イベントレポート

政治家の仕事はテクノロジーによる新興産業をサポートすること

政治家と民間が歩み寄ることでイノベーションは生み出される

サンフランシスコで開催された「SF Blockchain Week 2019」のメインイベントEpicenterより、米国下院議員のWarren Davidson氏やRippleで行政との渉外担当を務めるRon Hammond氏が登壇した「The Evolution and Future of The Token Taxonomy Act」のセッションレポートをお届けする。

米国の政治家と民間は驚くほど近い距離にいる

米国オハイオ州第八議会地区を拠点とする共和党所属の米国下院議員であるDavidson氏は、暗号資産推進派として有名だ。2018年には暗号資産に関する規制を明確なものにすべく、「Token Taxonomy Act of 2018」を考案し国会に提出している。また、Facebook主導のLibraに関しても鋭い考察を展開し話題となった。彼は、Libraは暗号資産への理解をマスに広めたのではなく、行政機関からの暗号資産に対する規制意識を強めただけだと主張。長年、規制の観点から暗号資産の普及に尽力してきた身ならではの見解だ。

Hammond氏は、2019年9月よりRippleに入社し行政との渉外を担当するポジションを任されている人物だ。彼は以前、Davidson氏のアシスタントとして従事していたため行政に明るく、Rippleへの入社が発表された際には大きな話題を集めた。Davidson氏が「Token Taxonomy Act of 2018」を考案した際には、立法責任者としての務めを果たしている。

そんな彼らをモデレーターとしてまとめたのが、Angela Dalton氏である。彼女はSignum Global Advisorsでマネージングパートナーを務めている。Signum Global Advisorsは、グローバルな政治経済、市場調査に長けたアドバイザリー企業だ。

左からDalton氏、Davidson氏、Hammond氏

米国における法案可決のプロセス

まずモデレーターのDalton氏より、暗号資産領域における議会および行政の役割について両氏に質問が投げかけられた。Davidson氏は、「暗号資産・ブロックチェーンに限らず、テクノロジーによる新興産業をサポートするのが我々の仕事だ」と語る。テクノロジーはイノベーションを起こすための重要な要素であり、一方的に抑制してはならないものだ。彼は、新興産業において声をあげ行動を起こし続けることが重要だということを、法案が可決するまでのプロセスを例にとり、次のように力説した。

「米国では立法府が上院と下院に分かれている。現在の共和党トランプ政権の議員は上院に多く存在するため、下院での発言や行動も結局は上院を通過しなければならない。しかし、小さくでも誰かが動かねばならない。その役目を果たすのが私だと思っている。」(Davidson氏)

Davidson氏の元で長年アシスタントを務めたHammond氏は、自身の役割を「行政と民間のブリッジ役」と説明した。そのために有効な手段として、協会団体を例にあげている。米国にはBlockchain Associationが存在するが、そういった窓口を活用することで、これまでに上院議会の場でスピーチする機会を与えられてきたという。彼は民間の立場になって理解したことの一つとして、「Davidson氏のような人物が上院から登場することが非常に重要である」と述べた。米国立法府の構造上、下院だけで議論が進むことはなく、上院を巻き込む必要があるからだ。

Libraは証券か否か

続いてセッションのテーマはLibraへと移った。Dalton氏は、Libraは中央銀行を脅かす存在ではなく、決済事業者にとっての脅威となるとの声明を連邦準備制度理事会(Federal Reserve Board)が出した件を引用し、両氏に意見を求めた。

Davidson氏は、まずビットコインとLibraの違いとして中央集権性に触れた。「ビットコインと違い、Libraには明確な管理者が存在する。数の大小はあれど、中央集権か非中央集権と問われたらLibraは前者に該当するだろう。」と述べた。さらに、「ビットコインの価値は市場の需要と供給によって決まる一方、Libraの価値は委員会の仕事ぶりによって決まる」と続けた。また、Libraのステーブルコインとしての側面についても言及している。Libraは、いくつかの国の通貨や証券などを価値の担保とするバスケット型の通貨だ。Davidson氏は、規制の観点からこの点を指摘している。彼曰く、「証券を担保に加えるのであれば、それは証券法で規制される対象となり、SEC(証券取引委員会)の管轄下に入る」という。結局のところ、暗号資産が証券に該当するか否かは、その通貨の非中央集権性が論点となる。このようにして、Token Taxonomy(トークン分類法)は考察されてきた。

一方のHammond氏は、「Libraの誕生とその周辺で起きている様々な取り組みにとてもワクワクしている」と述べた。ただし、自身がこれまでに2年ほど経験してきたToken Taxonomy法案の可決プロセスを引用した上で、「規制を通過することは簡単なことではない」と懸念も示している。彼は、「議会のメンバーがテクノロジーをきちんと理解し、イノベーションを殺さない適切な規制を整備する必要がある」と述べた。そのためには、「2年とはいわないがLibraも時間をかけて正直で簡易な説明を心がけるべきだ」という。

イノベーションをどのように生み出していくか

最後に、米国の政治について議論が展開された。Dalton氏は、この国の主な政党である共和党と民主党はイノベーションに対してどのような方針を掲げ、それぞれの議員たちはどのような考えを持っているのか、両氏に質問した。

Davidson氏は、「米国で政党間の反発が起きているのは、基本的に我々が新しいものを恐れる習性を持っているからだ」と説明した。しかし、テクノロジーのような新しいものに反発し続けていては、イノベーションは起こせない。共和党所属の彼は、「米国の政党はいずれも少しずつ変わるべきだ」と主張しつつ、現在の民主党への敬意を持っていることも強調した。

Hammond氏は、「民間の立場として政党や議員に対する教育を継続していく」意向を表明した。その上で、「自身の在籍するRippleが議会と連携してアクションを起こしていく日が来ることを楽しみにしている」と述べている。そして「そのために私がいる」とセッションを締め括った。

著者の考察

今回SFBWに参加して最も印象に残っているのが本セッションだ。政治家と民間の距離が近く、同列で議論が展開されている。これは、日本だとあまり目にしない光景だろう。Hammond氏がRippleに入社したニュースは日本でも話題を呼んだが、米国ではそれほど珍しいことではない。むしろ、立法と民間が共同でアプローチすることで、より精度の高い規制を整備することができると考えられる。本セッションと近い出来事として、Token Taxonomy Frameworkが公表された。米国におけるトークンの分類方法に関しては、以前より議論が進んでいる。日本が世界に遅れを取らないためには、米国に倣って立法と民間とが同じ目線を持つ必要があるだろう。

株式会社techtec

「学習するほどトークンがもらえる」ブロックチェーンのオンライン学習サービス「PoL(ポル)」を運営。世界中の著名プロジェクトとパートナーシップを締結し、海外動向のリサーチ事業も展開する、日本発のブロックチェーンリーディングカンパニー。

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