イベントレポート

金融庁がICOに関する規制について討議、金融規制対象になり得るものとそうでないもの

全世界のICO資金調達額は2017年約55億ドル、2018年は7月末までですでに約143億ドルに

 金融庁は11月1日、霞ヶ関・中央合同庁舎第7号館にて「仮想通貨交換業等に関する研究会」の第8回会議を開催した。金融庁が事務局を務める本会議は、学識経験者と金融実務家などをメンバーに、仮想通貨交換業者などの業界団体、関係省庁をオブザーバーとし、仮想通貨交換業などをめぐる諸問題について制度的な対応を検討するため、定期的に開かれている。

 今回の研究会では、ICO(Initial Coin Offering)に関する規制のあり方について議論を行った。金融庁はICOについては明確な定義はないとするものの、議論する上で、ICOを一般的に企業等が電子的にトークン(証票)を発行し、公衆から法定通貨や仮想通貨による資金調達を行う行為を総称するものとしている。

 議論に先駆けて、ICOの現況とその課題について報告が行われた。本稿では、まずは報告内容についてレポートする。なお、報告にて挙げられた課題についての討議内容は、別稿にて報告する予定であるため、併せて一読いただきたい。

ICOについて、金融庁資料より引用(以下同)

ICOの資金調達額は増加傾向

 全世界でのICOによる資金調達額について金融庁は、公的なデータは存在しないが民間情報会社の公表データによると、2017年は約55億ドル、2018年は1月から7月末までで約143億ドルに達しているという。ただし、一般的な資金調達の方法であるIPO(新規の株式公開)の資金調達額は約1880億ドルという参考データも挙げている。

ICOによる資金調達額

 国内におけるICOに関しては、法の整備などが行われていないことから自重する傾向にあるが、世界的に見るとより増えているのは明らかであり、これまでと同様にトークンの価格が下落したり、約束されたサービス等が実際には提供されないなど、利用者保護上のリスクが指摘されている。また、ICOに関する権利内容が曖昧であることや、ずさんな事業計画や詐欺的な事案が多いことも報告されている。

 こういったICOの現状を踏まえた各国の対応は、中国や韓国はICOを禁止またはその旨を表明している。米国やEU・英国などは、特定のICOトークンが既存の証券規制の適用対象となり得る旨を明確化し、注意喚起等を実施しているという。さらにフランスやマルタでは、ICOに特化した規制を検討しているとのこと。

 一方、国内においては、2017年10月に金融庁がICOについての注意喚起文書を公表している。注意喚起文書では、資金決済法との関係では、ICOにおいて発行されるトークンが「不特定の者に対して代価の弁済に使用でき、かつ、不特定の者を相手に法定通貨と相互に交換できる」または「不特定の者を相手に仮想通貨と相互に交換できる」場合、当該トークンは資金決済法上の仮想通貨に該当し、その売買または他の仮想通貨との交換等を業として行うことは、仮想通貨交換業に該当するとしている。さらに、ICOが投資としての性格を持つ場合、トークンが「法定通貨で購入される」もしくは「仮想通貨で購入されるが、実質的には、法定通貨で購入されるものと同視される」場合は、金融商品取引法の規制対象となると考えられることも明確化した。また、利用者に対しては、ICOのリスクについて注意を促している。

ICOトークンの性質による分類

 ICOにおけるトークン設計の自由度は高く、様々な性質のトークンが存在するが、それらをどう整理すべきか、どのようなトークンが金融の機能を有し、かつ、何らかの制度的な対応が必要なのか、その分類についても言及をする。ちなみに、スイスの金融監査機関であるFINMA(the Swiss Financial Market Supervisory Authority)では、ICOトークンを以下の3つのカテゴリーに分類すると、今年2月にICOに関するガイドラインにて公表していることが紹介された。

  • Payment tokens(決済用トークン)
    決済手段として用いるトークン。
  • Utility tokens(ユーティリティトークン)
    特定のデバイスやサービスの利用に必要なトークン。
  • Asset tokens(アセットトークン)
    企業や何らかの資金源に根ざした資産に相当するトークンや、保有していると配当や利子を得られるトークン。

 また、ICOにて発行されるトークンを仮想通貨または法定通貨を用いて購入する場合、購入者は見返りとして、「発行者からの直接的な見返りは求めないケース」「発行者からの物品・サービス等の供与を見返りとして求めるケース」「事業収益の分配などキャッシュに相当する経済的価値の受け取りを期待するケース」などが考えられるとし、購入者が一定の見返りを期待し、かつ、その見返りの権利性が高いと考えられる場合は、金融規制の対象として制度的な対応の検討が必要なのではないかという指摘も挙っている。

 こうした中で、「発行者からの直接的な見返りは求めないケース」などトークンを購入しても何の権利も付与されていないものにつては、金融の機能を有しないとも考えられるのではないかという。ちなみに、フランスやマルタ等の一部の国を除いた多くの国では、これらの類型ICOトークンは、金融規制の対象としていないそうだ。

 逆に、将来的に事業収益の分配を受けるなど、投資商品・投資サービスとしての性格を有するものは、それによる資金調達は金融の機能を有すると考えるのが適当であるとのこと。しかし、それに対しても、主として事業に対する共感やイノベーションを企図する実験への賛同等から出資を行うケースや、そうではなく主として投資運用目的での出資から広く資金調達を行うケースなどがあり得るため、実態を踏まえて対応していくことが望ましいのではないかともいう。ただし、将来的に事業収益の分配を受けるような性質を有するICOトークンの購入に金銭を用いる場合には、現行法上も金融商品取引法の規制対象となり得ることも挙げている。

 このような現状を踏まえた上で、仮に、規制の導入が期待されると考えられる場合、諸外国では、ICOを禁止する、既存の証券規制の対象とする、ICOに特化した規制を検討するなどの対応がなされているが、国内においてはどのような対応が適当と考えられるか。また、仮に、ICOを禁止するのではなく、一定の規制を設けた上で、利用者保護や適正な取引の確保等を図っていく場合、その前提として、少なくともトークンの権利内容の明確化を含め、必要な規律を検討していくべきと考えられるがどうか、といった論点が挙げられた。ICOについては、既存の資金調達手段にアクセスできないスタートアップ企業の資金調達手段としての有効性等の利点も指摘されている。

金融規制を要するICOについての検討事項

既存の資金調達手段に対する規律と、投資性を持つICOに係る検討事項

 資金調達を行うケースとして株式等によるIPOの例があるが、ICOについても、IPOと同等ないし類似の経済的な機能やリスクがあるのなら、同じ規制を課すことも考えられるという。株式のIPOなど既存の資金調達手段における規律を参考に、実態に即した制度を考えることが適当と考えられるのではないかという。

 IPOの場合は、市場や状況に応じて、主幹事証券会社(第一種金商業者)、取引所からの特定業務の受託者、株式投資型CF(クラウドファンディング)の場合はCF仲介業者(第一種少額電子募集取扱業者)が、それぞれ販売・勧誘等に関与している。また、発行者自身が募集を行う場合は、当該発行者は第二種金商業者の登録を受ける必要があるなど、規制がある。

 ICOの場合、ICOプラットフォームによる取扱例もあるが、発行者自身が募集を行うことが多いことから、トークンの販売・勧誘行為について、何らかの方策が必要とも考えられる。その場合、どのような業規制が考えられるか。発行者自身が募集を行う場合も、何らかの業規制が必要とも考えられるのではないか。業規制を行う場合、自主規制団体に一定の役割を求めることも考えるが、その場合、どのような役割が考えられるかなど、さまざまな論点が挙げられた。

 また、発行開示等についてもICOには具体的な規律はなく、通常はホワイトペーパーがICO発行時に公表されるが、その内容や作成プロセスは標準化されていないため、ICOトークンに係る発行開示等について、何らかの対応が必要とも考えられるという。ICOトークンの流通性の高さを考慮した場合、取引の公正や流通の円滑化のための取引ルールが必要とも考えられる。意見としては、一般の投資家へのICOトークンの販売は抑止すべきとの指摘もあるそうだ。

 ちなみに、IPOの場合は金融商品取引所(免許制)やPTS(認可制)、プロ向け市場上場の場合はプロ向け市場(免許制)に限られ、これらの者を通じて規制の適切な適用が図られている。また、不公正取引規制として、流通性が高くないものを含め不正行為の禁止や風説の流布の禁止等が適用されるほか、IPOとプロ向け市場上場に関しては、相場操縦の禁止やインサイダー取引規制も適用されるという。

 討議の前に、ICOに関して非常に多くの論点が挙げられたことが興味深い。ICOについての課題は、これまで以上に難しい議題であることが伺える報告といった印象だ。

高橋ピョン太