イベントレポート
金融庁が仮想通貨交換業に係る規制に関し議論、Zaifの仮想通貨外部流出事案も報告
顕著化する喫緊の課題について「仮想通貨交換業等に関する研究会」第6回にて討議
2018年10月4日 14:48
金融庁は10月3日、霞ヶ関・中央合同庁舎第7号館にて「仮想通貨交換業等に関する研究会」の第6回会議を開催した。金融庁が事務局を務める本会議は、学識経験者と金融実務家などをメンバーに、仮想通貨交換業者などの業界団体、関係省庁をオブザーバーとし、仮想通貨交換業などをめぐる諸問題について制度的な対応を検討するため、定期的に開かれている。
今回の議題は、仮想通貨を巡って足元で顕著化している喫緊の課題である「交換業に係る規制」について、支払・決済手段、投機対象としての側面から議論を行うが、議論に先立ち「仮想通貨外部流出事案に対する対応」として、9月14日に発生したテックビューロ株式会社が運営する仮想通貨交換所「Zaif」における仮想通貨外部流出事案について、事案の概要および対する金融庁の対応説明が行われた。
仮想通貨外部流出事案に対する対応について
金融庁は、2014年設立のテックビューロ社は2017年9月仮想通貨交換業者登録の仮想通貨交換所「Zaif」を営む会社であると、同社を説明。2018年2月以降、2度にわたり立ち入り検査を実施し、3月8日に「システムリスク、顧客対応に係る態勢整備」について、6月22日に「ガバナンス、法令遵守、利用者保護等に係る態勢整備」についてそれぞれ業務改善命令を発出しているとのこと。
テックビューロ社(Zaif)は9月14日、外部からの不正アクセスによりインターネットに接続した状態で管理保管していた仮想通貨70億円相当(うち顧客分は45億円相当)が流出した。それに対して、同社は以下の対応を行ったことを報告する。
- 9月17日:仮想通貨の不正流出を把握、不正流出した3種類の仮想通貨の入出金を停止
- 9月18日:不正流出した仮想通貨以外の8種類の仮想通貨の入出金を停止
- 9月20日:不正流出の事実および当面の顧客対応等(外部からの50億円の金融支援を9月末までに受けることを検討する内容の基本契約の締結を含む)について公表
- 9月28日:新規会員の登録受付を一時中止
これらの事案を受けて金融庁は、テックビューロ社に対する当面の対応として、9月18日の金融庁に対する同社の報告後、同日に報告徴求命令を発出した。9月20日に立ち入り調査に着手し現在も実施中とのこと。9月25日に業務改善命令を発出し、9月27日に同社からの業務改善計画書を受理したという。業務改善命令は、以下の通り。
(1)事実関係および原因の究明(責任の所在の明確化を含む)、再発防止策の策定・実行
(2)顧客被害の拡大防止
(3)顧客被害に対する対応(具体的な実施方法等の策定)
(4)2度の業務改善命令に係る具体的かつ実効的な改善計画の見直しおよび実行
金融庁は、立ち入り調査の結果や報告内容等をふまえ、必要に応じてさらなる行政対応等を検討するとしている。
今回の議題について
今回の議題「交換業に係る規制」に関して、議論する前に仮想通貨を巡って足元で顕著化している喫緊の課題について解説が行われた。併せて、本研究会における議論の進め方について触れられた。
金融庁はまず、仮想通貨に関するこれまでの状況を報告する。
仮想通貨に関しては、マネーロンダリング・テロ資金供給対策に関する国際的な要請や、当時世界最大規模の仮想通貨交換業者であるMt.GOX社が国内にて破綻したことを受け、2017年4月より、仮想通貨交換業者に対して本人確認義務の導入や仮想通貨のリスクなどの説明義務等による一定の利用者保護規定の整備を行ってきた。
その後、仮想通貨交換業者において顧客資産の流出事案が発生したほか、立ち入り検査により仮想通貨交換業者の内部管理態勢等の不備が把握されたという。また、仮想通貨の価格が乱高下するなど投機の対象にもなっているとの指摘がある。仮想通貨を用いた金融派生商品取引や資金調達(ICO)など新たな取引が登場しているというのが、仮想通貨の経緯であるという。
仮想通貨の利用方法の多様化
これらの新たな取引の登場で、仮想通貨は支払・決済手段のみにとどまらず、投資・資金調達手段等、さまざまな性格を有するものになっていると考えられるという。こうした複合的な性格を有する仮想通貨に対して金融規制の要否を検討するにあたり、仮想通貨を用いた個々の行為が金融(金融の融通)の機能を有するかどうか、金融庁はそこが議論の重要ポイントではないかという。また、金融の機能を有する場合、仮想通貨の将来性を含む社会的意義や投機を助長するような害悪の有無をふまえて、金融規制の導入が期待されているかどうかを議論する余地があるのではないかという。
さらに金融規制を導入する場合には、利用者の保護の必要性の程度、金融システム全体に与える影響などをふまえた仮想通貨に係る業務の適性、確実な遂行を確保する必要性の程度などを考慮すべきではないかとのこと。
こうした中で、仮想通貨を取り巻く課題として挙っているのが以下の項目であり、今後、規制のあり方を検討していく必要がある項目としている。
(ア)交換業に係る規制
支払・決済手段、投機対象としての側面
(イ)仮想通貨を原資産・参照指標とするデリバティブ取引に係る規制
投資・リスクヘッジ手段、投機対象としての側面
(ウ)ICOに係る規制
投資・資金調達手段、投機対象としての側面
今回の研究会では、(ア)の「交換業に係る規制」について議論を行うこととし、その他の項目については後日討議を行う予定とのこと。
交換業に係る規制のあり方
「交換業に係る規制」を議論するにあたり、現状の規制についても触れられた。資金決済法上、仮想通貨交換業に係る利用者保護を目的として、内部管理体制の整備や、法定通貨ではないことや価格の変動による損失リスクなど利用者への情報提供を義務付けている。また、仮想通貨交換業者は最低資本金を1000万円以上とし、純資産が負でないことがルール付けられているほか、顧客財産と自己財産の分別管理が義務付けられ、分別管理監査、財務諸表監査を必須としている。
こうした仮想通貨交換業者による業務の実態やこれまで本研究会で議論してきたことをふまえ、改めて検討する必要があるものとして、「問題がある仮想通貨の取り扱いについて」や、「顧客財産管理・保全の強化」「投機的取引に伴うリスクの抑制」「取引の透明性の確保」「利益相反の防止」について討議の課題として挙げている。
現在、さまざまな仮想通貨が発行されている中で、たとえば匿名性の高い仮想通貨で移転記録が公開されていないものや移転記録の維持や更新に脆弱性を有するものは、問題がある仮想通貨としている。利用者保護および仮想通貨交換業の適性かつ確実な遂行を確保する観点から、これらに支障をきたす恐れがある仮想通貨の取り扱いを禁止することも考えられるが、どうかという懸念点が示された。しかし、仮想通貨の安全性は新たにそのプロトコルを決定する際に変化しうるとし、技術革新や想定されていなかった新たな問題事例が生じうる可能性もあり、これらをふまえると、問題がある仮想通貨をあらかじめ法令等で明確にするのは困難な面もあることを指摘する。
顧客財産管理・保全の強化に関しては、「仮想通貨の流出リスク」「仮想通貨交換業者の倒産リスク」を課題に挙げている。
仮想通貨交換業者はセキュリティ対策の観点から、受託仮想通貨の大半をコールドウォレット(秘密鍵をオフラインで管理するウォレット)で管理をしている。しかし、受託仮想通貨のうち日々流通に要する一定量は、顧客が取引する際の仮想通貨の移転指図に迅速に対応するためホットウォレット(秘密鍵をオンラインで管理するウォレット)にて管理している場合がある。ホットウォレットは顧客の指図に迅速に対応できる反面、コールドウォレットよりもセキュリティリスクが高いことも指摘されている。
これらのリスクに関して仮想通貨交換業者に対しては、法令上セイバーセキュリティ管理体制の整備が義務付けられているが、セキュリティ対策の観点から有効な方策はあり得るのかにも議論の余地があるとしている。
その一方で仮に流出事案が生じた場合は、その対応があらかじめ明確であるかどうかや、賠償原資が確保されていることも重要と考えられる。仮想通貨交換業者に対して、受託仮想通貨を流出させた場合の賠償方針の策定・公表や、ホットウォレットで受託仮想通貨を管理し流出させた場合でも賠償を行うことができる純資産額や安全資産の保持を求められることも考えられるが、これらに対する有効な方策についても議論をしていきたいとしている。
仮想通貨交換業者の倒産リスクに関しては、まずは受託仮想通貨について言及をする。我が国の金融法制上、顧客から預かった財産の分別管理について、自己の財産と顧客財産を明確に区分することが義務付けられている。分別管理方法としては、信託を用いて保全するもの、もしくは自己または委託先において顧客ごとの財産をただちに判別できる状態で管理するものに大別されるとのこと。
資金決済法では仮想通貨の私法上の位置付けは明確ではないが、過去の破綻事例のような顧客財産の流用を防止する観点から、仮想通貨の分別管理方法としては、自己または委託先において顧客ごとの財産をただちに判別できる状態で管理するものに規定している。また、それを補う観点から仮想通貨交換業者に対し、公認会計士または監査法人による分別管理監査および財務諸表監査を課している。ただし、仮想通貨の分別管理方法として、信託を用いて保全するものについてはそれを否定しているものではなく、仮想通貨が私法上の位置付けが明確となり、信託を用いることが可能になった場合は、両者で管理することは可能であるとのこと。
なお、金融法制において自己または委託先において顧客ごとの財産をただちに判別できる状態で管理する方法を採用している例として、金融商品取引業者による受託有価証券の管理を挙げ、当該業者が破綻した場合でも顧客は有価証券を取り戻すことができるとしている。しかし、仮想通貨については私法上の位置付けは明確ではなく、たとえこの方法によって分別管理が行われている場合でも、倒産隔離が正しく実行されるかの保障はないという。
さらに顧客の受託金銭についても触れられている。仮想通貨交換業者における受託金銭については、資金決済法上、仮想通貨に信託義務を課さない中で、金銭にのみ信託を行うとしても、どこまで利用者保護の実効性があるか疑問であるという指摘もあるとのこと。これらの指摘もふまえて、金銭の分別管理方法としては、自己資金とは別の預金口座または金銭信託で管理することが規定されている。その中で、仮想通貨交換業者が管理をする受託金銭の額が高額になってきているほか、仮想通貨交換業者による受託金銭の流用事案も発生しているが、受託金銭の信託を含めてどのような対策が有効であるかを議論していきたいとしている。
投機的取引に伴うリスクの抑制について
投機的取引に伴うリスクの抑制について、仮想通貨交換業者による積極的な広告等により、仮想通貨の値上がり益を期待する投機的取引が助長されているという見方もあるという。そうした取引を行う顧客の中には、仮想通貨のリスクについての認識が不十分である者も多く含まれているという指摘もあるとのこと。
顧客によるリスクの誤認や投機的取引の助長を抑止する観点から、それらにつながるような誇大広告、虚偽告知、断片的判断の情報提供、顧客の知識や経験に照らして不適当と認められるような勧誘などを行わないこと求めることも可能だが、これらを含め、どのような方策が有効であるかについても議論を行う必要があるとしている。
取引の透明性確保や利益相反の防止対策
取引の透明性確保や利益相反の防止については、さらに難しい課題が含まれていることも懸念点として挙げられている。
たとえば株式の取引については価格の透明性を高めるためのさまざまな枠組みが構築されてきたが、仮想通貨にはそういった枠組みがなく、一般的に仮想通貨は、他の金融商品とは異なり、本源的な価値を算定しがたい面があるという。
こうした中、顧客は妥当ではない価格で仮想通貨の取引を行うことになる恐れもあるという。株式等の取引との相違や仮想通貨の特性・取引実態等に留意しつつ、取引価格の透明性を高めていくことや、仮想通貨交換業者による利益相反行為を防止していくことが重要であると考えられるとしている。
仮想通貨交換業者が顧客と相対取引をする場合、多くの仮想通貨交換業者において取引手数料は無料と表示や広告する一方で、自己の利益を上乗せした売買価格を顧客に提示しているケースがあるという。その価格については、仮想通貨交換業者の利益の分、「顧客間の取引のマッチングの場」における約定価格ともかい離がある場合が多く、顧客が妥当な価格かどうか判断しにくい状況ではないかという指摘も見受けられるという。
こうした問題に対しては、仮想通貨交換業者が顧客と相対取引をする際には、自己が提示する売値と買値、その差の表示をするか、自己が別途提供をする「顧客間の取引のマッチングの場」における約定価格や気配値と自己の相対取引価格との差を表示する、また、国内の各仮想通貨交換業者や海外の主要な業者が提供する「顧客間の取引のマッチングの場」における約定価格や気配値をもとに、認定協会などが算出する基準価格および自己の相対取引価格との差の表示などのいずれか、もしくは複数を顧客に提供・開示することも必要ではないかと提案をしている。
また、仮想通貨交換業者が顧客との相対取引、顧客間の取引のマッチングの場、他の仮想通貨交換業者への取り次ぎなど、顧客に複数の取引チャンネルを提供する場合には、利益相反を防止するなど、顧客にとって最良の条件で注文を執行するための方針を策定・公表し、それらを確実に実施するための体制を整備することなども提示している。
なお、仮想通貨の価格を不当に変動させるような不正行為に対する規制の要否については、後日の研究会にての討議を予定しているとのこと。
その他
仮想通貨の分野では、技術革新によりサービス内容が劇的かつ急速に変化する場合があることから、法による規制だけではなく、認定協会による自主規制と連携を行っていくことが重要であるという。仮想通貨交換業者に対しては認定協会への加入を促すとともに、認定協会未加入の交換業者に対しても自主規制に準じた体制整備を求める観点から、どのような方策が考えられるかなどの議論の必要性を挙げている。たとえば、認定協会に加入しない者であって、認定協会の自主規制に準ずる内容の社内規則を作成していない者や、当該社内規則を順守するための体制を整備していない者に対して、登録拒否や取消要件を設けることなども考えられるがどうかといった懸念点も挙げられている。
第6回「仮想通貨交換業等に関する研究会」では、以上の課題について活発な討議が行われた。なお、本研究会における参加メンバーによる討議内容については、別稿にて報告する予定であるため、併せて一読いただきたい。