イベントレポート

5カ年計画でブロックチェーン開発を促進した中国。活用事例を深掘り

BCCCが第2回オンライン緊急セミナーを開催

BCCCメイン会場に集う、BCCCエバンジェリストの浜谷貞祐氏(左)と奥達男氏(右)、日本テラデータ ICファイナンス担当の中山思遠氏(中央)

ブロックチェーン推進協会(BCCC)は3月17日、新型コロナウイルスの感染拡大に備え、2回目となるオンラインによる緊急セミナーを開催した。協会会員向けに3月6日にオンライン開催したセミナー内容に次いで引き続き深掘りしていく。

前回は、新型コロナウイルスによる肺炎の感染拡大防止策という観点からのブロックチェーン技術の可能性を探究する目的で、中国を中心とした海外における感染抑止に繋がるブロックチェーンの技術適用事例の紹介を行った(過去記事)。今回は、「中国におけるブロックチェーン技術適用の現状と展望」をテーマにセミナーを進めていく。

オンラインセミナーは、前回同様Zoomのウェブビデオ会議を使用し開催。登壇者も同じく日本情報通信の浜谷貞祐氏の司会進行のもと、カイカの奥達男氏と、日本テラデータ ICファイナンス担当の中山思遠氏が講師を努めた。

中国のブロックチェーン関連特許申請数は世界一

中国におけるブロックチェーン関連投資額と件数(セミナー資料より引用、以下同)

「中国におけるブロックチェーン技術適用の現状と展望」をテーマに講演を行うのは、中山思遠氏。今回は、感染拡大防止策としてのブロックチェーン技術ではなく、中国におけるブロックチェーン技術の現状を報告する。

現在、中国政府はICOやSTO、仮想通貨については慎重な姿勢を見せているが、ブロックチェーンの産業利用については積極的な姿勢を見せている。関連企業に対する支援も手厚いという。

2018年の中国におけるブロックチェーン関連特許申請数は4435件で、全世界の48%を占める。世界ランキングでは、2位のアメリカ1833件を抑え、堂々1位の座についている。ちなみに件数はあくまでも出願数であり、すべてが実用性のある特許とは限らないと中山氏はいう。

中国におけるブロックチェーン企業の数は、2018年時点で298社。アメリカの455社に次いで世界第2位となった。ブロックチェーンを業種に掲げている企業や社名にブロックチェーンと付く企業は数千社におよぶが、実質業務を行っている確認ができる企業は、この程度の数になるだろうと、中山氏は付け加えた。

中国での金融分野におけるブロックチェーン企業への投資は、2018年の実績で投資総額24億2000元(380億円相当)となった。出資会社の内訳は、86.8%が銀行、12%が保険、1.2%が証券だという。将来的な投資予測推移は、2022年までは銀行が主導しながら投資額が増加する傾向になるだろうという分析結果が出ている。

金融分野における投資額は2020年には39億7000元(623億円相当)、2022年には92億7000元(1455億円相当)まで増加すると見られている。出資会社の内訳は、最終的に89.8%が銀行、7.6%が保険、2.7%が証券になると予測される。ちなみに銀行が主導する傾向が続くのは、ブロックチェーン技術の応用先として、資産管理、サプライチェーン、海外送金等、銀行での利用シーンが想像しやすいためのようだ。それに対し保険分野や証券分野では、まだ応用先が見えにくいことが理由に挙がっている。

中国での金融分野におけるブロックチェーン投資の推移

テックジャイアントの取り組み

中山氏は、最初にアリババやテンセントなど中国のテックジャイアント企業によるブロックチェーンへの取り組みについて解説する。テックジャイアントは、自社サービスでブロックチェーンを使うのみならず、独自開発のブロックチェーン基盤を金融機関等にも提供をしている。

アリババの金融子会社アント・フィナンシャルは、ブロックチェーン関連の専門部署を持つ。同社が自主開発したブロックチェーン基盤は、10億アカウントにサービスを提供し、1日に10億件の取引を処理していることでも知られている(過去記事)。同社は金融機関向けクラウドサービス上でブロックチェーンを使ったサービスを開発できる複数のツールを提供する。金融以外にも、行政、物流におけるトレーサビリティ、著作権の管理、不動産賃貸管理等、様々な業界向けにソリューションを提供中だという。

中国IT大手でメッセージアプリ「WeChat」を運営するテンセントもまた、ブロックチェーン開発、サービス提供をする専門部署を持つ。独自のブロックチェーン開発基盤FISCO BISCOを開発する。ブロックチェーンを使った金融サービスなどを開発できるツールの提供や、アント・フィナンシャル同様、金融以外にも、様々な業界向けにソリューションを提供している。

中央政府によるブロックチェーン関連政策

中国政府は、2016年の「第13次5カ年計画」にてブロックチェーン開発、利用に対する支援強化を採択した。ブロックチェーン技術の開発支援、管理監督基準、技術標準化にかかわる様々な政策を立案する。国務院は、「『第十三五(第13次5カ年計画期、2016年から2020年)』国家情報化計画の通知」を行い、ブロックチェーンを戦略的先端技術と定義し、積極的な技術開発と支援を行うことを決定した。また、国務院に属する工業及び情報部が、ブロックチェーンに関する白書を発表している。

その後、中央政府は2019年上半期までに45の政策を立案。北京、上海等を中心とした地方政府は187の政策を立案している。中央政府による政策は、技術開発促進から技術基準の作成、規制監督までを対象としている。地方政府の政策は、地元での産業育成、利用促進を中心とした政策を行っている。

また、国家インターネット情報弁務室は「ブロックチェーンデータサービス 管理規定」を発表し、ブロックチェーンデータサービス業者の安全管理に関する責任、満たすべき技術要求、記載すべき規約や宣誓、受けるべきアセスメント等について規定した。

地方政府によるブロックチェーン関連政策として、地方政府はVCファンドの立ち上げ、各種補助金の支給などブロックチェーン技術の開発等を支援している。具体的には、研究施設の設立支援、産業パークの設立、企業の人材確保支援、補助金制定、登記条件および規制緩和と、政府内の金融、EC、物流などでブロックチェーンの利用促進などを行っている。2018年12月時点で9つの地方政府で合計400億人民元相当のブロックチェーン投資基金が設立されているという。

具体的なブロックチェーン応用事例

中国における主なブロックチェーンの応用分野

広東省税務局は2019年1月に、電子商取引を対象としたブロックチェーンを使った電子請求書発行システムを開発。ブロックチェーンを活用し、データの自動取得を可能にし、データ共有を安全かつ容易に行えるシステムを実現、納税プロセスの効率性と透明性を高めている。これまで企業側の負担になっていた十数日ほどかかっていた納税に関する各種手続きを、秒単位で完了させることができるようになったという。

司法の分野においても電子証拠の採取、保全などにブロックチェーンが活用されている。杭州オンライン裁判所をはじめ中国全土7つの地域の裁判所にて、裁判に関連した各種記録、身分確認等の電子的に採取した証拠、書類の保全と記録にブロックチェーンを活用している。また、著作権保護企業のシステムと連携し、違反行為の証拠をダイレクトに裁判所の電子証拠保全システムと共有しているという。

医療の分野においては、カルテの共有やワクチン接種記録などにテックジャイアントが提供するブロックチェーンが活用されている。テンセントは、ブロックチェーンを使った電子カルテを提供する。病院内の各部門とカルテ共有ができるほか、外部機関ともカルテの安心・安全共有が可能だという。

また、アント・フィナンシャルの未来病院プラットフォームの電子処方箋にブロックチェーンが使われているそうだ。処方箋の発行から薬剤師による調合、薬の配送までを一括管理している。京東集団(JD.com)では、ブロックチェーンを使ったワクチン接種管理システムを提供。ワクチンの生産から輸送、接種までを管理する。患者は、スマートフォン上からワクチンの接種記録等を確認することができるという。

その他にも、国際貿易やサプライチェーン、証券化プラットフォーム、オンラインバンクによる銀行間取引や決済照合等、ブロックチェーンが得意とする分野で、すでに中国では多数の事例が見られるという。

オンラインによる緊急セミナー第2回では、中国におけるブロックチェーン技術適用の現状が理解できた。中国政府による2016年の「第13次5カ年計画」におけるブロックチェーンへの支援強化策は、予想以上の成果をあげている印象を受けた。将来におけるブロックチェーンに関しても、今後の中国の動向は無視できない時代になりつつある。

高橋ピョン太