イベントレポート
不動産情報コンソーシアム正式に設立、ブロックチェーン活用の不動産情報共有始動へ
ADRE-不動産情報コンソーシアムが設立キックオフイベント
2018年11月7日 06:00
ブロックチェーン技術を活用した不動産情報共有プラットフォームの商用化に向けて2017年から検討・開発を進めてきた実証プロジェクトが11月1日、正式に「ADRE-不動産情報コンソーシアム-Aggregate Data Ledger for Real Estate」(ADRE)を設立し、キックオフイベントを開催した。イベントにて、ADRE設立の概要およびメンバー紹介、今後の活動計画などを明らかにした。
2017年12月より実証プロジェクト開始
ADREは、その前身となる実証プロジェクトが2017年12月より、株式会社LIFULL、株式会社NTTデータ経営研究所、株式会社NTTデータ・グローバル・テクノロジー・サービス・ジャパンによって物件情報などの不動産情報の共有におけるブロックチェーン技術の活用に向けたプロトタイプの開発を進めてきた。そして4月、プロトタイプの開発完了とともに、不動産情報共有プラットフォームの商用化に向けた取り組みを発表、プロジェクトに株式会社ゼンリン、全保連株式会社、株式会社ネットプロテクションズが参加を表明し、共同検討を開始した。6月22日には、共同検討の開始およびコンソーシアム設立の予定などを発表している。また、7月30日には不動産業界関係者らを集めてコンソーシアムについて説明するイベントも開催されている。
最初に、NTTデータ経営研究所・マネージャーの桜井駿氏より「ADRE設立の概要とメンバー紹介・活動計画について」の報告が行われた。ちなみに、NTTデータ経営研究所は、同コンソーシアムの事務局を担う。
コンソーシアムメンバーは全8社
桜井氏は、前述のこれまでの取り組みについて、コンソーシアムメンバーとして新たに株式会社エスクロー・エージェント・ジャパン、三菱UFJリース株式会社、弁護士法人鈴木康之法律事務所が参加し、メンバーが合計8社になったことなどを報告する。コンソーシアムでは、不動産情報のデータをオープン化し、情報の質を高め、あらゆる課題を解決することを目標とし、ブロックチェーンの活用で業務の効率化について、コンソーシアムという形で推進していきたいという。また、開発自体はオープンではないが、情報についてはすべてオープンに行っていくことを宣言する。
具体的な目的として、まずは複数のプレーヤーが持つ情報を集約していく。情報は、不動産仲介情報や不動産管理情報のみならず、電力、ガス、物流、地図情報など、各社が持つ不動産物件に関連する情報のすべてを集約することで、データの正確性やリアルタイム性の向上を目指し、既存業務の効率化を図り、新たなサービスの創出を行う基盤の構築を行っていくとのこと。
コンソーシアムの会員種別は、研究会や意見交換会、ワーキンググループに参加でき、総会議決権を持つ正会員一般会員、入会金や年会費が免除されるが総会議決権のない公的機関や大学が参加できる正会員特別会員、研究会にのみ参加可能な情報収集を目的とする準会員で構成される。
不動産×ブロックチェーンの未来
イベントは最後に、「不動産×ブロックチェーンの未来」と題したパネルディスカッションが行われ、不動産業界におけるブロックチェーンの今後の役割など、その未来が語られた。
パネルディスカッションは、NTTデータ経営研究所の桜井氏がモデレーターを務め、パネリストとして株式会社ツクルバ・代表取締役の村上浩輝氏を特別ゲストに、コンソーシアムメンバーからLIFULL社・ブロックチェーン推進グループ長の松坂維大氏、エスクロー・エージェント・ジャパン(EAJ)常務取締役の成宮正一郎氏、三菱UFJリース市場開発部次長の菅本浩司氏が登壇する。
パネルディスカッション最初のテーマは、「ブロックチェーン、デジタルに取り組む背景・狙い」と称し、それぞれ自己紹介を兼ねてブロックチェーンに携わる狙いについて語った。
コンソーシアムメンバーではないツクルバの村上氏は、今回特別ゲストとして招かれ、同じく不動産分野においてITを活用する企業に務める立場から、ディスカッションに参加。ブロックチェーンについては2014年頃から注目しているが、Ethereumがはやり始めてスマートコントラクトが出てきたときに、これはリアルアセットと相性がいいなと思ったという。今年の初め頃から、いよいよ商用化に向けてブロックチェーンに携わり始めたとのこと。
LIFULL社の松坂氏は、不動産情報をITで扱うことはもちろんだが、将来的には売買も含めた取引についてまでワンストップサービスとして扱えるようになるのが当然だろうと思っているとのこと。そんな中で、ブロックチェーンは有効であろうと考えるという。
EAJの成宮氏は、簡単にいうとEAJの創業は司法書士や土地家屋調査士といった業種からスタートしているので、いわゆるエスクローという分野でより効率的に何かできないかという観点からブロックチェーンに注目をしているが、本当の理由は危機感だという。ブロックチェーンの登場により専門家がいらなくなるという新聞の記事を見て、早急にこれに取り組まないと乗り遅れると思ったのがきっかけだという。
三菱UFJリースの菅本氏は、リース会社であることから業種としては異質だが、菅本氏の部署は住設マーケット(住宅設備)で住設機器やセキュリティ機器をリースで扱っており、マンションを管理する企業やオーナーとの取引があり不動産とも大いに関係があるとのこと。今後中長期的に業界全体がどうなっていくのかわからない中で、最近は我々の業界でも民泊などいろいろな新しいキーワードが走り始め、新しい取り組みをしていかなければならないという思いがあるが、とにかくまずは何かやってみようということで、手探りでブロックチェーンに飛び込んでみたという。
それぞれの立場のそれぞれの思いを伺うだけでも、ブロックチェーンに対する思いがさまざまで非常に興味深い内容だ。ディスカッションは、続いて「ADREに参加する狙い・期待」について聞くと、三菱UFJリースの菅本氏は正直にいえば何も見えないが、とにかくブロックチェーンは1社だけでどうこうしようというのは難しいということだけはわかったという。そういう意味でも、コンソーシアムに参加することは有意義であるとのこと。
また、EAJの成宮氏も同様にキーワードはブロックチェーンであり、それを何かに使えないか考える人たちと接点を持つことが大事だろうという。そのためのコンソーシアムであり、技術の使い道を研究・検討ができるいいきっかけであると成宮氏はいう。
モデレーターの桜井氏が最後の質問としてブロックチェーンに関して「取り組みの推進に向けた課題やポイント」を訪ねると、ツクルバの村上氏は、仮想通貨はボラティリティ(変動率)が高すぎて取引に使えないのではないかという。仮想通貨で取引をした不動産が、通貨の価格変動だけで価値が下がったりするのは問題だという。不動産取引においては今後はステーブルコインのような法定通貨と1対1の価値で連動する仮想通貨での取引が注目されるのではないかという。
LIFULL社の松坂氏は、プロダクトとしてブロックチェーンベースのものは少ないという。そこでいざ自分でやると不確定要素がありすぎて苦労するのだとか。ロジックだけでは、なかなかうまく進まないが、とにかくやるしかないという状況とのこと。やっていくことで何か発見ができる世界なので、みんなで一緒にやっていきたいという。
わずか45分ほどのパネルディスカッションだが、ブロックチェーンに対する期待値の大きさを感じるとともに、実際に扱ってみるとそれが難しいということもわかる現実味を帯びた意見交換が印象的なディスカッションだった。だからこそコンソーシアムを設立する意義があり、みんなでやっていく必要性があることが理解できる内容だったのではないだろうか。