イベントレポート

仮想通貨は新たなステージへ。元マウントゴックスCEOのマルク・カルプレス氏が語る仮想通貨の未来

事業の本格化に向けて活発化する業界——第4回仮想通貨・ブロックチェーン企業合同説明会より

ブロックチェーン系の人材を扱うwithBは、5月25日に東京・新宿で「第4回仮想通貨・ブロックチェーン企業合同説明会」を開催した。同イベントはセミナー会場と個別面談会場に分かれて執り行われた。個別面談会場では14社がブースを構えて来場者の質問に対応した。

ここではグラコネ代表取締役兼withB取締役の藤本真衣氏と元MTGOX(マウントゴックス)CEOのマルク・カルプレス氏のトークセッションを中心にレポートする。

仮想通貨業界は今年、新たなステージに入ろうとしている

オープニングで登壇したのは藤本真衣氏。同氏は「業界のキーパーソンの方たちが新たな動きを見せており、ブロックチェーン・仮想通貨業界が新たなステージに入ろうとしている」と説明する。

「ミス・ビットコイン」の呼び名をもつグラコネ代表取締役兼withB取締役の藤本真衣氏

「ブロックチェーンでは、確かに技術は大事な要素。じゃあエンジニアの募集ばかりなのか? と聞かれたら、答えはノー」と藤本氏は語る。ブロックチェーン・仮想通貨事業がいよいよ本格的にスタートしようとしている今、たとえば金融商品取引法に詳しい経理をはじめ、デザイナー、営業など、企業が求める人材は多岐にわたるという。

藤本氏は「ブロックチェーンは業界としてはまだ赤ちゃん同然。必ずしもブロックチェーンの専門家である必要はない。今日のイベントが、ブロックチェーンに興味を持った人と企業の距離を近づける機会になってほしい」と語った。

マルク・カルプレス氏、マウントゴックス事件以来の表舞台

トークセッションのゲストは、元マウントゴックスCEOのマルク・カルプレス氏。2014年2月、当時世界最大の仮想通貨交換所だったマウントゴックスから、ハッキングにより時価総額480億円に相当するビットコインが流出した。同氏は事件後、業務上横領罪など複数の罪状で起訴されていたが、2019年3月15日、私電磁的記録不正作出および同供用罪を除きほぼ無罪とする判決が東京地方裁判所で下された。疑いが晴れ、事件後に同氏が表舞台に上がるのは今回のイベントが初となる。

同氏は仮想通貨業界から離れ、今はリーガルテック(法律×技術)を扱うトリスタン・テクノロジーズで取締役を務めている。トークセッションは、藤本氏がマルク・カルプレス氏に質問を投げかける形式で進められた。

元マウントゴックスCEOのマルク・カルプレス氏(現在はトリスタン・テクノロジーズ取締役)

仮想通貨が急成長していた当時、最も大変だったのは人材の確保

藤本氏:今はどんなことに取り組んでいるのですか?

マルク氏:トリスタン・テクノロジーズという新しい会社で、法律と技術を組み合わせたリーガルテックの分野に取り組んでいます。

藤本氏:マルクはもともと技術者ですよね。今も技術が好きで?

マルク氏:そうですね。私はフランス人ですが、2009年ごろ日本に来ました。昔から日本は技術的に認められている国で、たとえばゲームの分野でも日本が世界一でした。ところが最近はあまり技術に勢いがない。ブロックチェーンもですが、フィンテックやリーガルテックなど、技術的な面で新しいことをもう一度日本から世界に発信できればと思っています。

藤本氏:マルクが仮想通貨業界にいたころは、業界が一番成長した時期ですよね。大変だったことはありますか?

マルク氏:マウントゴックスでは、3か月の間に顧客数が2000人から6万人にまで増えました。規模の拡大に伴いカスタマーサポートや経理の人材が必要だったのですが、成長のスピードに合わせて人を雇うことが本当に難しかった。人材の確保が最も大変でした。

藤本氏:逆に、良かったなと思うことは?

マルク氏:良かったこともたくさんあります。いい人にもめぐり会えましたし、ブロックチェーンは明日を作る技術だから、楽しいですよね。これからどんな世界になるのかが、世の中よりも先に見えてくると言いますか。

あとは、普通なら触れられない世界を見られたことです。銀行の内部をのぞくとか、なかなか経験できませんよね。仮想通貨取引所はビットコインの世界と金融の世界の間にあるので、大事な役割を担っているのと同時に大変でもありました。

仮想通貨はまだまだこれから。解決すべき課題はたくさんある

藤本氏:いくつかの事件を受けて「仮想通貨はもうオワコン(終わったコンテンツ)」なんていう人もいます。

マルク氏:まったくそうは思いません。まだ課題はたくさん残っていますし、これから作っていくものですよね。今は不可能なことを可能にしたり、今できることをもっと簡単・便利に使えるようにしたり。私は仮想通貨業界を離れましたが、もし戻ったとしたら技術で解決する余地はたくさんあります。

藤本氏:今日は技術者の方もたくさん来場されています。技術者の方に向けてアドバイスはありますか?

マルク氏:技術者は実力を見せるのが簡単です。昔は会社に入るとき「いい大学を出ていなければ」といった条件がありました。でも今は、技術者であれば「何ができるか」だけで勝負できます。技術者の皆さんもぜひ面白いものを作って、行きたいと思う会社に応募するといいと思います。

ブロックチェーンの今後について

会場からは「ブロックチェーンで今後世の中がどう変わるのか」「これから決済手段として機能していくのか」などブロックチェーンの今後について質問が挙がり、藤本氏とマルク氏がそれぞれ回答した。

藤本氏:グラコネではビットコインを使った寄付のプラットフォームを運営しています。従来の送金方法だと、寄付に対して手数料が高すぎて送れないということもある。仮想通貨ならお金がもっとスムーズに流れて、支援したり、応援したりといったことがやりやすくなる世界になるかもしれません。中央集権的になりすぎない仕組みというのは、これからの時代の流れにも沿っていると思っています。

マルク氏:たとえばVISAのような決済方法は、中央の管理システムがダウンしたら動かなくなりますよね。分散型のブロックチェーンはそうした問題を解決します。少し夢のような話をすると、今後人類が地球を離れて暮らす未来が来るかもしれない。そんなときも、中央で管理されない決済方法は役に立つはずです。もっと身近な話でも「仮想通貨を使ったほうが便利だよね」と言えることはきっとあります。そういう世界が来てほしいですね。

ブロックチェーンは技術なので使おうと思えば何にでも使えますが、合うか合わないかの適正はあります。「どんなことにブロックチェーンを使えばいいか」は、まだこれから検討していく余地がある。先にあれこれ考えるよりもまずは作ってみて、だめだったものは自然になくなるし、良かったものは残るという考え方でいいと思います。そこは生き物と同じですね。

エンジニアだけじゃない! 多彩な職種が求められている

筆者は「ブロックチェーンで求められているのはエンジニア」というイメージを持っていたが、会場に行くと印象ががらりと変わった。出展企業はエンジニアだけではなく経理、コンサルタント、デザイナー、営業など幅広い職種を募集しており、来場者の職種もさまざまだった。

来場者が自身の職種に合わせて当日身につけたカード。さまざまな職種の人が来場していた

この「仮想通貨・ブロックチェーン企業合同説明会」も今回で4回目。主催であるwithBの担当者によると、回を追うごとに来場者が増えており、今回は約500名が集まったという。来場者にも話を聞いたところ、ベテランのエンジニアからインターン先を探す学生までさまざまな人が来場しており、「エンジニアでもマーケターでもないが、自分に何かできる仕事がないか探しに来た」という人もいた。共通するのは意欲の高さだ。

オープニングで藤本氏が語ったとおりブロックチェーン・仮想通貨業界が新たなステージに入り、いよいよ本格的にビジネスが始まろうとしているタイミングなのかもしれない。

西 倫英

インプレスで書籍、ムック、Webメディアの編集者として勤務後、独立。得意分野はデジタルマーケティングとモバイルデバイス。個人的な興味はキノコとVR。