イベントレポート
分散型金融は金融を自動化するプログラマブル・マネー
DeFiを解説するBCCC金融&トークンエコノミー合同部会
2020年3月31日 13:29
ブロックチェーン推進協会(BCCC)は3月26日、第1回金融&トークンエコノミー合同部会を開催した。新型コロナウイルスの感染拡大に備え、オンラインによる定例部会の開催となった。本来、部会は協会会員向けに開催される定期セミナーだが、ブロックチェーンに興味を持つ一般に向け、4月末日までは会員以外も参加することができる。
今回の部会は、BCCCエバンジェリストでありトークンエコノミー部会部会長の奥達男氏の司会進行のもと、オンチェーン流動性プロトコルを開発するKyber Network日本責任者の堀次泰介氏を講師に迎え、分散型金融(DeFi:Decentralized Finance)をテーマに「第1回 DeFi」と題した講演を行った。
分散型金融が生まれた経緯
シンガポールに活動拠点を構えるKyber Networkは、DeFiに関連する同名プロジェクトおよびコミュニティを主宰する。その日本代表を務めるのが堀次氏である。
堀次氏は、DeFiを知るためにその誕生の経緯を解説する。
まず、DeFiにとって大きなポイントとなったのは、Ethereumの誕生であると堀次氏はいう。Ethereumの考案者であるヴィタリック・ブテリン(Vitalik Buterin)氏は、ブロックチェーン技術の仕組みにおいて「Bitcoinは、一機能に特化した電卓のようなもの」と語り、「スマートフォンのように様々なアプリケーションが動くブロックチェーンを作りたい」という思いから、スマートコントラクトを実装したブロックチェーン、すなわちEthereumを誕生させたという。
スマートコントラクトによって、パブリックチェーン上に誰でもアプリケーションが構築できる環境が生まれ、多くの開発者がEthereumを使った分散型アプリケーション(DApps)を開発するようになった。やがて、DApps開発の資金調達としてEthereum上でトークンを発行し投資家を募るICOのブームがやってくる。ICOはグローバルな環境下ではやるも、詐欺まがいのものも多かったことから、結局、社会的信用を失う結果となり、ブームは去った。しかし、そのおかげでEthereum上にはたくさんのトークンが誕生した。
この様々なトークンの誕生をきっかけに、トークン交換を目的としたDAppsによる分散型取引所「DEX」が登場した。これまで仮想通貨やトークンの交換は、仮想通貨交換所を介し取引が行われるのが常だったが、DEXの登場により仮想通貨交換所に送らずして、非中央集権によるトークン交換が可能になったのだ。それが2018年頃の話だ。DEXは、分散型金融のはしりということになる。
また、DEXの登場によりDAppsがより身近な存在になったと堀次氏はいう。DAppsはますます注目されるようになった。DAppsを使うことでもっと多機能な金融アプリが開発できるだろうという開発者が増え、2018年8月にはDeFiコミュニティが誕生する。
コミュニティの発足により、初めてDeFiという言葉も使われるようになった。これが、DeFiの始まりとなったという。オープンでパブリックなコミュニティは、パートナーシップではなく分散型金融プロダクト開発のための集まりだ。誰でも加入することができ、みんなで金融プラットフォームについて語り合うことができる場ができた。
実際のプロダクト例
堀次氏は、実際のDeFiプロダクトをいくつか紹介した。
最初に、DeFiプロダクトとして最も有名なものの1つとして「Maker DAO」を挙げた。Ethereumの分散型金融MakerDAOは、Ethereumを担保に(現在のMaker DAOは、他の仮想通貨にも対応)1DAI=1ドルの価値を保つドルペッグのステーブルコインDAIを発行する。
Maker DAOがユニークなのは、仮想通貨を担保にしているところ。Maker DAOは、預り主体を作らずに、発行手数料や利率によりDAIの需給バランスを調整し、1DAI=1ドルに近づけてDAIを自動発行する分散型の金融システムであると、堀次氏は解説する。特定の主体に依存しないMaker DAOは、他のDeFi開発にも不可欠な存在になっているという。
さらに紹介するのは、レンディングプロトコルの「Compound」。Compoundは、仮想通貨の貸し借りを行うDeFiアプリケーション用の融資プロトコル。貸し手は、使用していない仮想通貨をプールし、借り手はプールより仮想通貨を借りて利息を払う。ざっくりいうと銀行業務のような働きをするスマートコントラクトだと、堀次氏はいう。利率は需給バランスから自動計算されるのがポイント。獲得した利息は、プールに仮想通貨を提供した貸し手が山分けをする。これも自動化されている。
また、投資信託やETF(上場投資信託)のようなアプリ「Set」というものも存在するという。Setは、自動的に仮想通貨のポートフォリオをリバランスする。具体的には、仮想通貨の資産価値をDAIで50%、Bitcoinで50%に保ちたいというような場合に、“DAIとBTCを50:50”というSetを活用(購入)する。Setは、価格情報を参照し、規定通りに売買を自動実行する。ユーザーは、好きな戦略(Set)を選び購入するだけで、仮想通貨による投資信託のようなことが可能になる。
現在は、こういったDeFiプロダクトが特に注目されているそうだ。
DeFiと通常の金融との違いについて
DeFiがこれまでの金融と大きく違うのは、金融を自動化するプログラマブル・マネーである点だと、堀次氏はいう。
DeFiは、スマートコントラクトによって、あらかじめ決められたルールにのっとり、金融を自動化することができる。しかも、分散型であることから、第三者の介入なしにそれらを自動実行することができる。DeFiによって金融を自動化することで、わずらわしい手作業が省け、同時に効率化を図ることも期待できるといわれている。
多種多様な通貨を容易に交換できたり、世界中どこでも誰とでも価値交換ができたり、レバレッジやレンディング等、高度な資産管理を自動化することも可能になる。また、パブリックチェーンであることから、誰の許可もいらない開かれた金融システムが実現できる技術ということも、これまでの金融とは大きく違うところだ。
DeFiの特徴を簡潔に述べると、それは「自動的な金融」「アクセス自由な金融」「創造自由な金融」であると堀次氏はまとめる。
1つ目の自動的な金融とは、文字通りプログラムに従って自動執行される要素。金融に効率性やトラストレス性をもたらす。
2つ目のアクセス自由な金融とは、国境や立場に関係なく、インターネットに接続できる環境とスマートフォンがあればどこからでもアクセスが可能であるという点。世界には、自国通貨が信用できない国々もあるが、そういったことも関係なく、誰でも価値の交換や保管をすることができるのがDeFiのメリットだという。
3つ目の創造自由な金融とは、アプリケーションの開発や提供に大きなリソースや資格が不要であるという点。従来の金融のような大がかりなシステムを必要とせず、Ethereumのセキュリティに乗っかることもできれば、個人でコードを書いて参加することも可能だ。いきなり世界中に向けて門戸を開くことができる。また、他のDeFiプロダクトと自由に統合させることができるのも、大きな特徴であると堀次氏は強調する。
DeFiの問題点、解決すべき課題
最後に堀次氏は、DeFiの問題点についても言及する。これまでDeFiのいい点について見てきたが、発展途上であるDeFiにはたくさんの解決すべき課題も多く残されていると語る。まだまだ生まれたての赤ん坊であるというイメージを持って接する必要があると述べた。
DEXなどがはやり、近頃は取引も増え、DeFiのためにロックされる仮想通貨の額も増えてきたとはいえ、DEXの1日の取引高は世界最大手仮想通貨交換所の取引高の2%程度であるとのことだ。
またスマートコントラクトによって自動化され、非中央集権的なサービスであることが便利である反面、万が一、コードにバグがあってなんらかの損失が出た場合に、誰が責任を取るのかといった課題があることも堀次氏は課題点として挙げた。
DeFiはハッキングの恐れよりも、バグや仕様の穴を突かれて損失を出すケースが多いという。先日の新型コロナウイルス感染拡大の影響による金融市場の大暴落で生じたMakerDAOのDAIの損失は、下落幅が予想を超えスマートコントラクトが正常に動作しなかったことが理由だった(関連記事)。また、「Flash Loan」というDeFiサービスを悪用した(仕様の穴を突いた悪用)事例にも触れたが、内容が複雑なことから今回は課題があるとだけ、堀次氏は報告した。
司会進行の奥氏は、これらの事件は有名であり、奥氏も起きたことはよく知ってはいるが、その内容と理由を理解するのは非常に難しいと感想を述べた。いずれこれらも部会にてDeFiセミナーとして解説してほしいと、改めて堀次氏に依頼をした。また、堀次氏の携わるDeFiプロダクトKyber Networkも次回以降で聞いてみたいという意見も出つつ、オンラインによる定例部会は幕を閉じた。DeFiの将来に夢が膨らむ一方で、その課題点が大きいことも理解することができた。