イベントレポート

金融庁、国内の仮想通貨取引約8割がデリバティブ取引、その規制の要否について議論

昨年度デリバティブ取引量56兆円超と「仮想通貨交換業等に関する研究会」第7回にて報告

 金融庁は10月19日、霞ヶ関・中央合同庁舎第7号館にて「仮想通貨交換業等に関する研究会」の第7回会議を開催した。金融庁が事務局を務める本会議は、学識経験者と金融実務家などをメンバーに、仮想通貨交換業者などの業界団体、関係省庁をオブザーバーとし、仮想通貨交換業などをめぐる諸問題について制度的な対応を検討するため、定期的に開かれている。

 今回の議題は、仮想通貨を原資産とする新たに登場し始めている取引について、仮想通貨「デリバティブ取引」および「信用取引」に係る規制の要否など、それぞれの取引をテーマに議論を行った。また、前回の討議「仮想通貨交換業者が行う業務とリスクについて」にて意見交換がなされた「匿名性が高いなど問題がある仮想通貨の取扱いについて」と「受託仮想通貨の保全等」に関する補足説明が行われた。本稿では、「仮想通貨デリバティブ取引に係る規制の要否・内容」について報告する。なお、その他の議題、補足説明については、別稿にて報告する予定であるため、併せて一読いただきたい。

 現在、半数近くの仮想通貨交換業者において、仮想通貨デリバティブ取引(金融派生商品)の一形態である仮想通貨の証拠金取引が提供されているという。証拠金取引とは、顧客が仮想通貨交換業者に証拠金として金銭や仮想通貨を預託し、現物取引のように売買の都度、代金の受け渡しをするのではなく、FX(外国為替証拠金取引)のように、業者指定の倍率を上限にレバレッジをかけて仮想通貨の取引を行い、決済時に売買により生じた損益(差額)のみを受け渡す「差金決済」取引のことである。本会議では、仮想通貨デリバティブ取引以外にも今後も新たなデリバティブ取引に似た商品が登場することを想定し議論を行っている。

 一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)の資料によると、平成29年度においては、仮想通貨デリバティブ取引は、仮想通貨交換業者を通じた国内の仮想通貨取引全体の約8割におよぶという。ちなみに、平成29年度のデリバティブ取引の取引量は56兆4325億円で、それに対して現物取引の取引量は12兆7140億円となっている。

一般社団法人日本仮想通貨交換業協会の資料より引用

 こういった状況を受けて、金融庁への仮想通貨を用いた証拠金取引に関する相談等の件数も、前年同期と比べ増加傾向にあり、また、平成30年度の相談件数376件は、同時期のFXに関する相談件数75件と比べてみても、はるかに多いことが報告されている。

 おもな相談内容は、「ネット上で注文ボタンを押すタイミングから実際に注文が完了する時点まで乖離(かいり)がある」や「ロスカットが機能しない」などシステム上の不備に関するものから、「途中でサービス内容(レバレッジ倍率等)が変更される」「広告内容や取引規約と実際の対応に乖離がある」といったサービス内容の不明確さ等に関するものが多いという。

 一方で、国内では金融商品取引法が定めるデリバティブ取引の原資産の中に仮想通貨が含まれていないことなどから、仮想通貨デリバティブ取引は金融規制の対象とはされていないことを挙げている。

 しかしながら、金融商品取引法においても、原資産の内容を問わずデリバティブ取引を金融規制の対象とし得る枠組みが整備されつつあるという。これらを踏まえると、仮想通貨デリバティブ取引も金融機能を有すると捉えることができるのではないかという考えもあるがいかがかという課題も挙げられた。

 現行の金融商品取引法では、有価証券、預金債券、通貨等を金融商品とし、これらの資産や、資産の価格や利率、気象観測数値等の指標によるデリバティブ取引を業規制の対象としているほか、当該資産に係るデリバティブ取引について投資者の保護が必要と認められるものを法令で定め、業規制の対象とすることも可能であるという。ちなみに米国やEUでは、原資産の内容を問わず、デリバティブ取引は金融規制の対象となっている。

 仮に仮想通貨デリバティブ取引に規制を導入するとした場合、規制によって仮想通貨デリバティブ取引を禁止するのではなく、どのような規制が適切かを考える必要もあるという。

 規制内容については、金融商品取引法における店頭デリバティブ取引との類似性を踏まえた対応として、通貨関連店頭デリバティブ取引を業として行う第一種金融商品取引業者には、最低資本金・純財産規制、業務管理体制の整備義務、広告・勧誘規制、証拠金倍率の上限やロスカットに関する規制等が義務付けられているが、仮想通貨デリバティブ取引を業として行う者にも少なくとも同様の対応を求めることが必要と考えられるのではないかとしている。ただし、証拠金倍率の上限については、仮想通貨は価格変動が大きいことなどを踏まえ、価格変動に応じた適切な水準が設定されるべきという意見もある。

 国内では、仮想通貨デリバティブ取引の証拠金倍率をFX取引と同じ最大25倍に設定している業者もあるが、JVCEAの自主規制規則案では上限を4倍と規定している(1年間は会員自身が決定した水準でも可という時限措置を実施中)。参考までにEUの規制では、仮想通貨デリバティブ取引の証拠金倍率の上限は2倍としている。

 また、仮想通貨の特性を踏まえた対応についても規制内容を検討していく。仮想通貨デリバティブ取引は、仮想通貨を原資産とすることにより、顧客の認識不足、問題がある仮想通貨の取扱い等、前回の研究会で議論した仮想通貨交換業における取引と共通する問題が存在し得ると考えられるとしている。

 仮想通貨デリバティブ取引は過当な投機を招くなど、害悪が資力や仮想通貨に関する知識が十分でない個人顧客におよぶことを防止する観点からもさまざまな方策を講じる必要性もあるのではないかという課題もある。たとえば、取引開始基準の設定(最低証拠金等)や、顧客に対する注意喚起の徹底を行うほか、資力が不十分であるなど取引を行わせることが不適切である者に対する取引の制限措置などを行うことも考えられるという。

 こういった仮想通貨デリバティブ取引に対する問題点に対して、今回の議論ではおおむね何らかの規制は必要であるという意見が多く、特にFXに対する規制になぞり仮想通貨デリバティブ取引もそれに準拠してはという意見も多数聞かれた。しかし、FXの対象はあくまでもフィアットカレンシー(法定通貨)であり、仮想通貨はなかなか評価が定まらないFXとは違った性質を持つことから、FXと同じ規制でいいのだろうかという意見もあった。

 また、投資者の保護については重要であるという意見が多数でありながらも、仮想通貨に関して投機的な意味合いが多いという観点からは、必ずしも保護を中心に考えることもないのではという意見も聞くことができた。しかしながら仮想通貨のもう1つの目的である決済手段としての役割に対しては、この限りではないということも付け加えられたのが印象的であった。

高橋ピョン太