イベントレポート

Lightning NetworkやCoinJoinなどがBitcoinのスケーラビリティ・プライバシー問題を解決

BlockChainJam、日向理彦氏トークセッション「Bitcoinが直面している課題の最前線」

 これからの未来を創る「ブロックチェーン」の可能性を探求するカンファレンスイベント「BlockChainJam 2018」が10月21日、東京・六本木アカデミーヒルズのタワーホールにて開催された。本稿ではイベントで行われたトークセッションの中から、フレセッツ株式会社・CEOの日向理彦氏による「Bitcoinが直面している課題の最前線」について詳細を報告する。なお、イベント概要については、「仮想通貨・ブロックチェーンの課題を解決する最新技術を知る『BlockChainJam 2018』」の記事にてレポートしているので併せて読んでいただきたい。

フレセッツ株式会社・CEOの日向理彦氏

 日向氏による「Bitcoinが直面している課題の最前線」では、Bitcoinのスケーラビリティやプライバシーの問題について現状を語る。また、それらを解決すべく取り組みや提案されている技術について詳しい解説をする。

 Bitcoinは、世界で初めて分散型かつ非中央集権型のP2P電子マネーを実現した仮想通貨だが、まだまだ多くの課題や脆弱性など改善を要する部分が残っており、日々研究が続けられていると日向氏はいう。その中でもより大きな課題が、利用者が増えるとシステムが耐えきれなくなる「スケーラビリティの問題」と、利用者の取引履歴がブロックチェーンを介してすべてパブリックに公開されてしまう「プライバシーの問題」だという。

Bitcoinの課題は「スケーラビリティの問題」

 Bitcoinはネットワークを流れるすべてのトランザクション(取引)を全ノード(Bitcoinのブロックチェーンを記録するコンピューター)で共有する必要があるため、ユーザー数や需要の増加によりトランザクションが増えると、各ノードのリソースがひっぱくする恐れが予想されるという。このトランザクションの増大にBitcoinネットワークが耐えられなくなってしまうことを「スケーラビリティの問題」というそうだ。

 問題の例を挙げると、現在、クレジットカード(VISA)は1秒間に平均処理件数2000件程度のトランザクションを処理することができ、ピーク時は5万6000件程度の処理も可能だが、Bitcoinはブロックチェーンのブロックサイズに1MBの制限があることから、1秒間に約8件程度しかトランザクションの処理ができないという。ブロックサイズはプログラム上の設定のため変更は可能であり、ハードフォークは必要になるがブロックサイズを引き上げることでスケーラビリティは改善するともいう。

 実際にBitcoinをハードフォークしてブロックサイズを引き上げてスケーラビリティの問題を解決しようとしているのがBitcoin Cashだ。しかし、ブロックサイズの上限を引き上げることで、その副作用として将来的にネットワーク帯域やディスク容量を圧迫することにもつながるという懸念もあるという。また、Lightning Networkなど新技術により改善ができる可能性もあることから、Bitcoinの基盤となるBitcoin Coreを開発するメンバーは、ブロックサイズの上限引き上げには消極的だと、日向氏はいう。

 スケーラビリティの問題を解決する方法として、支払チャネルについても日向氏は言及する。Bitcoinは通常の支払方法では、トランザクションのデータをすべてブロックチェーンに書き込む必要があり、全ノードにコピーしなければならないが、毎回ブロックチェーンに書き込まずとも、送受金を行うユーザー間のみで完結する方法があるのではないかという。ちなみに前者をオンチェーン取引といい、後者をオフチェーン取引というそうだ。

 日向氏は、オフチェーン取引の技術としてマイクロペイメント・チャネルについて紹介する。マイクロペイメント・チャネルでは、まず送受金者の間で特殊なトランザクションを作成してブロックチェーンに書き込み、支払チャネルを開通させる。次に、送金人は送金トランザクションを作成し、受取人へBitcoinを送るが、この段階ではブロックチェーンに書き込まない。その後、追加の送金が必要になったら、送金人は追加分を上乗せした送金額のトランザクションを作成し、受取人に送り直すことで前回送ったトランザクションを上書きする。こうして何度かの送金を繰り返し、最後の送金が終わったら最終的なトランザクションをブロックチェーンに書き込んで支払チャネルを閉鎖するという。

 この方法は、最初と最後に手数料が発生するのみで、間の送金については何万回送っても無料になるため、非常に小さな額の支払を繰り返し行うことに適しているという。また、トランザクションの正当性のみチェックすればいいので検証時間も早く、第三者の信頼を必要とせず、最終的な送金額のみがブロックチェーン上で公開されるので、途中経過が秘匿され、ある程度プライバシーが守られるといったメリットがあるそうだ。

 ただし、マイクロペイメント・チャネルにはデメリットもあるという。まず、チャネルを開いた二者間でしか取引ができない。また、取引の際には受取人もオンラインでなくてはならないほか、通常の送金に比べてはるかに複雑な仕組みになってしまうなど、いくつかの問題点を抱えているという。

Lightning Network概要

 そこで新たに考案されたのが、Lightning Networkだという。マイクロペイメント・チャネルでは送金相手ごとに支払チャネルを開く必要があるため非効率だが、Lightning Networkは支払チャネルをバケツリレーのようにいくつも経由し、どこかで支払チャネルがつながってさえいれば送金が可能となるプロトコルとのこと。Lightning Networkもまた支払チャネルの開通・閉鎖時にのみブロックチェーンに書き込みを行うことから、ブロックチーンのデータ量を大幅に削減可能だという。その結果、スケーラビリティの問題が解決できるのではないかと期待されているそうだ。

「プライバシーの問題」を解決する匿名化技術

 プライバシーの問題について日向氏は、仮想通貨の匿名性に関する話からトークを始めた。そもそも送金システムに匿名性は必要か否か、まずはそのメリット、デメリットを考える必要があるとのこと。

 匿名性のメリットは、プライバシーを保てるということ。たとえば現状のBitcoinで給料が支払われた場合、その人の給料がいくらなのか、何をいつ買ったのか、現在の総資産はいくらかといった情報が推測できてしまう可能性があるという。つまり、匿名性が確保できれば、そういったプライバシーを保つことができるのだという。

 また、匿名性を持つことで通貨としてのファンジビリティ(代替可能性)を保つことができるという。ファンジビリティとは、たとえば法定通貨の場合、新品の1万円札もヨレヨレの1万円札も、誰のどの1万円札も同じ価値であることを指している。もしも自分の手に入れた仮想通貨が犯罪行為に使われていた仮想通貨だったとわかった場合、相手がその通貨を使った支払に応じてくれなくなる可能性があるという。匿名性を手に入れることで仮想通貨もファンジビリティを保つことができるのだという。

 逆にそういった匿名性を保つことで、詐欺行為やマネーロンダリング、違法薬物、ランサムウェアの身代金支払などに使われてしまうというデメリットもあることも否めないと日向氏はいう。このようなメリット・デメリットを踏まえた上で、匿名化の試みとしてBitcoinの匿名性を保つための技術やサービスが多数誕生しているとのこと。

 そのうちの1つが撹拌サービスだ。撹拌サービスは、送金人や受取人の匿名性を向上させるサービスとのこと。撹拌サービスは、さまざまな人からBitcoinを送ってもらい、それをシャッフルしてランダムに送り返すことで、仮想通貨の受け渡しを追跡できなくさせるという。ただし、このシステムはその構造から撹拌サービス提供者に仮想通貨を持ち逃げされるリスクもあるので注意が必要だという。撹拌サービスは、提供者の信頼性が問われる、ある意味中央集権的なサービスだとのこと。

撹拌サービスの仕組み

 撹拌サービスの問題を解決する方法がCoinJoinだという。CoinJoinは、中央集権的な第三者を介すことなく、Bitcoinで取引をする際にランダムで選ばれた同時期の他のユーザーの取引と混ぜ合わされ、1つのトランザクションに集約されるという。集約されたトランザクションは、ミキシングされそれぞれの出金先に再分配されることで、取引の入金元と出金先との関係を断ち、追跡不可能にするのだという。

CoinJoinの仕組み

 電子署名における匿名化の技術もあるという。そのうちの1つとして、日向氏はリング署名という技術を紹介する。リング署名とは、複数人の署名人のうち、誰が署名をしたかわからないが、そのうちの誰か1人が作成した署名であることを保証できるアルゴリズムだそうだ。通常、1つの電子署名には1人の署名者(公開鍵)が対応するため、誰が送金を行ったかわかってしまうが、リング署名では複数の署名者のうち、誰が送金したかを隠すことができるという。

 日向氏はその他にも、Confidential Transaction、TumbleBit、zk-SNARKなど、プライバシー問題を解決する技術についての概要も語った。Bitcoinのスケーラビリティの問題やプライバシーの問題は、このようなさまざまな方法が研究されているという。今後もさらに研究や開発は進み、徐々にこれらの問題は解決されていくことが期待されていると締めくくり、日向氏のトークセッションは終了した。

高橋ピョン太