イベントレポート

金融庁「匿名性が高い仮想通貨の取扱い」「倒産リスク」を補足説明

第7回「仮想通貨交換業等に関する研究会」では前回の議題についての意見交換も

 本稿では、10月19日に開催された金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第7回のイベントレポート第3弾として、前回の討議「仮想通貨交換業者が行う業務とリスクについて」にて意見交換がなされた「匿名性が高いなど問題がある仮想通貨の取扱いについて」「受託仮想通貨の保全等」に関する補足説明を報告する。

 なお、金融庁「仮想通貨交換業等に関する研究会」第7回イベントレポート第1弾「金融庁、国内の仮想通貨取引約8割がデリバティブ取引、その規制の要否について議論」、第2弾「金融庁、仮想通貨交換業みなし業者について本登録の見通しがないまま長期化を指摘」でも、それぞれ討議内容を報告しているので、そちらも併せて読んでいただきたい。

 第7回「仮想通貨交換業等に関する研究会」では、最後に前回の討議「仮想通貨交換業者が行う業務とリスクについて」にて意見交換がなされた「匿名性が高いなど問題がある仮想通貨の取扱いについて」と「受託仮想通貨の保全等」に関して、金融庁が補足説明を行った。また、併せて関連資料を配付した。

「仮想通貨交換業者が行う業務とリスクについて」金融庁の資料より引用、以下同

「匿名性が高いなど問題がある仮想通貨の取扱いについて」の補足

 金融庁は、前回の討議で複数の意見が挙った「匿名性が高いなど問題がある仮想通貨の取扱い」および「受託仮想通貨の保全等」について改めて意見をまとめ、その留意点について報告を行った。

 まず、「匿名性が高いなど問題がある仮想通貨の取扱い」について前回の議題をおさらいすると、匿名性の高い仮想通貨の中には、移転記録の維持や更新に脆弱性を有する仮想通貨もあるなど、利用者や仮想通貨交換業者を危険にさらす可能性のあるリスクの高いものも含まれているのが現状という分析の中で、利用者保護および仮想通貨交換業の適性かつ確実な遂行を確保する観点から、仮想通貨交換業者に対して支障をきたす恐れがある仮想通貨の取り扱いを禁止することも考えられるという留意点を挙げていた。

 これらの留意点に対して、匿名性が高い仮想通貨についてはおおむね禁止という意見が多かったが、匿名性は顧客のプライバシー保護にも資するものであるという声も挙った。匿名性が高いというだけで交換業者による取り扱いを禁止した場合、海外業者での取引に流れるなどの恐れもある。規制が課される交換業者において取引されたほうが、マネーロンダリング対策の観点からも良い場合もあるのではないかという意見だ。そういった仮想通貨については、厳格な本人確認などを課した上で交換業者による取り扱いを認めるべきではないかとのことだった。

 今回それに対して金融庁は、仮想通貨はインターネットを介して遠隔の個人間においても容易に移転が可能であることから、匿名性が高い仮想通貨が流通すると、移転経路の追跡が困難となり、マネロン・テロ資金供与対策上の問題のほか、ハッキングにより流出した仮想通貨の追跡が極めて困難となるなどの問題があるという留意点を改めて報告している。

 また将来、仮想通貨が日銀券(日本円札)の代替として決済に使われる状況になった場合、匿名性のない仮想通貨が適当なのかという意見に対して金融庁は、仮想通貨が日銀券の代替として広く使用されるような状況になった場合には、中央銀行による通貨管理のあり方、マネロン・テロ資金供与対策、個人のプライバシー保護のあり方など、法律体系全体の見直し自体も必要になるのではないかという。まずは、足許の状況を踏まえた対応を検討していくことが必要という見解を示した。

「受託仮想通貨の保全等」に関する補足

 「受託仮想通貨の保全等」については、「顧客財産の管理・保全の強化(交換業者の倒産リスク)」に関する討議で挙げられた課題の1つだ。我が国の金融法制上、顧客から預かった財産の分別管理の方法については、自己財産と顧客財産を明確に区分し、「信託を用いて保全するもの」「自己又は委託先において顧客毎の財産を直ちに判別できる状態で管理するもの」に大別されるという中で、資金決済法では、信託法を含め、仮想通貨の私法上の位置付けが明確でないことなど仮想通貨の分別管理方法として、「自己又は委託先において顧客毎の財産を直ちに判別できる状態で管理するもの」を規定したという。

 しかし、一般に倒産隔離機能を有する信託を仮想通貨についても義務付けてはどうかとの指摘があるが、それらについて検討した場合、仮想通貨の私法上の位置付けが明確ではない中、仮想通貨について、倒産隔離等の観点から信託が有効なものとして機能し得るのかという課題が挙った。有効なものとして機能するか定かでない場合、信託義務を課すことで問題が生じる恐れはないかという懸念もあるという。また、仮に有効に機能し得るとして、各交換業者が取り扱う全量・全種類の受託仮想通貨について信託義務を課すことが円滑な取引の実行を阻害しないかという問題も挙っていた。

 さらには、交換業者が管理する顧客財産が増加する中、これまで仮想通貨の信託の引き受け実績がない信託銀行・信託会社において、財務やセキュリティリスク等に係る管理態勢の整備状況に照らし、各交換業者が取り扱う全量・全種類の受託仮想通貨の信託を引き受けることが現実的に可能か。制度として機能しない恐れはないかといったことも留意点として挙っていた。

 「受託仮想通貨の保全等」については、オペレーションを考えると、信託については信託銀行等で受け入れ可能な仮想通貨の種類が限定されるほか、銀行等との保全契約については流出事案が相次いでいる中でコストが高額となるなどの懸念があるという。複数の保全方法を組み合わせた対応が現実的ではないかという意見もある。

 仮想通貨については現時点で認識し得ないリスクもあると考えられるが、すべてに対応しようとすると過剰な規制となる恐れがあるのではないかという意見も見受けられた。全体として必要十分な規制であればよく、上手な規制の組み合わせを検討していく必要があるのではないかという意見も挙っていた。

 こういった意見を鑑みて留意点として挙げられたのが、保全等の方法は、現実的に実施可能なものである必要があるかということ。また、優先弁済権を付与する場合、一般債権者とのバランスを踏まえると、優先弁済権が及ぶ範囲を、交換業者が受託仮想通貨を分別管理するために設けたウォレット内の仮想通貨など一定の範囲に限定することも考えられるのではないかなど、議論する余地があることを告げられた。

 なお、今回の補足説明は資料として配付され、本題の議論が終了次第、時間があれば補足説明および意見交換を行うとしたものだ。今回は「匿名性が高いなど問題がある仮想通貨の取扱いについて」「受託仮想通貨の保全等」について、それぞれの留意点が報告された。また、資料に掲載されているが今回触れられなかった「仮想通貨交換業の内容について」「仮想通貨交換業と他業との規制の比較」についても参考になるので、本稿の最後で挙げておく。

「仮想通貨交換業の内容について」
「仮想通貨交換業と他業との規制の比較」

高橋ピョン太