イベントレポート

麻生財務相「Facebookのデジタル通貨リブラは国際的な関心事」=FIN/SUM 2019

仮想通貨など旧来ルールで想定していない技術革新に適切に対応していく

FIN/SUM2019シンポジウム第3日目の閉会にあたり、麻生太郎副総理・財務大臣・金融担当大臣が登壇し、講演を行った。以下に、その発言の骨子をまとめる。なお、講演は英語で行われているが、この記事はその完全な翻訳ではない。

麻生太郎副総理・財務大臣・金融担当大臣

このFIN/SUMのような国際会議の場というのは、金融規制関係者、エンジニア、研究者、金融機関、大手IT企業、スタートアップ企業が一堂に会して、互いが出会うよい機会である。さらに、今年は、これまで以上に幅広い分野のステークホルダーの方々が参加している。

私が金融大臣に任命されてからの数年間、多くの国際会議の場を通じて、さまざまな人々と出会い、対話する機会に恵まれたが、多様な価値観や専門性を持つ多くの方々と対話を進めていこうとすると、互いの共通理解に至ることが大変に難しいことに気づかされる。それぞれの人は他の人との距離を保つ傾向にあり、暗号を専門とするエンジニアや研究者がいると、多くの金融機関の人々との間で共通の言語を定義することは容易ではなくなる。ちょうど、別の世界でなにかに出会うようなものだともいえる。金融規制当局とエンジニアや研究者が会話をしょうとすると、エンジニアにとってはIMFだ、SFDだとかなんだとか、よくわからない単語が出てくる。しかし、これからは多くのステークホルダーとのコミュニケーションを密にしていかなければならない。これが重要なファーストステップである。そうでなければ、異なるバックグラウンドの人との間で、互いの価値観を共有することはできない。

さらに、国際的な協調も必要である。本年、日本はG20サミット(金融・世界経済に関する首脳会合)において、議長国を務めたが、その場においてもそうした努力をしてきた。そこでは技術革新、すなわち暗号資産(仮想通貨)の基礎技術である非中央集権的な金融技術を重要なものとする共通認識ができた。暗号資産はパブリックブロックチェーンという技術の上に成り立っていて、それは特段の集中管理がなされていなくても、誰もがアクセスが可能である自律的な非中央集権的な金融技術である。まだ見ぬ将来において、この技術は新たな金融規制とセキュリティを強化することにつながる。G20において、日本はこうした議論を通じて、共通理解の形成を主導した。そして、この技術の内包する影響についても、幅広い分野のステークホルダーとの間において共通認識がなされた。

また、FacebookのLibra(リブラ)のような新たなデジタル通貨が登場し、多くの注目を集めている。これは管理者が存在しているという点において、これまでのパブリックブロックチェーンとはその性質を異にしている。そこで当局による競争監視の対象として、さらに国際的な関心も高まっている。これはちょうど新しくバイクが発明されたことに例えることができる。それまでにあった自転車向けの規制にエンジンを追加しただけでは安全を保証することはできない。言い換えれば、新しいデジタル通貨については古いルールでは想定していなかった新しい課題が生じる可能性があるということだ。適切なタイミングでこうした技術革新に対応していくことにより、それに乗り遅れないようにする必要がある。私は国際的な議論の場においてもこうした意見を主導してきた。

数年前、フィンテックというムーブメントはジーンズにTシャツ、スニーカーというファッションのスタートアップ企業のエンジニアたちと、ダークスーツにネクタイ姿の金融機関の人たちとの組み合わせによって生み出された。銀行とスタートアップのインタラクションはすでに銀行のカルチャーを変えはじめている。私が聞き及んだところによれば、銀行に勤務する人もいまやジーンズにTシャツ、スニーカーを着て勤務しているらしい。これから健全な金融システムのイノベーションを遂げるためには、こうした異なったカルチャーの人たちが、フェースツーフェース、膝詰めでの密なディスカッションによる相互理解をすることが必要である。

このFIN/SUMの会場に集まった参加者の方々は日々さまざまな課題に直面しているが、この場がさまざまな機会を見つけ、それらの問題を解決するための議論を積み重ねるのに役立つことを願っている。

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。