イベントレポート

スポーツチームとファンをつなぐ投げ銭コミュニティ「エンゲート」、NEMブロックチェーンの活用

10月20日から湘南ベルマーレや横浜ビー・コルセアーズも参加するコミュニティ開始へ

 エンゲート株式会社は10月9日、スポーツチームや選手を投げ銭で応援できるNEMのブロックチェーンを応用したギフティング・コミュニティ「エンゲート」ベータ版を10月20日より公開することを発表した。ファンは「エンゲート」で試合を観戦したり、購入したポイントを好きなチームや選手の好プレイなどに対してギフティング(投げ銭)で応援ができる。投げられたギフトは、チームの運営費や選手への支援金として支払われる。その履歴がブロックチェーンに記録される仕組みだ。今回、サービス開始日の発表とともに、「エンゲート」のコミュニティに参加するスポーツチーム第1弾として、サッカーの「湘南ベルマーレ」やバスケットボールの「横浜ビー・コルセアーズ」など6チームのスポーツチームが紹介された。

エンゲート・代表取締役社長の城戸幸一郎氏

 エンゲート・代表取締役社長の城戸幸一郎氏は、高校時代に親友がオリンピック選手に選ばれるも遠征費用がなく、みんなで友人のために一丸となりTシャツを作って売り歩き遠征費用を捻出したというエピソードを話す。たとえオリンピックというメジャーな舞台でも、競技種目によっては資金集めに苦労をするという経験から、いつかこれをテクノロジーで解決したいと思ったという、サービスを開発するきっかけになった話を披露した。その思いから、ファンとチームや選手を直接結ぶコミュニティを作り、みんなで応援をしながらチームや選手を支援することができる場として提供するのが、いよいよ始まる「エンゲート」というサービスなのだ。

スポーツジャーナリストの上野直彦氏

 スポーツジャーナリストでありエンゲートのアンバサダーを務める上野直彦氏は、自身の忘れられない90年代のバブル景気崩壊後のスポーツ界での経験を話す。当時、企業がスポンサードするスポーツチームが数多く存在していたが、バブル崩壊後に資金繰りが厳しくなると突然スポンサーを降りるなどチームは存続の危機を向かえ、中には廃部となるスポーツチームも少なくなく、選手が路頭に迷う姿をたくさん見てきたという。上野氏は、ブロックチェーンの到来でトークンエコノミーという考え方に出会い、スポーツ界とトークンエコノミーは親和性が高いという話を聞き、感覚的に「これだ」と思ったという。ブロックチェーン業界ではブロックチェーンの新しい応用例としてトークンエコノミーで何かを支援するような話で盛り上るものの、肝心のスポーツ業界のほうが当初は理解できていなかったと上野氏はいう。そこにスポーツを入り口としたトークンエコノミーとコミュニティである「エンゲート」が登場し、ファンがギフティングで直接チームを応援できる場が作られるというような具体的な世界が見えてきて、こうして参加するスポーツチームも決まったということで、いよいよ新しいチャレンジが始まるんだなと思うと感慨深いものがあると、上野氏は語った。

「エンゲート」は選手を支援するギフティング・コミュニティ

 発表会では、「エンゲート」についてさらに詳しい内容を城戸氏が紹介をする。

 「エンゲート」のスポーツチームや選手を支援するギフティング・コミュニティとは、テクノロジーでファンの声援を直接選手に届けることができる場であるという。またスポーツをする若者が、スポーツ選手になることをキャリアとして目指すことができる世界を実現することを目標としているとのこと。これまでにも、見て応援する「投げ銭」サービスは多々登場しているが、スポーツに特化したサービスは初めてだと城戸氏はいう。

エンゲートが実現したい世界

 「エンゲート」が構築する世界は、見て、応援して、ギフトを贈ることで、チームはそれをモチベーションに、より強く、より楽しいチームへと成長する循環を作り上げる。チームや選手は、ギフトに応じて「リワード」という形でファンに何か特別なお返しもする予定であるという。この循環が、今まで以上にファンとチームや選手を身近なものにし、より強い絆が生まれることが期待されている。

 さらに「エンゲート」が実現させたいのは、アマチュアの選手や新人の選手を応援したり、プロ選手の活躍を応援することで選手がそれをより一層の励みとして頑張れる仕組みを作るほか、引退後もさまざまな形で応援できるなど、ファンとチームや選手との関係がより長く続くようなコミュニティを目指すことだという。たとえば、現役時代に応援してくれたファンを、選手が引退後に焼き肉屋を開いたとして、これまでギフティングでたくさん支援してくれたファンを店に招待をするなど、その関係性がいつまでも続くコミュニティにしたいという。

サービスの開始は10月20日から

 そんなサービスが、いよいよ10月20日よりスタートする。この日、今回「エンゲート」に参加を表明したバスケットボールチームの横浜ビー・コルセアーズのホーム試合が開催されるが、そこで「エンゲート」のキャンペーンが決定している。キャンペーン当日、競技場来場者全員にURLが配布され、そのURL経由で「エンゲート」の新規ユーザーアカウントを作ると、もれなくキャンペーンポイントが100ポイント付与されるとのこと。横浜ビー・コルセアーズを応援するファンは、ギフティング体験が無料でできるというのだ。

 キャンペーンについては、20日と21日に行われる横浜ビー・コルセアーズのホーム試合を皮切りに、10月25日の徳島インディゴソックス(野球)の試合(予定)、10月28日のINAC神戸 レオネッサ(女子サッカー)の試合でのキャンペーンの実施が決定している。また、まだ調整中だが11月2日の湘南ベルマーレ(サッカー)ほか、琉球コラソン(ハンドボール)やフウガドールすみだ(フットサル)の試合でも同様のキャンペーンが実施される予定となっている。また、このほかに時期は未定だが、Jリーグサッカーチームの横浜F・マリノスの参加も予定しているという。

キャンペーンの概要

技術面での「エンゲート」

 発表会では、ブロックチェーンサービスである「エンゲート」の特徴と技術的な内容についての解説も行われた。

ブロックチェーン技術について

 「エンゲート」は、スポーツファンに向けたNEMをベースとするブロックチェーン技術を応用したサービスであるが、サービスは仮想通貨を発行するものではなく、またファンは仮想通貨を持っていなくても遊べるコミュニティであるのが大きな特徴だ。「エンゲート」は「エンゲートポイント」というトークンを発行する。ファンは、日本円にてエンゲートポイントを購入し、ギフティングによってチームや選手に対してエンゲートポイントを使ってギフトを贈る。「エンゲート」はギフティングされたポイントを支援金としてチームに支払う(ただし若干の手数料を徴収)。これらの流れをすべてブロックチェーン上に記録し、履歴を残していく。また、ギフティングに応じてお返しをする「リワード」についてもトークン化し、これらも同時に履歴が残る仕組みになっている。

 ちなみに「エンゲート」内で発行するトークンは、「エンゲート」のサービスでしか価値を持たないものであるため、流出や2次流通というリスクは少ないそうだ。また、ファンのギフティング履歴は、すべてブロックチェーンに記録されるため、これらはほぼ改ざんは不可能であると城戸氏はいう。「エンゲート」は将来的にはファンとチームや選手とのつながり(ビッグデータ)を活用し、多様なサービス展開もしていきたいと城戸氏は締めくくった。

参加チームの抱負

 最後に、今回、「エンゲート」に参加するチーム第1弾として、以下のチームがあいさつを行い、それぞれ「エンゲート」に対する思いや期待を、ひと言ずつ語った。

 サッカーの「湘南ベルマーレ」を運営する株式会社湘南ベルマーレ・代表取締役社長の水谷尚人氏は、「エンゲート」に参加する主たる目的は2つあり、1つは収入源として、もう1つはコミュニケーションや情報発信力に期待すると話す。湘南ベルマーレは、90年代はベルマーレ平塚といい、そして1999年に当時の親会社が撤退し、存続の危機を経験しているとのこと。そんなチームなので、しっかりと収入については将来を見据えていく必要があると考えているという。情報の発信としては、実は湘南ベルマーレはビーチバレーやトライアスロン、フットサルチームなど、サッカー以外にもいろいろやっているが、そういうことはなかなか世間には伝わらないので、こういった面の情報発信の場としても「エンゲート」のコミュニティには期待したいそうだ。

 バスケットボールチーム「横浜ビー・コルセアーズ」を運営する株式会社横浜ビー・コルセアーズ・代表取締役CEOの岡本尚博氏は、我々ビー・コルセアーズは特に親会社もなく、またバスケットボールはプロ化の歴史も浅く、Jリーグのような知名度もないので、今後より認知度を上げていかなければならず、よりマネタイズをしっかりしていかなければならないと思っているという。マスメディアでの選手自身の露出や情報もサッカーに比べて少なく、ファンとの距離を縮めるということも難しいと感じていたそうだ。そんな中で、我々は「エンゲート」という新しいコミュニティに期待をしていると語る。

 「徳島インディゴソックス」を運営する株式会社パブリック・ベースボールクラブ徳島・代表取締役社長の南啓介氏は、我々の球団はプロ野球独立リーグ・四国アイランドリーグplusの1チームであると自己紹介をする。なかなかプロ野球独立リーグというのは、みなさんの元に情報が届きにくいと話す。我々のリーグは選手の育成がメインのリーグでもあり、選手がどうやって強くなってきたのかというような成長なども、ファンの人にも一緒に見届けてもらい、応援してもらいたいという思いで「エンゲート」に参加させてもらうことにしたという。選手の中には有名ではない学校の出身だったり、一度は挫折を味わった選手など、いろんな人生を歩み野球をやっている選手が多く、そういう人柄なども見てもらえるようなコミュニティにしていきたいと抱負を語った。

 フットサルチーム「フウガドールすみだ」を運営する株式会社風雅プロモーション・代表取締役社長の安藤弘之氏は、我々のチームは日本フットサルリーグ(Fリーグ)に加盟するフットサルクラブだが、フットサルはリーグとしてもチームとしても未熟だと語る。これからどうやって盛り上げていくかという課題の中で、単にメデイアのみなさんに頼るのではなく、自分たちからどういうふうに発信していくのかということを考えていたときに、「エンゲート」のお話をいただき参加することにしたという。安藤氏は、「エンゲート」には他の競技のチームのみなさんが参加していることに魅力を感じているという。他の競技のみなさんと、同じ方向に向かって歩いて行けるということ、今後情報交換や意見交換をしあいながら、大きな目標に向かっていけることに期待しているとのこと。

 「琉球コラソン」ハンドボールチームを運営する株式会社琉球コラソン・代表取締役/CEOの水野裕矢氏は、自身も「琉球コラソン」で4年前まで選手を兼任しながら社長をしていたそうだ。僕らが所属する日本ハンドボールリーグは、実業団リーグであるという。男子に関しては8チームがリーグに参加しているが、自分たちだけ1チームがクラブチームだという。ということで他のチームは意外と保守的で、僕らはそこに風穴を開けたいと熱い思いを語る。「エンゲート」に関しては、「楽しそうだな」「面白そうだな」と思ったという。ハンドボールは、会場で見ると楽しいが、そのあたりがなかなか情報だけでは伝わりにくいと氏はいう。「エンゲート」ではそういった面が伝えられると楽しいのではないかという。

 以上をもって「エンゲート」の発表会は終了した。最後に各チーム対して具体的な「リワード」の内容についての質問が挙ったが、例としてはギフティングしてくれたトップファンの人と選手とで食事会を開いたり、またギフティングをすることで見ることができる選手からの動画メッセージなどが挙げられたが、どのチームも「リワード」については今後選手と相談の上、より楽しいことを実現できるように考えていきたいということだった。

高橋ピョン太