イベントレポート

「ダークウェブと犯罪が仮想通貨を汚染する」世界の取り組みと日本がやるべきこと

FATF勧告の解釈をめぐる議論も、もっと行うべき——BCCC第17回リスク管理部会より

一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は5月28日、東京・大井町で第17回リスク管理部会を開催した。今回のテーマは、仮想通貨(暗号資産)がダークウェブで動いたお金の資金洗浄(マネーロンダリング)に使われる危険性と、それに対抗する世界の規制について。

「仮想通貨にはすごいスピードでダークウェブのお金が入り込んでいて、汚染されている」と語るのは、日本信用情報サービス代表取締役の小塚直志氏。

日本信用情報サービス代表取締役の小塚直志氏

2018年の仮想通貨不正取引による被害は17億ドル

壇上に立ったのは三菱総合研究所の河田雄次氏。同氏は「暗号資産は、普及が進む一方で、ダークウェブの決済、取引所からの不正流出、ICO詐欺などの犯罪に用いられることも増えている」と説明する。仮想通貨の不正取引による被害額は年々増加しており、2018年度は約17億ドル(約1800億円)だという。河田氏は「犯罪により得られた収益は、次に暗号資産を利用して資金洗浄が行われる可能性が高い」と語る。

三菱総合研究所・社会ICTソリューション本部・主任研究員の河田雄次氏

仮想通貨は、違法な取引を行うダークマーケットにおいて日常的な決済手段として利用されている。河田氏は「犯罪組織以外にも、テロ組織や経済制裁対象国も暗号資産を利用している可能性が高い」と指摘する。

仮想通貨を使った資金洗浄の手口とは?

では、仮想通貨を使った資金洗浄はどこで、どのように行われるのだろうか。主に利用されるものとして次の要素が挙げられた。

  • 取引所
  • 分散型取引所
  • ミキサー
  • ギャンブルサイト
取引所や匿名化のサービスを経由して資金洗浄が行われる(当日資料より)

ブロックチェーンは資金の流れを追跡できるが、たとえば取引所で「ライトコインで入金してビットコインで支払う」といったように別のブロックチェーンに移ると、そこでチェーンが途切れ、追跡が難しくなる。

河田氏は「国内の取引所は本人確認を徹底するように動いており、日本でこうした行為が行われる可能性は低い」としたうえで「世界を見ると本人確認を徹底していない取引所は多く、そのお金が日本の取引所に入ってくることは十分ありえる」と指摘する。

ミキサーとはプライバシー保護を目的とした技術で、指定時間後に元とは異なるアドレスから送金が行われるサービスだ。ギャンブルサイトでは、複数人が賭け金をビットコインで入金するとほかの人のビットコインと混ざってしまい、外から見たときに資産の経路がわかりづらくなる。河田氏は「いったん預けて引き出す、という仕組みは資金洗浄に使われやすい」と説明する。

ビットコインで資金洗浄に使われる技術のパターン

資金洗浄は、仮想通貨におけるプライバシー保護を目的にした秘匿化技術と表裏関係にある。河田氏は、例としてビットコインで資金洗浄に利用されると考えられる技術のパターンを3つ挙げた。

  • 一度プールしてから送金する
  • 別のアドレスを経由して送金をリレーする
  • 入金と別の仮想通貨で決済する
送金元を隠す技術のパターン(当日資料より)

河田氏は「プライバシー保護のために作られた技術が資金洗浄に悪用される一方で、追跡するための技術もさまざまな開発が進められている」という。

たとえばブロックチェーンのデータ上でアドレスを追跡して、不審な入金が複数あった場合、そのアドレスを同一人物にひも付くと見なしてリスクが高いと判断する技術、あるいはネットワーク上の各所に「センサーノード」と呼ばれるノードを配置して、発信元のノードを特定する技術などだ。

資金の流れを追跡する技術も開発されている(当日資料より)

しかし「資金洗浄に使われるのはブロックチェーン技術だけに限られるわけではない」と河田氏は指摘する。たとえばフリーWi-Fiなどの匿名で通信するサービス、匿名のホスティングサービス、そして米国で流行したSIMスワッピング(盗難スマホを使い他人になりすます)など、身元を隠すさまざまな方法が複合的に使われているという。

世界中で不正取引に対する規制は厳格化している

こうした現状に対して、世界中で国際的なルール作りが活発に進められている。

主要国の国際会議の場であるG20(Group of Twenty)では、2018年12月のブエノスアイレス首脳宣言で「国際基準に沿った資金洗浄対策の徹底」について声明が出された。G20が基準として適用するとしているFATF(Financial Action Task Force)は、資金洗浄やテロ資金供与への対策を目的とした国際的な枠組みだ。

FATFでは「仮想資産サービス事業者(Virtual Asset Service Provider:VASP)」に該当する定義を拡大し、送金者と受金者の情報を取得するよう定める草案を発表している。この草案は今年の6月にFATF基準として正式に採択される予定だ。

FATFの勧告は今年6月に正式に採択される予定(当日資料より)

米国ではFinCEN(Financial Crimes Enforcement Network)が仮想通貨に対する取り組みを本格化しており、今年5月に資金サービス事業に関する新たなガイダンスを公表した。これにより、DAppsユーザーやLightning Networkなどで資金移動を中継するノードも規制の対象となる可能性がある。

また、欧州議会では2018年7月に「第五次マネーロンダリング指令」が施行された。特徴的なのは、ブロックチェーン上のアドレスと身元情報をひも付けてEU中央のデータベースで管理し、規制を徹底するという考え方だ。2020年までにEU各国の国内法が整備される見込みだという。

強まる規制とそれに対する懸念。日本の団体はもっと存在感を出すべき

仮想通貨の規制が世界的に厳格化する一方で、規制対応コストが増大し、それが民間事業者の参入障壁になるのではという指摘もある。

河田氏は「世界的に規制に対して適切に対応することが望まれる」としたうえで、分散型であるブロックチェーンの特徴を考えると、規制と実情に乖離が生じてくる懸念もあるという。

たとえば仮想資産サービス業者(VASP)の定義拡張について。FATF勧告の定義に従い、Lightning Networkで資金移動を中継するノードも一律仮想資産サービス業者と見なしたら本当に脅威を防げるのか。また、取引所が送金者と受金者の情報を正しく取得することが実現可能なのか、そして有効なのか。河田氏は「これらは今も議論が進められており、まだ検討の余地がある」とする。

「規制が実現可能なのか、本当に脅威に対して有効なのかは検討の余地がある」と河田氏

仮想通貨に対する取り組みはまだ歴史が浅く、技術側、ビジネス側、政府側それぞれが手探りで進めている状況だ。河田氏は「日本は暗号資産において世界有数のマーケットで、国内の業界団体は世界でも先進的な取り組みをしているのに、グローバルでは存在感が薄い。FATF勧告の解釈指針をめぐる議論も、海外と比べると低調な印象がある」と指摘する。

河田氏は最後に、「業界が健全に成長するためには、業界団体がきちんと課題を見つけて積極的に働きかけていくことが大事。たとえば縦串では国内の企業から意見やデータを集約して政府に正しく伝え、横串では他国の業界団体と連携するなど。国際基準で定められたものは国内法にも適用される。FATF勧告の解釈をめぐる議論も、もっと行うべきなのでは」と問題点を指摘して、部会を締めくくった。

会場の様子

西 倫英

インプレスで書籍、ムック、Webメディアの編集者として勤務後、独立。得意分野はデジタルマーケティングとモバイルデバイス。個人的な興味はキノコとVR。