イベントレポート
Stake DAOとは何か──「ステーキングサービスの未来は分散化にある」
Stake Capitalが創る新しいステーキング及び分散型金融サービス
2020年3月30日 09:00
本稿では、3月3日から5日にかけて、フランスのパリで開催された「Ethereum Community Conference3」(EthCC3)のセッション「The future of staking pools with Stake DAO(Stake DAOとステーキングの未来)」に関する内容をお届けする。スピーカーは、Stake CapitalのCEOであるJulien Bouteloup(ジュリエン・ブートループ)氏だ。
氏は過去数年間、ブロックチェーン業界で複数の事業に携わってきた連続起業家である。氏は本セッションにて、Stake Capitalの新プロダクトである「Stake DAO」及び分散型金融(DeFi: Decentralized Finacne)のDAOプロトコル「Arbitrage DAO」について紹介した。
※DAO(ダオ)とは、Decentralized Autonomous Organization(自律分散型組織)の略で、管理主体を持たない非中央集権組織を指す。
ステーキングとDeFi
2018年末に創業されたStake Capitalは、Staking as a Serviceを提供するスタートアップである。氏は、「Staking as a Serviceとは、顧客から預かった顧客資産をPoS型ブロックチェーンのステーキングに利用し、利益を分配する代わりに手数料を取るビジネスモデルである」と説明する。
下図は、2019年4月からの約1年間で、PoSブロックチェーンにステークされているトークンの合計価値の変化を表している。
氏は、ステーキングと類似するシステムとして、DeFiについて言及した。「DeFiサービスの中には、ネットワークにトークンを預けることで金利収入を稼げるプロトコルがいくつも存在する。これらはステーキングと類似している」という。
下図は、2019年3月からの約1年間で、DeFi市場にロックされているトークンの合計価値の変化を表している。合計価値が10億ドル(約1000億円)に到達したニュースは大きく取り上げられた。
氏は、「DeFiプロトコルでは分散化を図るため、マーケットメイカーや流動性提供者などの様々な外部主体がネットワーク内に存在する。我々はこれらの外部主体をキーパー(Keeper)と呼んでいる。Stake Capitalが目指すのは、これら複数のキーパーを束ねる分散型ネットワークを創り出すことである」と述べた。
大手取引所によるステーキング参入の脅威
ブートループ氏は、「Stake Capitalはこれまで、Staking as a Serviceプロバイダーとして3000万ドル以上のステーク資金を運用してきた実績を持つ。現在はCosmosやTezos、Loomなどのステーキングに対応し、PolkadotやEthereum2.0の準備を進めている」と述べる。
しかしながら、「問題は、メイン事業がステーキングではないことを理由に、無料でステーキングサービスを提供し始めるBinanceなどの大手取引所の参入である」と、今後の競合優位性に関する課題を打ち明け、異なるアプローチの必要性を示唆した。
Stake DAOの基本設計
以上の背景を踏まえて、Stake Capitalが辿り着いたアイディアがStake DAOだという。
氏は、「Stake DAOは、ステーカー及びキーパーに資金を委託した顧客に対し、利益を分配するだけでなく、将来的なキャッシュバックの授受を約束する独自トークン(SCT)を提供する。このキャッシュバックによって、顧客が支払うサービス手数料を実質的に無料にする」と説明する。
続けて氏は、「端的にいえば、Stake DAOは分散型のヘッジファンドだと捉えられる。そして同時に、ユーザーは同ヘッジファンドの株主になることもできる。つまりヘッジファンドからの分配利益以外に、配当(キャッシュバック)を受け取るための株式(SCT)も獲得することができるのだ」と述べる。
※配当(キャッシュバック)は配当プールから、DAIなどのステーブルコインで支払われる。
※SCTは議決権として、DAOのガバナンスにも活用される。
氏によると、Stake DAOはAragon(アラゴン)と呼ばれる分散型組織に特化したマネジメントツール上で管理されるという。現在テストネット上から参加可能で、数週間以内にメインネット上にローンチされる予定だ。
顧客の流動性リスクを保護するLToken
ブートループ氏は次に、LTokenと呼ばれる、ステーキングサービスの問題点を克服する機能について紹介した。氏は、「ステーキングでは、セキュリティ上の理由からステークされているトークンを引き出してから数週間以上、金利収入ゼロの状態で資産が凍結されてしまう。この様なタイムラグは、投資家にとって大きな流動性リスクを生んでしまう」と指摘する。
この問題に対し氏は、「Stake DAOでは、ステーク資産の提供者に対し、資産と等価かつステーキング終了後の報酬獲得を約束する独自トークン(LToken: Liquid Token)を付与する。イーサリアム2.0の場合、LETH(Liquid ETH)を提供する。LETHは二次流通市場で売買可能で、ユーザーの流動性リスクを低減することができる」と説明した。
Arbitrage DAO
最後に、ブートループ氏は新たに始動したプロダクト「Arbitrage DAO(アービトラージダオ)」についても解説を行った。氏は同プロダクトを「フラッシュローンを活用し、DeFi市場でアービトラージ(裁定取引)を行う分散型ファンド」だと説明する。
※フラッシュローンとは、一つのトランザクション内であれば、無担保ローンの借入を可能にするメカニズムである。つまり、ユーザーは担保資産がなくても、即時で大きな流動性にアクセスできるのだ。
氏は、「Arbitrage DAOはDeFiで初めてフラッシュローンを実行したプロダクトである」と述べる。同プロダクトは現在既にメインネットで稼働しており、数百件のトランザクションを記録している。
筆者の考察
初めてStake DAOのコンセプトを知ったとき、非常に革新的なモデルだと感じる一方で、規制に関する懸念が大きいサービスだという印象を受けた。なぜなら、SCTとLTokenという2種類のトークンは、前者は株式に近く、後者は証券化債権に近い性質を持っていると感じたからである。
この点に関してStake DAOチームに質問したところ、「両トークンは特定の企業によって提供されている資産ではなく、分散的なシステムによって発行及び管理される」と答えてくれた。この回答から、彼らは非中央集権性が規制回避の鍵だと捉えていることが分かる。
Stake DAOのビジネスモデルは、規制の観点では実現可能性に対し疑問符が浮かぶが、ステーキング又はDeFiサービスとしての先進性は疑う余地がない。同プロダクトは日本市場にも興味を持っており、既に日本語版のTwitterとMediumを運用している。ステーキングやDeFiに興味があり、同プロダクトに関して本稿を通して初めて知ったという人は、これを機にリサーチを開始してみるのもいいかもしれない。