イベントレポート

Facebook仮想通貨リブラに関する有識者座談会をBCCCが開催。三者三様の分析と期待

「将来性感じない」「世界中の人が電子財布を持つ」「金融イノベーション促進」

Libra座談会の様子(写真左から、平野氏、杉井氏、大石氏、増島弁護士)

一般社団法人ブロックチェーン推進協会(BCCC)は7月1日、Facebookが新たに発表した仮想通貨Libra(リブラ)に関する特別講座および緊急座談会を開催した。Libraは運用主体であるLibra協会が6月18日にその全貌を公開し、2020年にリリースを予定している。Facebookを含む名だたる企業からなるコンソーシアムが運用する。

本稿では、緊急座談会の討論をまとめる。会はパネルディスカッション形式で行われた。パネリストとして、カレンシーポート・代表取締役兼CEOの杉井靖典氏、ビットコイン研究所・代表の大石哲之氏、森・浜田松本法律事務所の増島雅和弁護士の3名が登壇した。司会進行はBCCC・代表理事の平野洋一郎氏が務める。

Libraは全ての人に金融サービスを提供する。現在金融サービスを受けられていない市民の反応は?

平野氏:Libraはホワイトペーパーによると、金融システムにアクセスできない人にも利用可能な金融システムとして機能することが謳われている。普段ベトナムで活動している大石氏、現地での反響はいかがか?

大石氏:ベトナムではLibraは全く話題にはなっていない。ベトナムは典型的な「銀行を信頼できない国」と言える。ほとんどの人は銀行の預金口座を持っていないので、そういった意味でLibraのターゲットとしては当てはまるだろう。また、Facebookの普及率は非常に高い。ベトナムの人がLibra自体に興味や理解を示さなくても、Facebookの一機能として導入されれば普及する可能性はあるように思う。

LibraがFATFの規制をクリアできるか

杉井氏:Libraは本格的なプログラマブルマネーになる。このサービスはペイメントができるというのがまず見えているところだが、ペイメントを行った後の分配処理などをスマートコントラクトを用いて自動化することができる。グローバルな通貨として利用できるならば、既存の経済システムを大きく作り替えるイノベーションになる可能性がある。

また、KYC(本人確認)に関する問題点として、Libraは匿名性がある。いわゆる匿名性仮想通貨のようなものではなく、個々のウォレットアドレスとユーザーがひも付かない仕組みとなる。取引の都度ウォレットのアドレスは変わる仕様だ。

Libraの購入や売却には、公認再販事業者を介するため、そこでKYCが行われる。問題となるのは個別に送金するときである。発表された仕様では、個人間で送金を行う際、送金者のウォレットアドレスとユーザーがひも付かないまま、すなわちKYCがされないまま、送受金が完了してしまう。ここで、公認再販事業者が送金者に対して「送金認可トークン」を付与する仕様を取り入れれば、システム的にKYCを行うことができる。今後、こういった仕組みが実装されるだろうと予想している。

杉井氏が考案したLibraの個人間送金でKYCを行う方法

増島弁護士:FATFのガイドラインでは、どこに送ったのかについても記録することが必要になった。この仕組みで送り主についてはKYCが行えるが、もう1つ同様の仕組みを組み込んで、受取人側のKYCも行う必要が出てくるだろう。

Libraが普及する可能性は?

平野氏:KYCは仮想通貨全体にかかってくる話となる。Libraに話を戻すと、今後普及する可能性についてはいかがか?

大石氏:普及するとは思わない。技術的・内容的につまらないし結構無理があるというのが率直な感想だ。設計と実際に運用するものと、かかってくる規制の間でかなりのずれがある。ユースケースも丸投げしているように見え、実際どう使われるのか想像がつかない。「一発目の花火」で終わるだろう。

杉井氏:割と使われるようになると思う。プログラマブルマネーのプラットフォームなので、ユースケースについては丸投げされた方が逆にいい。Libraを用いるアプリケーション事業者がいっぱい出てきて、そのアプリ内の支払いに使うコインをプログラマブルに扱えるというのは価値がある。ただし、やはり法律の枷という部分で苦戦することになるだろう。それから、スケーラビリティの問題もある。

大石氏:スケーラビリティはまるっきりない。とても10億人が使えるとは思えない。多くのブロックチェーンはスケーラビリティを改善する新しい手法、マルチチェーンやインターチェーンなどを取り入れている。こうしたものが第3世代ブロックチェーンと呼ばれる。Libraは技術的に真新しいものがないので将来性を感じない。

増島弁護士:Libraのホワイトペーパーはここ5年ぐらいかけて仮想通貨周辺で法的に議論されてきた内容と全く違うことを書いている。既存のフレームワークに当てはめて、当局がこれを評価するには時間がかかる。この評価が終わってはじめて規制とのギャップが見えてくるだろう。そこから改善などを行っていくことになる。日本でいう金融庁に対して行うロビー活動を、グローバルに世界中の各国に対して行うことになる。これには1000億円規模のコストがかかるのではないだろうか。

Libraへの期待

平野氏:ここまでネガティブな意見もあったが、最後にLibraに期待することは?

大石氏:Libraにはいろんな意味で議論を巻き起こして欲しい。仮想通貨を取り巻く技術は、長期的に議論していかなければならない。より多くの人が仮想通貨について真剣に論じる機会が生まれれば、Libra自体が成功するかしないかに関わらず、それは有意義なものとなるだろう。

杉井氏:Libraを通じて世界中の人が電子財布を持つ世界が実現するなら、いろんな夢を見られる。その点で私はこのプロジェクトを高く評価している。

増島弁護士:規制側の人たちは、なるべくエンドユーザーに影響の少ないところから慎重に実施していくというロードマップを描いている。今回、Libraが行ったのはその真逆の、エンドユーザーに直接影響を与える提案となる。これは議論を飛躍的に進め、国際的金融のイノベーションを促進する可能性がある。こういうところに投資できる会社はGAFAぐらいだが、今回そのFacebookが名乗りを上げているわけで、私としてはLibraのプロジェクトは大歓迎だと思っている。

日下 弘樹