イベントレポート

国内のSTO事情、市場は社債・未上場株式・不動産の3分野に分けられる

メリットは資産の小口化と取引・所有権移動の自動化

FLOCブロックチェーン大学校・講師の半田昌史氏

去る12月5日、FLOCが運営するブロックチェーン総合スクール「FLOCブロックチェーン大学校」の講師3名が2020年のブロックチェーンと仮想通貨業界の展望についてのプレゼンテーションを行った。

この記事はそのプレゼンテーションの要約を3回に分けて紹介する。第3回は2019年の日本のSTOの現状と2020年の展望について、FLOCブロックチェーン大学校の講師である半田昌史氏が語った。

あらためて、セキュリティトークン(STO)とは何か

「有価証券」といっても場面によってその意味が異なる(図1)。商法における有価証券は手形や小切手のようなものを指す。また、金融商品取引法でいう有価証券はそれとは定義が異なり、第一項有価証券としては一般にイメージされる株や社債などの金融商品、第二項有価証券としては流動性が低い信託受益権や合名合資会社の社員権といったものを指す。このなかでセキュリティトークンはどこに位置するかというと、第一項有価証券に含まれることになる。ただし、その中身は信託受益権だったり、合名合資会社の社員権だったりと、これまでの第二項有価証券に含まれていた流動性が低いものでも、デジタルで所有権を移転ができるようになり、流動性が高まると考えられることから第一項有価証券に分類された。

図1:セキュリティトークン(STO)とは

セキュリティトークンのメリット

セキュリティトークンのメリットはスマートコントラクトによって、株の配当を支払ったり、社債の利払いをしたりするなど、お金の流れを自動化することができる点だ。さらに、株主優待の付与も、同じブロックチェーン上で行うことができる。

資産の所有権の小口化ができることもメリットである。上場株式は十分に小口の取引が行われているが、より流動性が低いものは資産を売買する場がなかった。ブロックチェーンを使うことで、投資家間で資産の交換ができるようになるし、さらに小口に分割した上で小額から投資をすることができる。

また、ブロックチェーンを使うと、約定や受け渡しまでの時間を短縮することができる。

そして、証券取引に伴う、株主名簿、社債原簿などを自動更新することができる。日本の法律のもとでは、株主や社債の権利を主張するためには、株主名簿や社債原簿に名前が載っていないと、第三者に対抗できるような効力にはならないとされるが、スマートコントラクトがうまく実装できれば短時間で自動更新が可能になる。

STOの2つの意味:STOの指す範囲

留意すべきは、STOという言葉は使う人によってその定義が異なっていることがあるという点だ。1つは電子記録移転権利のことをセキュリティトークンということがある。一方で、海外でSTOというと、決して電子記録移転権利のことだけを指しているわけではなく、株式、社債、デリバティブなど、金融系商品であれば何であれSTOといっていることがある。日本の金商法の上でのビジネスの話をしていても、相手はもっと幅広い金融商品のことをイメージしていることがあることに注意が必要だ。

また、有価証券としてのトークンを指す場合と、ICOやIEOで発行されるトークンで米国の証券登録の免除規定に沿って発行されるものも含めてSTOという人もいる。これはどちらを意味しているかは明らかにする必要がある点だ。

日本におけるSTOへの取り組み

図2は大手証券会社を中心とした取り組みをまとめたものである。表の上から預かり資産の大きさ順で並んでいる。一方、口座数で見ると、野村証券は大きいが、SBI証券も大きく、若者を中心としたネット証券が受け入れられていることを象徴している。

このなかで、どういった会社が日本STO協会に加盟をしているかを見る。この日本STO協会はSBI証券の北尾社長が立ち上げた団体で、STOの自主規制団体を目指すとされている。加盟会社は、立ち上げたSBI証券をはじめ、大手の独立系証券会社の野村証券、大和証券が参加しているとともに、ネット証券である楽天証券やマネックス証券が加盟している。逆にいうと、銀行系のSMBC日興証券、みずほ証券、三菱UFJ、そして中堅の東海東京、岡三証券は加盟していない。

図2:日本の大手証券会社のSTOへの取り組み

こうした業界構造のなかで、各社がどのような取り組みをしているかを見ていく。まず、野村証券は傘下のBOOSTRY社とibetというプラットフォームを作っている。三菱UFJグループもセキュリティトークン研究コンソーシアムを立ち上げて、Progmatというプラットフォームを作ろうとしている。他社は具体的な発表をしていないが、SBI証券は以前からSBI Capital Baseという傘下の企業でICOのプロジェクトに取り組んでいることが知られている。

つぎに、日本の大手証券会社の海外へのSTOに関する投資状況を見ると、野村証券、三菱UFJ、SBI証券の3社が米国のセキュリタイズ(Securitize)社というSTOのプラットフォーム企業に出資をしている。このセキュリタイズ社のCEOは日本に居住したこともある人で、日本語が堪能だということから、日本市場を重視した戦略を立てているようだ。

また、東海東京証券はシンガポールのiSTOX(SG)というセキュリティトークンの取引所に出資をしている。

なお、それ以外の企業からは具体的な発表はない。

こうして見ると、独立系の証券会社とネット証券はSTOに取り組んでいることがわかる。一方、銀行系の証券会社はスタンスを明らかにしていないことから、来年以降はこの3社がどう動いていくのかが鍵となるだろう。とりわけ、SMBC日興証券、みずほ証券は自分たちの事業としても発表をしていないので、これからどういう発表をするかがポイントである。

STO事業参入を目指す各社のフォーカス領域

実際に発表した企業がどのような市場にフォーカスをしているのかをまとめたのが図3である。

図3:STO事業参入を目指す各社のフォーカス領域

野村証券はibetというプラットフォームで、社債、会員権、サービス利用券を扱いたいようで、最初は社債でのサービスを目指すようだ。三菱UFJグループのProgmatでは社債、証券化商品、不動産、知的財産を扱いたいとしている。報道などを見る限りでは社債を中心にサービスを目指すようだ。

各社が社債をなぜ狙っているかというと、いまでも大手企業であれば証券会社経由で社債を発行することができるが、金利も低いし、あまり証券会社に手数料も落ちない。証券会社側からするとビジネスになりにくい。もちろん、規模の小さい中堅企業などになるとあまり社債を発行するという発想がなくなる。基本的には銀行借り入れで資金需要を賄うということになる。これをすべてデジタル化して、オンラインで一元管理、自動化、そして発行できるようにすれば証券会社側にとっては、いまのやり方ではあまり効率がよくないビジネスを事業化するという意味がある。一方、個人投資家からしても、少額から投資をすることができるようになり、新たな企業にとっての資金調達の受け皿になり得ると見込まれている。

また、SBI証券についてはセキュリティトークンという形では明確にしていないがSBI Capital Baseというグループ会社でGEMSEEというプラットフォームで株式投資型クラウドファウンディングや株主コミュニティを運営し、未上場株式を対象として見据えているといわれている。また、SBIグループとしては唯一PTS(私設取引システム)事業を持っていることから、PTSとの何らかの連携も考えられる。

なお、日本STO協会とは別に、STOの自主規制団体を目指して作られた協会がいくつかあり、そのなかでも活発に活動しているのが日本セキュリティトークン協会(JSTA)という組織だ。最近は複数の不動産会社が加盟し、さらにはデロイトやクニエといったコンサルティングファーム、会計ファームが加盟していることから、不動産での実証実験を行っている。当面、不動産の証券化商品にフォーカスすると表明している。そして、2020年1月までその実証実験を行うとしている。

こうして見ていくと、おおむね、社債、未上場株式、不動産を扱うグループに分けられる。

2020年における日本のSTO市場の注目ポイント

最後に2020年の注目ポイントを指摘しておく(図4)。

すでに、STOにまつわる自主規制団体である日本STO協会については述べたが、もともとは第一項有価証券の自主規制団体としては日本証券業協会(JSDA)があり、これまでもルールを策定してきた。そのなかで、第一項有価証券に分類される電子記録移転権利のところだけ、日本STO協会が受け持つというのもややこしい話になりそうだ。また、いずれにしても、お互いが独立した関係にはならないだろう。この団体間の位置づけがこれからどう整理されるかということはポイントの1つだ。位置づけが整理された上で、日本STO協会が自主規制団体として認められるかどうか、実際、野村証券や大和証券も加盟していることからも、そこへ持っていくことにはなると目されてはいるが、それがいつになるのかという議論が進むと見られる。

また、日本の他の銀行系の証券会社がどのような形で関わってくるのかということもつぎのポイントとなる。

さらに、ステーブルコイン、すなわち価値が法定通貨にペッグされたデジタル通貨の動向である。これが法的にどのような整備がされていくのかという点だ。すでに海外にはTether(テザー)などのステーブルコインが存在しているが、それを日本に持ってこようとすると、為替取引、すなわち銀行業なのか、資金移動業になるのか、前払式支払手段になるのか、暗号資産になるのかのガイドラインは出ていない。実際にはどれか1つに集約されるのではなく、その通貨の建て付けによって、この場合はこの法律でというように分かれていくと思われるが、そこがまだ整理されていない。これが日本で整理がつくと、ブロックチェーンを使った証券決済の仕組みにおいても、実際にダイレクトな決済の仕組みとして使えるようになり、証券の取得と同時に、代金をブロックチェーン上のステーブルコインで支払うというようなことができるようになり、さらにSTO市場を進化させる可能性がある。

最後に、ビジネス面でいえば、みずほ証券やSMBC日興証券など、ビジネスとして発表もしていなく、協会にも加盟していない大手の証券会社がどういった形でこの市場に出てくるのかというビジネス的な点も見逃せない。

図4:2020年における日本のSTO市場の注目ポイント

中島 由弘

フリーランスエディター/元インターネットマガジン編集長。情報通信分野、およびデジタルメディア分野における技術とビジネスに関する調査研究や企画プロデュースなどに従事。