イベントレポート

Facebookの開発者コミュニティ日本代表がリブラの普及可能性を分析

「メッセンジャーの送金機能は英米で民間に普及済み。インドを含めてリブラも同様の広がりを期待」

Facebook Developer Circles(以下、デベロッパーサークル)は9月5日、Facebook(フェイスブック)の仮想通貨Libra(リブラ)に関する情報交換会リブラミートアップを開催した。会場は東京都内のコワーキングスペースBINARYSTAR。同会は、今回を第1回目として、9月以降隔月で開催予定となっている。

第1回目のテーマは「リブラのビジネス、産業、国家への意味合い」とされ、ビジネス・法律・技術の3つの視点から、企業がブロックチェーンを活用した新規事業創出、既存事業への導入時におけるポイントを解説した。

本稿ではデベロッパーサークル・東京支部の代表を務める大森貴之氏の講演をまとめる。デベロッパーサークルは、フェイスブックが正式に支援する開発者コミュニティとして、2017年から開始した。世界中に100以上の拠点があり、日本国内では東京と大阪に支部がある。

世界中のデベロッパーサークルの拠点。世界100都市以上に支部がある

デベロッパーサークルは、現地でのハッカソンやセミナー、勉強会などの開催によるプログラミング学習支援に取り組む。途上国や学園都市など、設置拠点の環境に応じて活動内容も異なるという。デベロッパーサークルにはフェイスブックの最新のAPIが提供され、世界中の開発者と協力できるため、リブラの情報もいち早く入ってくるという。

大森氏は、現地でのリサーチのために世界50か国以上に足を運んでいる。その先々でデベロッパーサークルのバックアップを受けられるため、現地でのビジネスやリサーチに活用しているという。

フェイスブックは既に送金システムを実現している

リブラの基本的なところは関連記事などをご確認いただくとし、本稿では大森氏の見解を中心に紹介する。大森氏は世界的にはリブラが普及することを見込んでいる。その根拠はフェイスブックが提供中の送金サービスにある。

デベロッパーサークル・東京支部リードの大森貴之氏

フェイスブックはすでに、アメリカ・イギリス・フランスで同社のメッセンジャーアプリを通じた個人間送金サービスを提供している。アメリカでは特に普及が進んでいたという。大森氏が現地を訪れた際、レストランの会計時に1人がまとめて会計をし、メッセンジャーの送金機能を使って割り勘にするということがよくあったそうだ。

フェイスブックの子会社が開発するリブラ用ウォレットCalibra(カリブラ)は、メッセンジャーにもリブラの送金機能を提供する予定だ。そのインターフェースは、開発中のイメージが公開されており、実装済みの送金機能と類似のものになる可能性が高いと大森氏は予想する。つまり、ドルとユーロ、ポンド圏のユーザーは違和感なくリブラの送金機能を扱うことができる。

開発中のカリブラのリブラ送金インターフェース。メッセージに金額が付随するイメージは従来の送金機能と同様

さらに、フェイスブックはインドでも送金機能を提供予定だ。インドでは同社のWhatsAppの機能として提供される予定で、年内には実装の見通しだ。インドは紙幣への信用が低い。現地を訪れた大森氏によると、「どんな小さな露天商でもモバイル決済に対応していた」という。特にPaytmというモバイル決済システムが普及しているそうだ。

フェイスブックは中国にはサービスを提供していないため、インドは同社にとって最大の人口を有するマーケットになる。電子決済の普及が進んでいるインドで、メッセンジャーの送金機能が普及する可能性は高い。そうなると、アメリカ・ヨーロッパ・インドという巨大マーケットに対し、民間レベルでリブラの導入準備が整うという状況になるわけだ。

1100億ドルの経済効果に期待

続けて大森氏は、リブラの普及によるメリットにも言及した。アクセンチュアの調査によると、銀行口座を所有していない人々は世界に17億人いる。このうち、15億人はインターネットへのアクセスができる。すなわち、リブラが開拓するのは15億人分の未開のマーケットだと大森氏は言う。15億人に新しく金融サービスを提供すると、1100億ドルもの経済成長が見込まれるというのだ。

また、リブラが普及すれば国際送金の手数料を引き下げることができる。現在、200ドルを送金する際の平均手数料は7.1%だ。一方で途上国など、金融サービスの普及していない地域では、規制された銀行ではなく送金業者が海外送金を代行するケースが多い。これらのサービスは規制を受けておらず、銀行よりも高い手数料を請求しながら安全性も低い。

すなわち、銀行口座を所有していない(アンバンクトな)環境ほど送金手数料が高くなってしまっているのが現状だ。送金手数料が安いリブラを用いれば、海外送金の問題は解決できる。例えば出稼ぎ労働者は現地で得た賃金でリブラを購入し、母国へリブラを送る。受け取った家族が現地通貨に交換するという手順を踏めば、法外な手数料や盗難などのリスクを負わなくて済むのだ。

まとめ

リブラに関する議論は各所でなされているが、法規制やマネーロンダリングなどの安全性に集約することが多い。その次の段階に当たる、実際に普及するのか、普及するとどうなるのかが論じられることはまだ少ない。今回、先進国・途上国を問わず世界各国に足を運ぶ大森氏から、現地の状況を踏まえてリブラへの期待感を聞くことができた。

リブラミートアップは今後、隔月での開催を予定している。第1回目は225名が来場する盛況ぶりだった。リブラは発表当初から大きな注目を集めているが、3か月弱が経過した現在もその注目度は依然として高い。技術としての評価がある程度定まったことで、むしろ当初よりも人々の興味は高まっているように感じる。

開演前の会場の様子

お詫びと訂正: 記事初出時、「フェイスブックがインドで提供予定の送金サービス」について、実装方式を「メッセンジャーの機能」と記載しておりましたが、正しくは「WhatsAppの機能」となります。お詫びして訂正させていただきます。

日下 弘樹