インタビュー

HAKUHODO Blockchain Initiativeが提供するマーケティング領域におけるブロックチェーン活用サービスの本当の狙い

価値のインターネットを構築することで生活者の「失われた幸せの時間」を取り戻す

HAKUHODO Blockchain Initiativeの伊藤佑介氏

 昨年9月に株式会社博報堂が発足した「HAKUHODO Blockchain Initiative」(博報堂ブロックチェーン・イニシアティブ)は、マーケティング領域におけるブロックチェーン技術を活用したソリューションの開発を進めている。3月18日、同社は新サービス「TokenCastMedia(トークン・キャスト・メディア)」を活用し、深夜ラジオ番組の放送内でDAppsゲームのキャラクターやアイテムを配布する試験放送を実施した。また、番組の放送に併せてブロックチェーンエンジニアコミュニティ「BlockchainEXE」によりイベントが開催され、みんなで番組を聞きながらキャラクターを受け取るパブリックリスニングイベントが行われた。

 これまでにもHAKUHODO Blockchain Initiativeは、トークンコミュニティを解析する「トークンコミュニティ・アナライザー」や、デジタル広告をトークン化する生活者参加型の新しいプロモーションサービス「CollectableAD(コレクタブル・アド)」など、半年の間に矢継ぎ早にサービスを発表するなど、ブロックチェーン技術の活用に対して意欲的な取り組みを見せている。

 今回は、その精力的な活動について、HAKUHODO Blockchain Initiativeが目指すブロックチェーン活用の将来的展望とその原動力となる源を探りたく、HAKUHODO Blockchain Initiativeの伊藤佑介氏に詳しい話を直接伺うことにした。

まずはサービスの紹介から

 インタビューで伊藤氏は、同社サービスの詳細から語り始めた。ブロックチェーンに関する活動は、すべてHAKUHODO Blockchain Initiativeにてチームで行っているとのこと。この半年間でリリースしたサービスは、まさに前述の3つだという。

 HAKUHODO Blockchain Initiativeは、昨年11月に最初のサービスとなる「トークンコミュニティ・アナライザー」をリリース。「トークンコミュニティ・アナライザー」はブロックチェーンサービスを提供する企業に向けて、サービス内のユーザーコミュニティがどのように活性化し得るのかということを、グラフ理論をベースとしたネットワーク分析という統計的手法を使って分析する環境をツールとして提供する。

 ブロックチェーンのサービスでは、トークンに何かしらの価値を込めてユーザー同士が交換することになるので、ツールはその交換状況からコミュニティの活性状況を統計手法を使って把握する。今、コミュニティが良い状態か悪い状態かを把握し、その要因を分析することで、実際に参加しているユーザーの影響力を統計的に割り出し、最終的にどのユーザーのどんな行動がコミュニティを活性化させたのかを特定する、といったような分析を行うことができるという。また、分析から得られた知見を踏まえて、コミュニティをさらに盛り上げるための施策を検討し、実際のコミュニティ活動にまでつなげるというような、支援ツールでもあると伊藤氏は「トークンコミュニティ・アナライザー」について簡単に解説する。

 現在、公にできる導入事例としては、株式会社ALISのブロックチェーンを活用したソーシャルメディア「ALIS」と、株式会社Gaudiyのプロダクト共創プラットフォーム「Gaudiy」の2社の事例を挙げ、それぞれに「トークンコミュニティ・アナライザー」を導入し、コミュニティの活性化に寄与できるよう共同研究中であることを明かした。

トークンコミュニティ解析イメージ(リリースより引用、以下同)

 2つ目のサービスは1月にリリースした、デジタル広告をトークン化する生活者参加型の新しいプロモーションサービス「CollectableAD」。デジタル広告のバナーをトレーディングカードに見立てて、決められた1セットを集めると広告主からサービスや商品を受け取ることができるという、新しい形の広告であるという。

 「CollectableAD」は、元々2年前から構想していたものだという。HAKUHODO Blockchain Initiativeの発足前からアイデアを温めていたそうだ。その当時から、ブロックチェーンに関する思考実験をしていたという伊藤氏。この業界に仮想通貨派とブロックチェーン派がいるとすれば、自分は確実にブロックチェーン派であるという。そんなブロックチェーン派である伊藤氏は、ブロックチェーンの金融領域における応用例として暗号通貨がある一方で、広告領域の応用例として暗号広告というものを考えた場合、それがどういうものになるのだろうか、ということを思考実験していたという。

CollectableADのイメージ図

暗号広告とは何か?

 伊藤氏はブロックチェーン派ではあるが、悔しいかな、2年前のその時点ではブロックチェーンが唯一社会実装されていたのは暗号通貨だけだった事実は認めようと思ったという。そこで暗号通貨の成功ポイントを押さえて、暗号広告というものを規定すると、どういうものになりえるのかを考えたという。

 暗号通貨の成功ポイントは諸説あると分析をする伊藤氏。暗号通貨はサトシ・ナカモトの論文で成り立っているが、ブロックチェーンの技術的な要素である公開鍵/秘密鍵、コンセンサスアルゴリズム、P2Pネットワークといった特徴がありつつも、伊藤氏自身が思ったのは、そういった技術そのものが成功要因ではないとのこと。

 伊藤氏の思う成功要因は2つ。1つは、役割分担と報酬設計というゲーム性だという。参加する人それぞれに役割と報酬が設定されていることが大事とのこと。仮想通貨の場合は、マイナーという役割の人がいてトランザクションにかかる処理を行って、報酬としてBitcoinを受け取る。ユーザーという役割の人は、Bitcoinと法定通貨との取引で差益という報酬を得る。また仮想通貨交換所という役割の人は、ユーザーが仮想通貨の取引をする際の法定通貨との兌換の手助けをし、その報酬として手数料を得る。こういったゲームにあるような役割分担と報酬設計があって、それぞれの人が参加する動機づけができているというのが成功要因の1つだという。

 もう1つの成功要因は、経済的な出口があるということ。つまり、暗号通貨が経済的な価値のある法定通貨に代えられるという要素は大きいという。経済的インセンティブがあることで、人々は参加するというのだ。

 伊藤氏は、暗号広告というものがあるとすれば、それはどういう機能を持つべきかを、暗号通貨の機能を踏まえ、それと対比しながら考えたという。暗号通貨の場合、2つの機能をもつ。まず生活者は、暗号通貨を所有できること。次に生活者は暗号通貨を移転(送受金)できること。すなわち保有と移転ができることが暗号通貨の2つの機能である。そこを発想の起点として、暗号広告というものはどういう機能をものになるのだろうかと考えたそうだ。

 広告領域の場合は、生活者と広告主、そして媒体社(メディア)といった3つの関係者がいるが、それぞれにとっての機能をまず規定していく。まず生活者は暗号広告というものを所有できるとする。次に広告主は、暗号広告を届けた生活者を特定できる。最後に媒体社は、暗号広告を自分が媒介したということを証明できる。所有と特定と証明、この3つの機能を基本機能として規定したという。

 これらの機能を考える際に、まず新規性がないと開発する意味がないと思ったという伊藤氏は、生活者が暗号広告を所有できることに新規性はあるかどうかを考えたという。たとえば通常の広告の場合、テレビCMは録画してダビングができるし、新聞広告もコピーができる。では、デジタル広告はどうか。デジタルもバナーの画像はコピーができる。つまり複製ができてしまうため、生活者がもっている広告が実際に広告主がメディアで届けたものであるかどうかということを厳密に証明することはとても難しい。一方で、ブロックチェーンによって生活者に所有権を与えることができる暗号広告であれば、所有を証明することが技術的に可能となるため、そこには新規性があると考えたという。

 同様に広告主が、広告を受取った相手を特定できることに新規性はあるのか? まずテレビCMや新聞広告はオフライン広告なので、広告主はテレビを見た人や新聞を読んだ人というのを具体的に特定することは難しい。ではデジタル広告はどうかというと、デジタル広告ではWebはブラウザのCookieで特定はできるが、Cookieに期限があるのである程度の期間が経つと特定することが難しくなってくる。また、アプリ広告であれば、広告IDで特定はできるが、実際に生活者がどの程度の興味をもって広告を取りにきたかというところまでは把握が難しいという。一方で、暗号広告であれば、ユーザー自身が能動的に受け取るというアクションをしない限りは暗号広告を手に入れることができないので、確実に自らの意思で興味をもって広告を手に取った生活者を特定できる、というところに新規性があるのではと思ったという。

 最後の媒体社の証明の点では、テレビCMや新聞の広告においては「生活者にそのメディア上で実際広告を見てもらい、かつ、その情報に興味をもってもらっている」といった事実はあるももの、それをデジタル広告と同じくらいのレベルでアクチュアルデータで直接証明することはまだ難しいという。また、デジタル広告においても、実際にクリックされたとしても、どういう理由でクリックしたのか、どの程度興味を持ってクリックしたのかなど、その気持ちまでを計測するところまでは今は難しい。一方、ブロックチェーンを使って広告を所有可能なデジタルアセットにすることで、生活者は自分の意思でそのデジタルアセットである広告を集めたいという気持ちになるため、どの媒体社のどのメディアが能動的に広告を受け取られやすいかを証明することができる。そのため、媒体社にとっても新規性があり、結果、自らが構想した暗号広告は開発する意義はあるにちがいないと考えたと、伊藤氏は語る。

暗号通貨の成功をなぞって暗号広告のサービスを設計

 では、暗号広告のゲーム性とは何か? 改めて暗号広告とはどういうものかを考えたときに、バナー広告を例えばトレーディングカードに見立てたらどうかという発想が生まれたという。さらに、その経済的出口を考えたときに、広告主は価値のあるサービスや商品を持っているので、生活者がトレーディングカードゲームとして集めたバナー広告を一式そろえることで、広告主が生活者に対して価値のあるサービスや商品を提供するという図式を思いついたという。

 ここでしっかりと伝えたいのは、伊藤氏はトレーディングカードゲーム風のものが作りたかったわけではなく、また企業プレゼントキャンペーンがやりたかったわけでもないということ。あくまでも暗号通貨の2つの成功ポイントを押さえた形の暗号広告というものが作りたかったという。その上でゲーム性と経済的出口を考えたら、たまたま今回はトレーディングカードと企業プレゼントキャンペーンがしっくりきたということだった。

 またブロックチェーンというのはツールであり、ブロックチェーンがそのサービスに使われているかどうかは一般の生活者には全く関係ないので、それが意識されずに使われることが成功だと思っているという伊藤氏。「CollectableAD」をリリースして一般のメディアに取りあげてもらった際に、ほとんどブロックチェーンというワードがなく「カードのように集めて特典、博報堂が消費者参加型の新しい広告を開発」と報道されたのは喜ばしいことだったと、当時について語る。博報堂が、生活者に楽しんで能動的に広告を取りにきてもらえる新しいキャンペーンサービスを考案したと取りあげてくれたことがうれしかったそうだ。一方で、もちろん伊藤氏は、ブロックチェーン業界の方とは、暗号広告という発想が起点となったという開発背景の話で盛り上るのもうれしいと笑顔を見せた。

「CollectableAD」で実現したかったこと

 伊藤氏は小学4年生ぐらいの頃にファミコンの「ドラゴンクエストII」が出た世代だという。当時はインターネットもない時代で、伊藤氏はゲームが発売される前に当時のゲーム雑誌に掲載されていた「ドラクエII」の広告から、自分の好きなキャラクターで鳥山明先生が描いたサマルトリア王子の絵を切り抜き、透明の下敷きに挟んで、発売日までそれを見てニヤニヤしていたという。何がいいたいのかというと、広告はそういうふうに所得されるものだったということだ。気持ちとして「CollectableAD」には「広告を再び所有されるものにしたい!」というメッセージを込めていて、ブロックチェーンを使えばデジタル広告を生活者が所有したいと思う価値あるものにできるのでは、と考えているのだという。小学生の時代に「ドラクエ」の広告を所有していたのは、やはり広告に価値があったからに他ならないと、伊藤氏は語る。

 同サービスの開発はアドテクノロジーやスマートフォンアプリの事業を展開しているユナイテッド株式会社とブロックチェーンエンジニアリングベンチャーのYuanben社と共同で取り組んだという伊藤氏は、開発が始まった当時のいきさつについても明かしてくれた。

 伊藤氏が昨年の夏、Yuanben社の担当者と出会った際に「CollectableAD」の構想について話すと、担当者は「伊藤さん、それは素晴らしい。そんな広告業界におけるブロックチェーンの社会実装の例は世界中見てもどこにもない!」と言ってもらい互いに意気投合し、その場ですぐに一緒に開発しましょうという話になり、Yuanben社が参加することで「CollectableAD」が構想から実現に向かって動き出したという。Yuanben社はアプリの開発もしているベンチャー企業なので、「CollectableAD」の開発を丸ごと担当するという話も当初はあったが、もう1社、別の縁で博報堂DYグループの企業でスマートフォンアプリ事業を展開するユナイテッドがその座組に加わることになったという。というのも、ユナイテッドと博報堂はちょうど2018年9月に「ブロックチェーン・イノベーション・ラボ」を共同プロジェクトとして発足し、ブロックチェーン技術を活用した新たなマーケティング・ビジネスの研究開発を行っていたことから、その活動の中でアプリについてはユナイテッドが担当してくれることになったそうだ。

HAKUHODO Blockchain Initiativeとしてのブロックチェーンの捉え方

 3つ目のサービスを紹介する前に、伊藤氏はHAKUHODO Blockchain Initiativeとしてのブロックチェーンの捉え方を解説する。BtoBtoCというビジネス展開が多い博報堂は、企業の課題解決のためにブロックチェーン技術を導入するが、最終的には生活者が面白いもの、使いたいものでなければ、課題解決にはならないと考えているという。生活者のことを誰よりも深く知るという生活者発想をフィロソフィーとする博報堂にとっては、ブロックチェーンはあくまでも生活者をエンパワーメントするツールの一つとなる技術であって、無理矢理導入するものではない。最終的には、そのブロックチェーンを活用したサービスを「生活者の一人として自分が実際に使いたいと思えるのかどうか」の一点に尽きると自らの考えを示した。

 我々はブロックチェーン企業でもなければ、テクノロジーの会社でもないので、「CollectableAD」など今、体現しているものも、生活者のみなさんに広告を能動的により楽しんでもらうことが目的だと語った。

新サービス「TokenCastMedia」について

 2月に発表をした「TokenCastMedia」も、経緯から話すと構想は2年前だったという。伊藤氏は当時個人的にブロックチェーンを知った際に、ブロックチェーンはインターネット以来の技術革新であることを実感し、何か自分でもトライしたいと思ったという。しかしながら、そのスタート時点では博報堂の中にも広告業界の中にもブロックチェーンに関する取り組みをしている人が見つけられず、他の業界でもいいので、とにかくブロックチェーンに関係している人とつながりたいと思ったそうだ。

 そんなときにブロックチェーンに関する本をネットで検索していたら、偶然にも一番上に出てきた本の著者の1人に伊藤氏の前職の会社の同期の名前を発見したという。そこで同期に会いに行くことになったが、手ぶらでは失礼なので、広告業界に転職した自分の視点からブロックチェーンに対する考え方やアイデアをまとめて持って行ったというのだ。

 そのアイデアが「TokenCastMedia」であるとのこと。考え方としては、マスメディアは大勢の人に一斉に情報を届けることができる素晴らしいものであるという認識から、それをさらに素晴しいメディアにアップグレードするために、これも思考実験だがテレビを見ている人に情報だけでなく、インセンティブとして仮想通貨やトークンなどの価値も配ることができないかと思ったという。そこで注目したのが、仮想通貨の特徴の1つであるマイクロペイメント(手数料のかからない小額決済)。通常は、視聴者に10円を配るとしたら、法定通貨の振込では10円を配るのに手数料として200円ぐらいかかってしまう。一方で、仮想通貨やトークンなら、手数料をほとんどかけずに視聴者に小額のインセンティブとしてそれらを配ることができると思ったというのだ。というのも、テレビは視聴者が見てくれてこそのメディアなので、そういう視聴者への還元方法も一つの方法としてはありえるのではないかと考えてみたという。

 また、テレビ局側もトークンを配ることで視聴ログが取れるので、トークンを受け取ったどんな人がどんな番組やCMを見ているかなど、新たな計測数値も分かるため、生活者とテレビ局の互いにとってメリットがあるだろうと考えた構想だったという。構想についてはその場で同期と話としては盛り上がったが、しかし実現には至らず、当時はそのまま止まっていたそうだ。

 それが動き出した契機は、昨年の11月だったと話す伊藤氏。きっかけはグループ会社である博報堂DYメディアパートナーズのメディア環境研究所が主催した「メディア イノベーション フォーラム」だったという。その中で、伊藤氏が登壇しブロックチェーンに関するテーマでディスカッションしたところ、それを聴講していた毎日放送のラジオの担当者から「直接会ってお話ししたい」という連絡があったとのこと。実際に年末に会い話をしてみたら、その方もブロックチェーンへの造詣が深く、話が盛り上がり「ぜひ何か一緒にやりたいですね」といわれたという。

 その言葉をきっかけに、ふと2年前の「TokenCastMedia」の記憶がよみがえり、ラジオもマスメディアだということから、テレビからラジオでできることに考え方をシフトし、また2年前は社会実装されているものが仮想通貨しかなかったが、今は仮想通貨以外にDAppsゲームもあるという考え方に切り替えて、ラジオでブロックチェーンゲームのキャラクターやアイテムを配るという着想に変わり、それを毎日放送の担当者に話したという。するとここでも「それ素晴らしい。ぜひやりましょう」という話に発展したというのだ。

「TokenCastRadio」のイメージ図

奇跡的にすべての座組が整う

 最初にメディアが決まった。そこから肝心のブロックチェーンゲームはどうしようというときに、思い出したのが1か月ほど前にブロックチェーンに関するイベントへの登壇依頼を受けた株式会社Framgia(2019年3月、株式会社Sun Asteriskに社名変更)だったという。Framgiaが、ブロックチェーンゲームを年明けにリリースするということを年末に話していたことを思い出し、すぐに会いに行き、こういう構想があるという話をしたら、Framgiaもぜひやりたいといってくれ、話がまとまったという。ゲームは、Framgiaの「Cipher Cascade」(サイファーカスケード)に決定した。

株式会社Framgia(現:株式会社Sun Asterisk)が開発したDAppsゲーム「Cipher Cascade」

 実際に番組でキャラクターやアイテムをどう投げる(配信する)かについては、あらかじめ構想にあったという。その仕組みは、番組の音声の中に音声透かしを入れて放送するという方法だ。音声透かしにアイテムやキャラクターのコードを入れて放送し、番組音声を専用スマホアプリでキャッチして音声透かし音をコードに変換することでアイテムやキャラクターを手に入れることができる仕組みを導入するという。アプリは、音声透かしからコードを抽出し、かつラジオ番組を放送している時間帯にそのコードを持っているということを判断し、リアルタイム視聴者だけがアイテムやキャラクターを受け取ることができるのだという。

 音声透かしについてはその技術を持つエヴィクサー株式会社に、ゲームはブラウザゲームなので音声透かしをキャッチするアプリはブラウザ機能付きのウォレットアプリが必要ということで、その技術を持つトークンポケット株式会社に、それぞれ声を掛け、ここでも今回の構想を話すことで、ぜひやりましょうと二つ返事で決まったという。伊藤氏いわく、全てブロックチェーン関係者の友情で実現したとのこと。

 試験放送する番組は、毎日放送の深夜ラジオ番組「オレたちやってマンデー」に決定、番組とのやり取りに博報堂DYメディアパートナーズが参加し、急ピッチで座組はそろったという。

試験放送に向けて

 毎日放送の深夜ラジオ番組「オレたちやってマンデー」は、毎週月曜日24時から24時30分の放送、出演者は蒼井翔太、クロちゃん(安田大サーカス)、須田亜香里(SKE48)、坪倉由幸(我が家)、久松郁実、渡辺舞の6名(50音順)。試験放送日に決定した3月18日に向けて、全3回の放送で盛り上げていくことになったという。

 2月18日の1回目の放送では、まず企画の趣旨を出演者とリスナーに説明し、番組中でゲームのキャラクターをトークンとして配信する旨を解説。せっかくなので配信するキャラクターは番組オリジナルのキャラクターにしようということになったという。実際に6名の出演者が、キャラクター案を番組内で考えたそうだ。

 3月4日の2回目の放送では、前回考えたアイデア案の中からFramgiaのゲームデザイナーが1つだけキャラクターを選び、実際にデザインしたものを番組内で披露。結果は、クロちゃんの考案した「クロちゃんロボ」に決定し、ホームページでも紹介されたという(アイデア案のみ公開)。ただしキャラクター名は、番組のキャラクターなので「クロちゃんロボ」ではなく「やってマン」になったそうだ。どんなデザインに決定したのかは、この時点ではリスナーへは非公開だったという。

 そして3月18日、3回目の放送が実際にキャラクターをトークンとして配信する試験放送の日となった。この日リスナーが、24時から24時30分の番組放送中にトークンポケットのアプリを立ち上げると、音声透かしをキャッチして「やってマン」のキャラクターをノンファンジブルトークン(NFT)として得られるという放送になったそうだ。ちなみにNFTとは、1つ1つに固有の性質や希少性を持たせることができるトークンのこと。

 この3回の放送については、企画の趣旨を出演者やリスナーにしっかりと熱量をもって伝えたほうがいいということで、番組プロデューサーの配慮で伊藤氏が博報堂のブロックチェーン有識者として番組に出演し、自ら説明を行ったそうだ。

 またこの日は試験放送と同時刻に、ブロックチェーンエンジニアコミュニティの「BlockchainEXE」主催で、みんなで一緒にラジオ番組をリアルタイムで聞きながら実際に番組オリジナルキャラクターを手に入れようという、パブリックビューイングならぬパブリックリスニングイベントが開催され、盛り上がったそうだ。深夜のイベントで終了後は終電もなくなるという状況にもかかわらず、80名超の参加者が集まったという。

「TokenCastMedia」の本当の狙い

 伊藤氏は、ここでも「TokenCastMedia」そのものを作りたかったという訳ではないという。マスメディアは大勢の人に一斉に「情報」が届けられる素晴らしいメディアで、そこにブロックチェーンの技術を加えれば、さらに進化させることができるというのだ。伊藤氏が本当に作りたいのは、マスメディアを一斉に「価値」も配信するものにしていくことだと語る。

 インターネットの進化によって、人は1日の中でインターネット内で過ごす時間が長くなっていると伊藤氏はいう。自身もそうであり、止めようのない流れだが、その一方で、これは若干、個人的な意見になると付け加えたうえで、人々の幸せの基準の中心には価値交換があるという。娘にバレンタインデーのチョコレートをもらったり、毎朝奥さんの作る朝食を食べたり、結婚記念日には花束を贈るなど、これらはすべて価値交換。価値交換はコミュニケーションの中心にあって、そういう価値交換が人を幸せにすると思うと伊藤氏はいう。

 インターネットの世界の中で生活する時間が長くなり、価値交換ができるリアルな世界で過ごす時間がどんどん短くなるということは、人間が幸せを感じられる時間も減ってきてしまうことに繋がるかもしれないと伊藤氏は熱く語る。インターネットを利用する時間が広がる中で価値交換の時間も増やすためには、今の情報を届けるインターネットを、人々が幸せを感じることができる価値交換ができるインターネットにアップグレードする必要があるのではないかというのだ。これはビジネスの観点からではなく、価値交換のできるインターネットにアップグレードすることによって、一日の中で長く過ごすインターネットの世界の中で生活者がこれまで以上に幸せになれるようになるかもしれない、と自分自身がいち生活者として思っているという。伊藤氏のやりたいことは、そういうことなのだと本当の思いを語ってくれた。

最後に

 伊藤氏の仕事の文脈でいえば、今までの「情報としての広告、メディア」というのを、「価値としての広告、メディア」にアップグレードしていきたいというのが本音だというのだ。

 それをさらにもう一歩進めるとするならば、マーケティングという分野にも携わっていることを考えると、現在のInformation Marketing(情報中心のマーケティング)を、ブロックチェーンでValue Marketing(価値中心のマーケティング)へとさらにアップグレードさせていきたいと思っているという。今やっている「CollectableAD」も「TokenCastMedia」も、Value Marketingを具体的に体現したものとのこと。そしてなぜそれをやっているのかについては、最初から話をしているように価値を届けるインターネットやメディアが生活者を幸せにすると信じているからに他ならないという。

 ブロックチェーンが実現すること、それは価値交換の限界コストをゼロにし、生活者の誰もが価値を創造して移転できるようにすることだとまとめ、そのためにブロックチェーンは必須の技術であると、ブロックチェーン派の伊藤氏は語り尽くしてくれた。

高橋ピョン太