イベントレポート

「ブロックチェーンは幻滅期を超えて社会を支えるインフラになる」BCCC平野氏が予測

「日経 xTECH EXPO 2018」で語られた、ブロックチェーンの今と未来

 東京ビッグサイトにて10月17日から19日までの3日間、これからのビジネスに応用できる新しい技術が集まる展示会「日経 xTECH EXPO 2018」が開催された。その初日である17日に、一般社団法人ブロックチェーン推進協会(以下、BCCC)の代表理事である平野洋一郎氏が会場内セミナールームにて講演を行った。

BCCC代表理事の平野洋一郎氏

 「ブロックチェーンがフィンテックを超えて社会全体にインパクトを与えるのは何故か?」と題し、ブロックチェーンの仮想通貨以外の利用例や、ブロックチェーンがこれからの社会をどう変えていくのかという予測が語られた。満席となった本講演の内容をレポートとしてお届けする。

仮想通貨はブロックチェーンの一部に過ぎない

 3部構成の講演で、第1部ではブロックチェーンの仕組みやBCCCの活動についての話が語られた。まずブロックチェーンという技術が世に知れ渡るきっかけとなった出来事として、複数の仮想通貨交換所で起こった盗難事件が挙げられる。しかしこれらの出来事は交換所の固有の問題であり、ブロックチェーンそのものの問題ではないと平野氏は解説した。

 そもそもブロックチェーンにとって、仮想通貨という利用方法は、ほんの一部に過ぎない。産経省が2016年4月に発表した予測資料では、ブロックチェーンの市場規模は国内だけで67兆円に育つとされているが、そのうち仮想通貨関連の市場規模の成長予測はわずか1兆円である。

仮想通貨よりもサプライチェーンの32兆円、取引管理の21兆円、シェアリングエコノミーの13兆円が、市場規模の成長予測を占める割合が高い

 その上でBCCCは、ブロックチェーンの利用・活用を仮想通貨関連の市場以外にも推進していることを平野氏は解説する。協会への加入団体は、8月23日時点で230社を突破している。

 加入団体は、協会発足当初はほぼテクノロジー系の企業が占めていたが、現在では金融機関の参加を始め、それ以外にも電力会社や、電通、リクルート、エイベックス、帝国データバンクなど、50社以上の上場企業が入会しているそうだ。各社がブロックチェーンの将来性を見い出し、研究・実証実験を進めていると語った。

BCCCは主に5つのブロックチェーン推進活動を行っている
産官学連携し、学校や政府機関でも活動を行う
BCCCにはそれぞれテーマごとの部会を持ち、各分野で活動を行っている

 ブロックチェーンの利用・活用が多岐にわたる理由について、平野氏はいくつか特長・特徴を挙げた。

 そのうち「データの改ざんが不可能」であるという特長については、図を使って従来型データベースと比較しながら解説した。例えばデータに1か所改ざんが起こると、従来型のシステムでは他のデータへの影響がないので気付くことができない。しかし、ブロックチェーンではすべてのデータが連鎖しており、改ざんが即座に発覚してしまうため、事実上システム管理者を含めて書き換えができない。これにより、データの真正性が証明されるのである。

 また、ブロックチェーンには「ノード」(コンピューター)という考え方があり、たくさんのノードが処理を分散することでシステムを形作っている。それぞれのノードが処理を手分けしているのではなく、同じ処理を行うことで、1つ、2つ故障しても他に影響が出ないという仕組みだ。よってノードに使用するコンピューターは、安価なものでも問題がなく、導入コストが抑えられる。

 現在ブロックチェーンには、「パブリックブロックチェーン」と「プライベートブロックチェーン」があり、このうち仮想通貨として使われるものは「パブリック」であり、「プライベート」は主に銀行間取引などで使われている。また、この2つのブロックチェーンの双方の利点を兼ね揃えたプロジェクトも進んでおり、来年ごろには実用化されるものも出てくる可能性があることを平野氏は伝えた。

 第1部の最後には、「もっと重要な話」として「ブロックチェーンは基盤技術である」ことが紹介された。例えばインターネットも、それを動かすためのTCP/IPの仕組みを知らずに誰でも自由に利用できる。それと同様に、これからはブロックチェーンも、中身を知らなくても誰でも扱える技術になっていくだろうと平野氏は予測した。

金融関連だけじゃない。ブロックチェーンが活かされている分野

 第2部では、ブロックチェーンが活かされている分野の話題が続々登場した。

 銀行シンジケートローンや証券取引など金融関係はもちろん、トレーサビリティや電気自動車の充電制御など、その利用の幅は多岐にわたる。

 それらの分野に活きる理由も、ブロックチェーンが「データが改ざんできない」という特徴があるからだと平野氏は語る。

 例えば野菜のトレーサビリティも、従来のシステムでは、管理者が輸送中の「外国産」野菜のデータを途中で「国産」と改ざんすることが不可能ではない。これにブロックチェーンを使えば、管理者であっても書き換えられないので、データへの信頼性が保てる。なお、このシステムはBCCCに加入する株式会社電通国際情報サービスが宮崎県・綾町と共同プロジェクトを行っている。すでに実証実験とのことだ。

ブロックチェーンは「インターネット以来の発明」

 第3部では、ブロックチェーンが各種産業だけでなく、すべての人に与える恩恵について語られた。平野氏は特に、「ブロックチェーンはインターネット以来の発明であると言われている」という話を紹介した。

 この話のポイントは2つ。1点目は、インターネットが世界中に情報を流通させたことに加え、ブロックチェーンでは仮想通貨など各データをコピー・改ざん不可能な形で、価値を世界中に流通させることができた点である。

 2点目は、組織形態に変革をもたらすというもの。これまでの中央集権の組織に変わり、ブロックチェーンの時代には組織も必要に応じて疎結合していくと平野氏は語った。すでにクラウドソーシングなどで実用化されているが、従来型のシステムでは契約書の締結や月締めの支払い、信頼性の面においては中央集権でなくてはカバーしきれない点もある。しかし、各種手続きにもブロックチェーンを利用すれば、改ざん不能な契約書、支払いにはトークントランザクションによる二重送信の防止などが実現し、本当の意味での自律分散型の社会が実現すると平野氏は述べた。

 もちろん社会の変革は、人々に受け入れられるまでに時間を要するもので、これらは5年、10年かかる話だと平野氏は語る。調査会社ガートナージャパンが独自に発表するテクノロジーの指針となるハイプ・サイクルにおいて、ブロックチェーンは普及曲線の幻滅期に差し掛かっていると発表したことについても、平野氏は言及した。ブロックチェーンは幻滅期というメディアや世間の関心が薄れつつある状況に突入するが、これを超えて、自立・分散・協調などこれからの社会を支えるインフラになっていくだろうと予測し、講演を締めくくった。

平原 学