イベントレポート

仮想通貨レバレッジ取引は証拠金2倍までは妥当な規制か?

ビットコイナー反省会がレバレッジ規制の論理性を議論

(Image: Shutterstock.com)

「ビットコイナー反省会」はBitcoin(ビットコイン)、仮想通貨(暗号通貨)、ブロックチェーンに関する情報を配信する総合動画チャンネル。業界のキーパーソンへのインタビューや、ニュース、技術やトレンドの解説など、暗号通貨に興味のある人に向けた番組をYouTubeにて配信中の注目チャンネルである。

今回取り上げる2019年12月4日の放送は、前月の主要ニュースや事件を振り返る月1回の定例放送、「ビットコイナー反省会 Ep.43」となる。番組パーソナリティーは、ビットコイナー反省会の東晃慈氏とカナゴールド氏が務める。

【ビットコイナー反省会 Ep.43】
12月の定例放送、先月の主要ニュースや事件を振り返る

番組は、くしくも冒頭で、今年に入ってからも話題になっている仮想通貨のレバレッジ取引における最大倍率上限2倍規制について触れている。今回は、そのパートについて紹介したい。

仮想通貨レバレッジ規制の流れ

仮想通貨のレバレッジ規制の流れは、2018年頃から活発になったと解説するカナゴールド氏。当時、レバレッジの最大倍率は、上限が25倍の仮想通貨交換所もあれば、15倍、10倍など交換所によってまちまちだった。が、現在は金融庁認定の仮想通貨自主規制団体である日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)による自主規制により、日本国内の仮想通貨交換所は倍率上限を4倍に変更している。

カナゴールド氏いわく、レバレッジ規制が結果4倍に至った経緯は、あまり議論もなく論理的ではなかったという。4倍程度であれば、回避したいリスクをカバーできる範囲であろうという、偶然の結果に落ち着いたと語る。

そして、11月には、金融庁にレバレッジの倍率上限を2倍にしようとする動きがあるというリーク記事が出た(参考記事)。

また、飛ばし記事が出たのだろうと思っていたところ、その直後に金融庁の審議会で「レバレッジ上限を2倍に」と主張したのは自分であるというツイートが登場したという。その状況を、カナゴールド氏が報告している。

上限2倍を主張する中島真志氏の根拠は、米国の先物取引所CMEやEUがレバレッジ取引の倍率を2倍に規制しているのに、日本だけが4倍にする正当な理由がないという意見だ。

さらには、2020年になって、日経新聞が「仮想通貨取引、証拠金の2倍まで 金融庁が新ルール」と報じる。いずれも現時点では金融庁からの正式な発表はない。

カナゴールド氏は、中島氏のツイートは140文字という文字数制限のために、論理を省略をしたようにも見えると好意的な解釈もできるが、海外が2倍だから日本も2倍にするべきという意見よりは、ここは主体性を持ってもう少し論理的な思考や議論が必要なのではないかと指摘をする。

米国の先物取引所CMEは、なぜ上限2倍なのか?

そもそも米国の先物取引所CMEは、なぜレバレッジ上限2倍なのか? 2倍となる論理についてしっかりと考えなければならないとカナゴールド氏は主張する。

CMEは個人が直接参加して取引を行う取引所ではなく、参加したい場合はブローカーに問い合わせ、ブローカーが口座を開設し、間接的に取引してもらう場所だという。

また、CMEは基本的に証拠金の見直しが1日1回あるという。日々のボラティリティ(価格変動率)等を加味し、証拠金額が決定する。ロスカットに対する考え方もまったく違うとのこと。カナゴールド氏は、その仕組みについても番組にて詳しく解説をする。ロスカットの仕組みが違う世界と同じ計算式にしようとすることが、そもそもの誤りであることを指摘した。

取引所においては、万が一、投資家が破綻した場合、破綻処理については金融商品によっても方針が異なるという。たとえばだが、ある金融商品の破綻処理をする場合、反対売買することで1日以内にその破綻処理をクローズできるだろうということから、1日の変動リスクをカバーする相当の証拠金を預かっておけば、リスク回避できると見られているという。そういった破綻処理の背景を踏まえながら、方針が決められていくそうだ。仮想通貨交換所のレバレッジの倍率が2倍程度と決められたであろう頃は、Bitcoinのボラティリティが高く、2倍程度なら大丈夫と見られたのではないかという。

しかし、これは常に2倍に固定するのではなく、ボラティリティが低くなった場合は、もっとポジションが取れることも考慮すべきだという。前述のCMEでは、ボラティリティの変動にあわせて、どの程度の証拠金が必要なのかを、動的に変えることができる仕組みを持つという。これはCMEに限らず、他の先物取引所でも同じような仕組みがあるとのこと。

基本的にCMEでは、マーケットリスクは変動するものなので、それを動的に捉えながら見ていこうということと、破綻処理においてはポジションを処理するのに1日程度かかるので、1日のリスクを見ておこうという論理で構成されていると、カナゴールド氏は解説する。この仕組みを、SPANというそうだ。

これに対し、日本の仮想通貨交換所における板取引の例では、ポジションをクローズさせる必要がある場合というのは、一瞬にして発生する。急な相場の変動で証拠金維持率が下回ると、勝手にロスカットされ、ポジションがクローズされるという。結果として、負け分となる金額を証拠金でまかなえないという状況を発生させぬように、若干、早めに強制ロスカットが入る仕組みになっているという。

つまり、ここでの証拠金は、強制ロスカットの発生から、実際にポジションがクローズされるまでに、どれだけ相場が変動するのか、その範囲を補うものだという。ポジションのクローズにかかる時間軸が、まずCMEとは違うという点をカナゴールド氏は挙げている。CMEでは1日程度のターム感だが、日本の仮想通貨交換所では瞬間的な相場変動である、いわゆる(ローソク足の)ヒゲのリスクを見なければならない。ヒゲのリスクは、2倍という倍率でも危険な状況に陥ることもある。また、ヒゲの長さは、仮想通貨交換所によってまちまちであり、その交換所の板の厚さもまた重要なファクターであるとカナゴールド氏はいう。

リスクベースでの議論が必要

国内仮想通貨交換所がレバレッジ倍率を一律4倍なり2倍なりにする決定の仕方がそもそもナンセンスであり、なぜ、カバーするリスクから考えないのか、個別の事情を考慮したうえで制度設計をしないのか不思議でしょうがないと指摘する。レバレッジ規制に問題意識を持っている人に対しても、はたしてしっかりルールを把握しているのか疑問符を付ける主旨の指摘もあった。

これまでのレバレッジ倍率に関する規制の議論は、射幸心を抑えたり知識の少ない一般投資家が意図せず不利益を被らないようにするための投資家保護の文脈と、仮想通貨交換業社に未収金を発生させないというリスク管理の文脈との議論を一緒くたにして行われてきている。レバレッジ規制をまともに議論したいのであれば、いったん定性的要素の強い投資家保護の文脈を離れ、リスクベースで議論した上で規制について考える必要があるとカナゴールド氏はまとめている。

また番組では、レバレッジ倍率上限が非常に高い海外の仮想通貨交換所の仕組みについても解説を行っているほか、前述のヒゲリスクをカバーする方法論についても言及している。CMEが持つ、万が一、証拠金が足りなくなった場合の解決策である清算基金についても触れているが、つまり、こういった仕組みを用意せずに、また議論も行われないまま、海外では2倍なのだから日本も2倍にすべきというのは、論理的ではないとカナゴールド氏は語る。

訂正のお知らせ: 最後から2つ目の段落「これまでのレバレッジ倍率に関する規制の議論は(中略)リスクベースで議論した上で規制について考える必要があるとカナゴールド氏はまとめている。」について、カナゴールド氏からの指摘を反映した内容に訂正いたしました。

高橋ピョン太