イベントレポート

世界で禁止傾向の匿名仮想通貨だが「Zcashは反社対策規制をクリア可能だ」ズーコCEOが明言

Zcash開発会社CEOの来日公演レポート

Electric Coin Company・CEOのズーコ・ウィルコックス氏

 匿名性仮想通貨Zcashを開発するElectric Coin Company(以下、EC社)は3月26日、同社初の日本コミュニティ向けイベントを開催した。同社CEOのZooko Wilcox(ズーコ・ウィルコックス)氏がZcashを紹介する講演を行い、会場から質疑応答を受け付けた。イベントはFEB株式会社が主催し、東京都渋谷のNeutrino Tokyoが会場となった。

 本稿ではズーコ氏によるZcashの仕組みや利点の解説と、質疑応答で氏が語った内容をまとめる。質疑応答では、挙手制の質問に加えて、sli.doのサービスを利用して、sli.do上に書き込まれた質問から、参加者の投票で質問を決めるという方式を採用した。

Zcashとは何か

 Zcashはトランザクションを暗号化して第三者からその送信元アドレス、受信アドレス、送金額、メッセージの内容を秘匿する機能を持った、仮想通貨だ。Bitcoinなどのパブリックブロックチェーンでは、あらゆる人がトランザクションの内容を確認できる。それに対してZcashではトランザクションの内容を確認可能な人を限定でき、プライバシーに優れる。

 Zcashではトランザクションを暗号化して生成する機能を持つ。ゼロ知識証明暗号の先進的技術「zk-SNARKs」を用いて匿名性を実現している。一方で、一般的な仮想通貨のようにすべてのトランザクション情報を公開した状態にすることも可能だ。なお、直近1か月の間にZcashのブロックチェーン上で生成されたトランザクションの内、暗号化されたものは約13%に留まる。

 Zcashはいわゆる匿名性仮想通貨に分類され、現在日本国内でZcashを取り扱う仮想通貨交換業者はない。2018年6月まで、CoincheckがZcashを取り扱っていた。また、先日閣議決定した法改正案にて、匿名性仮想通貨の取り扱いには申請と、問題がないかチェックする仕組みの整備が明示されている。

Zcashのトランザクション暗号化の仕組み、AML/CFTの規制を満たすのか?

 Zcashの暗号化モードで生成されたトランザクション内容を確認するには、閲覧鍵が必要となる。トランザクションの送信者と受信者で見える範囲は異なる。送信者が持つ閲覧鍵では送信元アドレス、受信アドレス、取引量、メッセージといったトランザクションの内容すべてを閲覧できる。受信者が持つ閲覧鍵では、送信元アドレスを確認することはできない。当然、閲覧鍵を持たない第三者はトランザクションの内容を確認することはできない。

閲覧鍵で暗号化トランザクションを確認する。送信者はすべての情報を見ることができるが、受信者は送信者アドレスを確認することはできない。

 閲覧鍵によって匿名性を制御する仕組みがZcashの肝であるとズーコ氏は言う。例えば仮想通貨交換業者がZcashを取り扱う場合、暗号化が有効であっても、その交換所から出金されるすべてのトランザクションは、その交換業者の視点では透明性が確保される。どこから通貨が入ってくるかは完全に把握できないが、出て行く分については完全に把握できるというわけだ。つまり、不正流出が発生した場合にも、少なくとも一次までの追跡は可能である。

 上記の仕様は現金の透明性と同じであるとEC社は主張する。同社は3月21日、Zcashは一般的なマネーロンダリングおよびテロ資金供与対策(AML/CFT)の規制を満たす旨の発表を行っていた。匿名性仮想通貨はその取引が不透明であることから、マネーロンダリングへの利用が懸念される。Zcashは現金と本質的に似るという。現金向けに洗練されたAML/CFT規制の仕組みを、取り扱い業者が運用することで、規制に準拠することができると同社は主張している。

 セミナーにおいても、参加者から「仮想通貨交換業者がzcashを取り扱いながらAML/CFTの規制をクリアすることができるのか?」という質問があった。ズーコ氏は、これに対して明確に可能と答えている。事実として米国の大手仮想通貨交換所であるCoinbaseやGeminiは、Zcashを取り扱いながら、同国のAML規制をクリアしている。先述の「Zcashは現金と本質的に似ている」という同社の主張と合わせると、仮想通貨交換業者が金融機関と同等のセキュリティを実現すれば、AML/CFT規制に準拠することが可能ということだ。

Zcashを仮想通貨交換業者が取り扱うメリット

 日本国内の仮想通貨交換業者が匿名性仮想通貨であるZcashを扱うことには、明確なメリットがあるとズーコ氏は言う。匿名性仮想通貨の問題点はマネーロンダリングに利用される懸念によるところが大きい。閲覧鍵の管理を仮想通貨交換業者が行う限り、国内の規制当局はZcashのトランザクション情報を確認できる。一方で、他国の当局あるいは第三者からは、国内仮想通貨交換業者の取引情報を隠すことが可能だ。経済的プライバシーの保護という観点でメリットになるという。

 一方で、国内のユーザーが海外の仮想通貨交換所でZcashを扱う場合、前述のメリットが一転してデメリットとなることもズーコ氏は解説した。海外の仮想通貨交換所に対して、国内の規制当局が強制力を持つことは困難であるため、それらのユーザーのトランザクションを追跡することができなくなる可能性が高くなり、資金の透明性を確保することができない。

国内外の仮想通貨交換業者がZcashを取り扱う場合、国内の規制当局はメリットを受けるか

 以上、EC社CEOのズーコ氏がZcashの仕組みやメリット、規制への対応について語った。各国の匿名性仮想通貨に対する規制の進め方を見るに、今後の展開は厳しいという論もある。今回のズーコ氏の講演や、Coinbase、Geminiなどの導入事例を鑑みると、一概に淘汰に向かうという考え方は改められるべきだろう。今後の匿名性仮想通貨の発展における課題は、それを取り扱う仮想通貨交換業者が金融機関と同等以上の高度なセキュリティを築けるか否かになるのではないだろうか。

日下 弘樹