要性を明記しているそうだ。

 以上の課題を解決するために考案されたのが、トークンを使って複数の企業と就業者を一元化する新たなタイムカードの仕組みであると、今回のブロックチェーンでの実証目的を明確に報告した。

 この仕組みについて、実際にアプリを作成しシステムを構築するのが、今回の部会後半に発表を行う浜谷氏である。

実証アプリで使用するブロックチェーンは「mijin」

日本情報通信株式会社のソリューション革新部新事業開発担当企画グループグループ長・浜谷貞祐氏

 後半の発表は、日本情報通信株式会社のソリューション革新部新事業開発担当企画グループグループ長・浜谷貞祐氏だ。浜谷氏は、「実証アプリケーション"副業/複業時代のタイムカード"ご紹介」をテーマに発表を行う。

 日本情報通信は、NTTと日本IBMの出資により設立された会社で、システムインテグレーションおよびコンサルティングを行う会社であると、浜谷氏は解説する。浜谷氏は、その中でオープンイノベーションやハッカソン・アイデアソンを計画したり、幅広い業務に携わっているとのこと。

 今回の副業に関する労働時間管理ツールは、テックビューロホールディングス株式会社のプライベートブロックチェーン「mijin」を使用し、パーソルキャリアがコンセプト、要件策定、技術検証を担当し、日本情報通信がサーバー環境構築、アプリ開発、技術検証を行っているそうだ。

 実は最初に、日本情報通信はテックビューロホールディングスと組んで「mijin」の営業を行っていたという。まずは日本情報通信が得意とするEDI市場(電子データ交換)で、営業を開始したそうだ。EDIというのは、簡単に説明をすると、標準化されたプロトコルにもとづき電子化されたビジネス文書(請求書など)を専用回線やインターネットなど通信回線を通してやり取りするもので、そのインフラを提供するのが日本情報通信。EDI市場で日々受注取引データを落とすことなく扱ってきた自負から、この市場にブロックチェーンを導入すればいろいろなことが解決できると思い、40社ほど営業に回ったがEDI市場にはまだブロックチェーンは早いという印象で、さっぱり成果が現れなかったという。

 そこで浜谷氏は困り果てて上司に相談をしたところ、何もEDI市場にこだわる必要はないといわれ、マーケットを問わずこの話を持って行ったところ、そこにパーソルキャリアが手を挙げて、あっさりとプロジェクトが決まって、この話が進み始めたというエピソードが披露された。浜谷氏は、システム屋、エンジニア屋同士の会話に、パーソルキャリアのような企画を考えてくれる企業が参加してくれて本当に良かったと感想を述べた。

 副業に関する労働時間管理ツールを開発するために、まずは実証実験を行うことになったという。実証実験の狙いは、社会のインフラとなるようなサービス実現の可能性を検証すること。また、幅広いサービスへの応用が可能だといわれているブロックチェーン技術を理解することを目的としている。特に「耐改ざん性」「ゼロダウンタイム」「スマートコントラクト」について、理解と実証をしたいとのこと。

 トークンの設計段階においては、どこにトークンを当てはまればいいのかを散々議論したという。結論として、就業者の就労権にトークンを当てはめたという。アプリの実装では、就業者に1つだけトークンを発行し、まず出勤したらタイムカードを押すという行為(実際にはQRコードによる受け渡し)でトークンが企業へと移り、また退勤時にトークンが就業者へと戻る仕組みになっている。次に副業先の企業でも同様に、出勤をしたらタイムカードを押してトークンを企業へと移動させる。この際に、退勤処理などを忘れて別の企業に移動をすると、その先で勤務することができないという仕組みにもなっているため、企業はしっかりと労働時間を管理することができるようになるのだ。

労働時間管理の課題と解決策

 こうして各企業が同じシステムを使うことで、複数の企業にまたがっても就業者の勤怠管理をどの企業も同時に行えるという。また、ブロックチェーンを使用していることから勤怠管理の改ざんも不可能になるというメリットが生じる。マルチシグで管理可能なため、労使双方の合意による認証が可能である点も、タイムカードに向いているという。雇用者の面では、プライベートブロックチェーンを使っていることから、競合他社での副業を禁ずるなど、就業の契約面においても課題の解決が可能であるという。

 部会では実際にアプリを使用し、勤怠管理のデモンストレーションが行われた。浜谷氏が就業者となり、パーソルキャリアの桑原氏が勤務先の上司として出勤を許可するというタイムカードの流れを実演。操作方法は至ってシンプルで、就業者がアプリにログインをしてQRコードを表示させ、それを上司が自分のスマートフォンでQRコードを読み取るだけという、簡単な方法だった。以上で、ブロックチェーンへの出勤、退勤の記録が終了した。

出勤の際に見せるQRコード
出勤が許可された状況

高橋ピョン太